大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・239〔2元1次連立方程式・1〕

2017-07-23 18:27:49 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト・239
〔2元1次連立方程式・1〕



「それでは、今日は、これで終わります。気を付けて帰れよ」

 佐藤先生は、そう締めくくった。いつもの通りなんだけど物足りなさを感じた。
 今日はいつもの阿倍野先生はテレビ出演でお休みで、若い佐藤先生が代講だった。若いというだけで教える技量に遜色はない。学校で理解できなかった微分・積分の基本が良く理解できた。これで明日から数学に悩まなくて済む。

 でもなにか物足りない。

「それは、あれをやらなかったからよ」
 不二子が秘密めいて言った。ちなみに不二子という、ちょっと古風な名前は親の趣味らしい。ルパン三世の峰不二子から来ている。ちなみに苗字は当然のごとく峰だ。名前にたがわずの美貌と知性に運動神経も人並み以上に優れている。ボクは古畑……任三郎とくればさまになるのだけど、拓馬と釣り合わない。保育所のころ苗字と名前をいっしょに言うと「ふるあたたっくま」になって、みんなから笑われた。
 勉強も見場も運動神経も人並みか、それ以下。だから、今の不二子の答えが分かるのに十秒ほどかかった。

「あ、そうか2元1次連立方程式やらなかったよな」

「ハハハ、拓馬らしい反応速度ね」
 不二子が笑った。阿倍野先生は、講義の終わりに簡単な2元1次連立方程式の問題を出す。中一の初歩なんで、誰でも簡単に解く。不二子なんか暗算で即答だ。
「あんなことでも、やらないと違和感だな」
「まあ、これも個性よ。佐藤先生、阿倍野先生のコピーみたいに教え方ってか、話し方までいっしょなんだもん。コピーじゃつまんない」
 と、ニベもない。

 ボクと不二子は帰り道が一緒だ。中学が同じだったから、当然と言えば当然。で二駅電車に乗ったあと、ちょっと方角は違うけど、不二子を家まで送っていく。そんな必要は、ほとんどないけど習慣と言う名の、ボクのささやかな楽しみ。不二子みたいな子とデートみたいに歩けるなんて、それも人気のない道を二人っきり。めったにあるもんじゃない。でもけして不二子にコクったりはしない。不二子は阿部寛のファンだ『テルマエロマエ』なんて娯楽作品から、シリアスなドラマまで観ている。子どもの頃に観た『坂の上の雲』がファンの馴れ初めだというのだから恐れ入る。
 ボクは、先生や親からも学校の特別指定校推薦で進学するように言われてきた。

「拓馬って、本番に弱いからさ。特推にしとけ特推に!」

 それを一般入試にこだわっているのは、こうやって、不二子と週に4回10分、塾の出口からだと25分ほどいっしょに居られるからだ。
 不二子は、中学からの友達として付き合ってくれている。それ以上でも以下でもないのは、鈍感なボクでも、微妙な距離の取り方で分かる。不二子との距離は50センチが限界だ。ごくたまに電車が混んでいて、30センチくらいになることがあるけど、ボクはドキドキするし、不二子は視線を逸らす。だから50センチ。今もそれを守っている。

 不二子の家に着く半ばあたりで80メートルほど産業道路の歩道を歩く。人気は無いと言っていいけど、車の往来が激しくて、時々50センチのタブーを破らなければ会話できないこともある。そんな時は「え?」てな感じで顔を寄せてくる。シャンプーだかリンスだかのいい香りがする。状況は、時に物理的距離を縮めてくれる。

 でも、この日は違った。気づいたらシャコタンのローリング族みたいな車が二台歩道まで乗り上げて、ボクらの前後を塞いだ!

ジャンル:
小説
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