大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・26』

2017-06-14 06:21:37 | はるか 真田山学院高校演劇部物語

はるか 真田山学院高校演劇部物語・26


出版された『はるか ワケあり転校生の7カ月』の原話ノーカット版。いかにはるかは生まれ変化していったか!?

アハハと笑いながら読み、高校演劇の基礎とマネジメントが分かる高演ラノベ! 


『第三章 はるかは、やなやつ!4』

 その日から稽古は荒立ち(台本持ちながらの立ち稽古)に入った。

 わたしは、ほとんど台詞が入っていたので、台本を持たずにやった。
 先生は、登場、退場を指示するだけで、ほとんど何も言わずに一本通した。
「まあ、こんなもんかな。最初は」
「先生、ダメ出しは?」
 汗を垂らして、タロくん先輩が聞いた。
「言うてほしいか」
「は、はい」

「ダメ!」

「え?」
「ダメ出せて言うたやろ……」
「は?」
「ギャグや。ここで笑わなんだら、どこで笑うねん」
 クスっとみんなが釣られて笑う。この先生のおやじギャグにも、慣れてきた。
 おやじギャグってのは、白けるもんなんだけど、この先生のおやじギャグは失笑と紙一重くらいのところで笑ってしまう。
 大阪では、こういう人のことを「イチビリ」という。乙女先生に教えてもらった。

「もっかい通すぞ」

 二度目は半分のところで止められた。
「台本持ってるせいもあるけど、みんな身体が硬い。みんな前屈してみい」
 タマちゃん先輩が一番柔らかく、床に手のひらがペタっと着く。
 タロくん先輩が一番硬く、足の甲にやっと届く程度。
 あとのみんなは、その中間(わたしは、指先が届くぐらい。ちょっと硬い)
「オレがやるから、よう見とけ」
 さぞや……と、思ったら、先生の手はスネの半分くらいのところでブルブル震えて、ウーンと唸って、顔まで赤くなった。
 みんながクスクス笑う。
 ようやく赤い顔を起こして、先生はこう言った。
「演劇でいう柔らかさは、こういうことやない」

 負け惜しみかと思った。

「女子は、下だけジャージ履いといで」
 女子五人は、プレゼンの狭い準備室でジャージに履き替えた。
 二三分で戻ると、先生がコンニャクのように(顔はいつもコンニャクだけどね)上を向いて寝転がっていた。
「よう見とけよ。タロくん、おれの両足そろえて持って、十センチほど上げてくれるか」
「はい」
「ほんなら、でかいコンニャク揺する感じで、左右に揺すってくれるか」
「こうですか……」
「おお……!」
 なんということ、先生の身体はタロくん先輩の「揺すり」をうけて、足から、頭へとプルンと揺れる……ってか、「揺すり」が足から頭へウェーブのように抜けていく。
「もっと小刻みに激しく」
「はい」
 先生の身体は、もう人間じゃなかった。人の形をした袋に水を入れたみたいに、プルンプルン、グニャグニャと揺れている……。

「さあ、今度は、自分らの番や」

 二人一組になってやりはじめる。女子は五人なので三人と二人でやろうってことになったとき、乙女先生が来た。
「わあ、懐かしいことやってるやん。わたしも寄せてえな」
 で、わたしの相棒は乙女先生になった。

 あちこちで、ウフフ、アハハになった。
「笑たら、あかんで、笑たら身体が緊張してもて、でけんようになる」
 たしかに笑うと、とたんに身体が液体から固体になってしまう。
「でけへんもんは、身体のどこかに緊張が残ってるさかいや。よう点検して緊張ほぐしていき。太もも、肩、首筋、案外腕とかもなあ」
 わたしは比較的、早くコツが飲み込め、我が身体の七十パーセント(だったと思う)が水であることを認識できた。
 乙女先生が揺すれるサマは……伏せ字とさせていただきます。

 次に先生は立ち上がり……ただ、立っていた?

 キョトンとしているわたしたちを尻目に、乙女先生はニヤニヤ。
「立ってるんや」
 そりゃ分かってるけどさ……。

 次の瞬間、先生の身体がそよいだ!

 なんて言ったらいいんだろう、海底にワカメかなんかがあって、そこに波がやってきて、ユラリとしたような。
 コンニャクを縦に置いて、下からプルンと揺すったように……そよいだ。
 そよぎは、さまざまに変化していった。ワカメのように、コンニャクのように、柔らかいバネのように、硬いバネのように、タンポポのように……。
「これ、宴会でやったら、ちょっとした芸になる……と、思たら拍手せんかい」
パチパチと、みんなで拍手! 先生は王様の前で芸をやり終えた宮廷芸人のようにインギンなお辞儀をした。
「それ、また、なんて言うんですか?」
 と、タマちゃん先輩。
「言い方はいろいろある。いろんな人が、言い方はちゃうけど、似たようなことをやっとる。とりあえず〈立つ〉と言うとこ」

 まんまだよ……。

「とにかく、立つのに必要な、最低の力だけで立つ。誤解すんなよ。ダラーと立ったらあかんで、ダラーと立ったら、こないなる……」
 先生が一回り小さくなった! てか、急に四十歳も歳をとったみたいな。
「なんに見える?」
「百歳のおじいちゃん!」
「砂漠で倒れかけの旅人!」
「定年の直前に、リストラ言い渡されてガックリきたおっさん!」
「そら身につまされるなあ……」
 と、先生。
「教師辞めたころ、そんな感じやったね。オオハッサン」
 これは、乙女先生。
「ああ、それトラウマ、言わんといてくれる」
 コンニャク先生にもトラウマがあるんだ……。
「ええか、どこの筋肉の力を抜いたらこないなるか。首、肩、背中、太もも、細かいとこは他にもあるけど、も一つ大きいとこは。ねねちゃん」
 少しぼんやりしていた、ねねちゃん(一年、栗本ねね)を指名した。
「ええと……」
 ねねちゃんは困った顔になった。
「腰とちゃいますか?」
 フェミニストのタロくん先輩が助け船。
「腰がどないなるねん?」
「曲がってる……」
「曲げたら、こないなる」
 とたんに、ニセモノの年寄りになった。
「腰はな、曲がるんとちゃう。落ちるねん」
 また本物の年寄りになった。
……なるほど。腰が曲がるってのは、骨盤が後ろに傾く。で、そのためバランスをとるために、背中が曲が  り、膝が前に出るんだ。
 だから、単に腰を曲げただけでは年齢感は出ないんだ。
ジャンル:
小説
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