大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・《紛らいもののセラ・14》愛しき紛らいもの

2017-07-17 06:23:29 | 小説4
《紛らいもののセラ・14》
愛しき紛らいもの



〔出でよハートのエース〕は急速にヒットした。

 ハイティーンの女の子の揺れる心を表現しているだけではなく、「人間は多面的で、可能性のかたまり」という人生を前向きにとらえた曲のテーマが、セラの明るいキャラとマッチして、幅広いファンの心を掴んだ。

 本当のわたし それは53枚! ハートのエースもジョーカーも みんなわたしの姿だよ🎶

 特に、このサビのところは、曲全体を知らない年寄りでも覚えるようになった。
 芸能活動と学校の両立は難しかったけど、みんなの応援と、何よりも親友の三宮月子の協力で、なんとか卒業の目途もたった。

「いつまでも、一つの体に二つの魂が居てはいけないわ」

 もう何十回目かになる問いかけを、紛いもののセラは、本物のセラにした。

 もう午前一時に近いタクシーの中である。いつものように居ねむってしまうと、本物と紛らいものとの話し合いになる。
「だって、事故からこっち、わたしをやっていたのはあなたじゃないの。地味なわたしには無理よ」
「そんなことないわ。今日の本番、あたし隠れていたのよ。〔出でよハートのエース〕をエントリーしてからは、ときどきあたしは引っ込んでいた。そして、今夜は完全にセラに任せたのよ。あなたは立派にやりとげた」
「ほんと!?」
「ほんとよ。あたしも事故直後は、この体が自分のものだと思っていた。でも違う、セラのものよ」
「でも、ここまでやったのは、あなたの力じゃないの?」
「ううん、種のないことは、わたしにはできない。53枚のトランプといっしょ。セラのカードをあたしが使っただけ。セラは、地味なスペードの2とか3とかしか使ってなかった。カードは全部あたしがめくったから、セラには無限の可能性があるわ」
「おかしなこと言っていい?」
「どうぞ、あたしも相当おかしいから」
「いっしょにいて、わたしのこと助けてくれない?」
「じゃ、もっとおかしなこと言っていい?」
「なあに?」

 タクシーは、上り坂にさしかかっていた。この夏に買ったばかりのちょっと素敵な一軒家。

「お家のリビングに、まだ明かりがついているでしょ」
「ああ、いつものことじゃん。お兄ちゃんが勉強のために起きてんのよ」
「勉強のためじゃない。セラの事が心配で起きてんのよ」
「ハハ、そんな」
「ほんと。竜介くんは、セラのことが好きなんだよ」
「え、ええ……だってお兄ちゃんだよ」

「血のつながらない兄妹は結婚だってできるんだよ」

「だって、お兄ちゃん……」
「事故の前は、お兄ちゃんて呼べなかったよね」
「だから、もう名実ともに兄妹になれたのよ」
「そうだけど、ちょっとごまかしがある……それって竜介くんに心が開けたってことの言いかえだよ」
「だ、だったら、どうだって言うのよ!」
「ハハ、とんがっちゃって」
「もう、あなたがおかしなこと言うからじゃないの」
「だから、言ったじゃない。もっとおかしなこと言っていいって」
「だけど……」
「もう時間がないから、はっきり言うね。セラと竜介くんは結ばれる」
「な、なによ、それって!?」
「そして、二人の間に生まれた子が、とても大事な役割を果たすの……言えるのは、そこまでだけど」

 セラには言い返す言葉がなかった。もう二つ角を曲がると家に着く。

「じゃ、明日から一人でがんばって!」
 タクシーを降りたはずなのに、今まで座っていた後部座席には、もう一人の自分がいて、そう励ましたので、セラはびっくりした。
「あなた……」
「あたしは紛らいもののセラだから。これでお別れ。出して運転手さん」

 タクシーはテールランプの明かりだけ、ほのかに滲ませて去って行った。

「ところで、このあたしは、いったい何者なのよ!?」
 
 紛らいもののセラはウンちゃんに噛みついた。ウンちゃん、サリエル部長天使は他人事のように言った。
「アレンジミスが起きたので、一人の天使の魂で間に合わせたわけ。天国の極秘事項だから、それ以上は言えません」
「もう!」

 紛いものは、いつの間にか自分の背中にかわいい羽根が戻って来たことに気も付かなかった……。


 
  紛らいもののセラ……完 
ジャンル:
小説
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