大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・小悪魔マユの魔法日記・11『ダークサイドストーリー・7』

2017-07-11 06:53:30 | 小説3
小悪魔マユの魔法日記・11
『ダークサイドストーリー・7』



 こめかみから流れ落ちた汗が、頬をつたって制服の襟に達するまで、マユは何もできなかった。

 片岡先生の心は閉じている。
 いや、心を閉ざした自分の側にマユが座ったことに、不快感さえ感じている。
 こんな人に、下手に声をかければ逆効果である。
 一時的に魔法をかけて、先生の自殺を止めることは簡単だ。たとえば、先生をベンチから立てなくするとか、電車を停めてしまうとか……。
 しかし、それは一時しのぎにしかならず、不思議な出来事で、先生を余計に混乱させるだけである。
 シンディーさんの記憶を消してしまえば、先生の心は楽にはなる。でも、有ったことを無かったことにするのは、悪魔の良心が許さない。有ったことを無かったことにしたり、悪いことを良いことと思いこませることは神さまや、天使のオハコである。恋のキューピットなどもっての他である。天使の中には、これをゲーム感覚でやっているものもいる。天使のイタズラ(天使は、適切なカップリングと言うが)による恋は冷めるのも早く、結果は、離婚率と非婚率の増加というカタチで現れている……人間は、結婚に対して臆病になってしまった。そんな中で、片岡先生のシンディーさんへの気持ちは本物である。馴れ初めと、シンディーさんの死による別れまでを小説にしたら、海の底に沈んだ宝石のように美しく、悲しい物語になる。

「一番線、急行が通過いたします……」

 駅のアナウンスが、急行の間もない通過を告げた。
 レールがカタコト鳴って、列車の通過が間近に迫っていることを感じさせた……。
 先生の心は揺れていた。この特急に飛び込んでしまおうか……でも、横の女生徒は何かを察している。下手に止められたら、この子まで巻き添えにしてしまいかねない。
 片岡先生は、優しく、気配りのできる人なんだ。先生の思念が伝わってくる……。
 急行の気配は、もうすぐそこまで来ている……でも、マユはどうしていいか、まるで考えが浮かんでこない。急行の先頭車両がホームにさしかかった。

 マユは、自分でも思わない行動に出た。

 マユ自身が、急行に飛び込んだのだ。

 悪魔の勘というか、あとで思い出しても、その時は、ただの衝動だった。

「危ない!」
「NO!」

 二つの声が同時にした。
 日本語の主は、片岡先生。瞬間身体を抱きかかえられ、ホームの端を二人で転がった。
 急行は警笛とブレーキ音をさせながら、転がった二人の横五ミリほどのところをかすめ、ホームを二百メートルほど通り過ぎて、停止した。
 英語の主は、駆け寄ってきて、マユの頭を抱え、英語でいっぱい罵声を浴びせかけてきた。そのほとんどが日本語なら放送禁止になるようなスラングで、とても声の主とは思えなかった……声の主はメリッサ先生だった。
 マユは小悪魔なので、英語でまくし立てられても、しっかり意味は解る。
 「dud! hell! idiot! jerk! knucklehead! nerd! punk! shit! sissy! sly! spaz! turd! wimp! wuss!」と盛りだくさん。
「u potface……poor girl……」
 そう結んだあとで、メリッサ先生は泣きながらハグしてくれた。

 急行は、この影響で五分停車して、その日K電鉄のダイヤは一時間乱れた。かつらをやめた校長と、副担任のトンボコウロギが、電鉄会社に謝りにいった。むろん、わたしの父親(になっている人間。この人の事情は、この話の後で出てくる)も。
 マユは、身体が痛いふりをし、救急車で病院に連れていかれ、いろいろ検査をされた。片岡先生とメリッサ先生は、ずっと付き添ってくれた。

 そして、マユは、電車に飛び込むほど心に傷をおった生徒として、スクールカウンセリングを受けることになった。マユは、しばらく傷心の女子高生を演ずるハメになった。意外に、担当の悪魔からのおとがめは無かった。
 片岡先生とメリッサ先生は仲の良い……とりあえず、友だちになっていた。学校は、一時この話しで持ちきりになった。知井子などは、大感動して、日記帳に、このことを短いエッセーにして書き残した。

 で、片岡先生の授業は……

「……というわけで、接続詞の用法はわかったな」
一瞬、みんなは先生の方を向くが、すぐにそれぞれ勝手な事を始める。
マンガやラノベを読む奴。ヒソヒソ声で話している奴。中には、携帯を教科書で隠してメ-ルを打っている奴。むろん率先してやっているのはルリ子たちだけど、マユの友だち、沙耶、里依紗、知井子さえも、この授業の間は内職をやっている。

 片岡先生の授業下手は、どうやら天然のようだ。

 ただ、心は閉ざされてはいなかった。日ごとメリッサ先生の姿が大きくなってくる。
――どんな手を使ったのさ!?
 利恵が、心で聞いてきた。
――なにも、ちょっとした事故よ、事故!
――事故って?
――わたしよ。電車に飛び込んだでしょ。
――あれ、小悪魔のヘタクソないたずらなんじゃないの?
――そう思ってりゃいいでしょ。あたしカウンセリングまで受けてんだから。
――まさか……あんなアナログな、魔法も使わないやりかたで!?
――あたしたちが思っているより、人間て複雑なのよ。
――でもさ……。
――授業中だから、もう話しかけないで。お互いオチコボレってことよ!

 節電のため冷房を切った窓から、初夏の青空が見えた。
 青空の中を一羽のカラスがよぎり、瞬間カラスと目があった。

 アホー……と、カラスは一声残して飛んでいった。それは、どこに打っていいか分からずに、さまよっている片岡先生の板書のピリオドに似ていた。
 

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