大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・VARIATIONS*さくら*94(さつき編)『さつき今日この頃・1』

2017-05-17 06:00:55 | 小説4
VARIATIONS*さくら*94(さつき編)
『さつき今日この頃・1』



 アッと思ったら、手のスマホが無くなっていた。

 目の前電柱一本分先を走っているカットソーとジーンズの女の子が犯人だということに理解が及ぶのに数秒かかった。
「スマホドロボー!」
 と叫ぶのに、さらに二三秒かかった。犯人はとっくに、豪徳寺の高架を抜け右に曲がって姿が見えなくなっていた。これは、もう駄目だろうという諦めが湧いてきた。と、思ったら、高架の右側から犯人が左側に駆け抜けていった。
「ド、ド、ドロボー!」
 あたしは、改めて叫んで追いかけた。なんといっても豪徳寺は地元だ、姿さえ見えていたら、路地裏の奥まで追いかけられる。

 と思って走っていると、自転車に乗った北側署の香取巡査が自転車で追いかけていた。

「一応窃盗だからね」
 香取巡査が、取調室で、あたしと犯人の両方に言った。スマホドロボーは、なんと、あたしと同じ東都大の留学生だった。
「周恩華さん、前は無いみたいだけど、単に検挙されてないだけで、初めてだったって言い訳は通用しないよ。さつきさん、どこも怪我してません? ひっかき傷でもしてたら強盗傷害になるからね」
 香取巡査は、冷たい麦茶を置きながら、首筋の汗を拭いた。使ったタオルハンカチは、その横で調書を取っている女性警官のものらしく、露骨に嫌な顔をしていた。
「怪我はしていません。スマホが戻ったら、あたしはいいんです」
 周恩華という同学の留学生は、固く口をつぐんだまま机の上を見ている。覚悟はしているようだった。あたしは、この周さんは、本当に初めてか手馴れていないのだと思った。慣れていたら、こんな豪徳寺みたいなローカルなところじゃやらないだろう。でも、なんで豪徳寺なんかに来たんだろうって、疑問は残った。
「なんで豪徳寺なんかに来たの? あなたの寮は大学の近所でしょう?」
「……佐倉惣一の家が見たかった」
「え、あたしの家!?」
「え……?」
「惣一は、あたしの兄貴。で、あたしは大学からの帰りで、スーパーに寄って帰る途中だったのよ」
「だったら、失敗するんじゃなかった」
「その発言は重いよ。反省してないし、挑戦的だし」
「あたし、被害届出しません」
「出しなさいよ。そんなことで恩にきたりしないから。麦茶、もう一杯、お巡りさん」
「可愛くないなあ……」
 そう言いながらも、お茶を汲みにいくところが、香取巡査のいいところだろう。
「はい、どうぞ。でもね、なんで佐倉さんち見に行こうとおもったわけ?」
 あたしも、それには興味があった。
「佐倉惣一は、たかやすの乗り組み士官でした。それに『MAMORI』で、佐世保沖の大虐殺の正当化をやってる!」
「そんな言い方やめてくれる。あれはC国の方が先に手を出したのよ」
「先に撃ったのは日本側」
「射撃レーダー照射されて、砲口向けたら、撃ったも同然でしょ」
「でも、C国側には撃つ気は無かった」
「アメリカなら、懐に手を突っ込んだ段階で撃たれてるわよ」
「日本の警察は撃たないでしょ。『銃を下ろせ。下ろさなければ、今度はもう一回銃を下ろせって言うぞ!』なんでしょ?」
「君な、そういうもの言いが自分の首締めるんだぞ」
「締めるんだったら締めてよ。どうせ、日本には居られないし、国に帰っても住む家もないんだから。みんなあんたのお兄さんが悪いのよ」
「冷静になろうよ、周さん」
「あたしは負けない。あたしの兄さんは、あの佐世保沖で沈められた船に乗っていたんだから!」

 目の前でシャッターが下ろされたような気がした。

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