大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・トモコパラドクス・97『友子の修学旅行・3』

2017-05-18 06:14:42 | トモコパラドクス
トモコパラドクス・97 
『友子の修学旅行・3』
        

 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかし反対勢力により義体として一命を取り留めた。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 久々に女子高生として、マッタリ過ごすはず……今度は、忘れかけていた修学旅行!

#……初日は東京・横須賀!?

 修学旅行の初日は、十班共通で東京だった。

 それも、皇居前広場から始まった。
 なんで東京の学校である乃木坂学院が東京なんだ!?
 みんなに、そんな空気があったが、二重橋の前で班ごとの集合写真を撮ったところから始まった。

 写真の後、全員が集められ、一人の小柄な和服の老人の話を聞いた。
「みなさん、こんにちは。わたしは田中米造といいます。田んぼの中で米を造ると書きます。文字通りのドン百姓のジジイであります」
 不思議なことに、米造ジイチャンの声はマイクも使わないのに、八百人の生徒みんなに聞こえた。
「日本の首都は東京……だと思われています。ところが憲法にも法律にも、東京が首都だとは書いておりません。明治の最初に『江戸を持って東京となす』という太政官符が出されただけです。今みなさん笑いましたね。わたしがトウケイと発音したからでしょう。トウキョウは俗称なんです。国鉄がJRになったとき、山手線をE電などと改称しましたが、誰も使わないので山手線のままになっています……正確にはヤマノテセンと発音します。ヤマテセンと発音するのは地方の方が多く、ちょっと前は、この言い方で江戸っ子かどうかのテストになったぐらいで……」
 と、くだけた話から入っていった。
「日本の首都は、ほんとうは大阪と九分九厘決まっていました」
 意外な展開。
「前島密(まえじまひそか)という青年が大久保利通に手紙を出しました。大阪は放っておいても発展するが、江戸は武士が居なくなれば衰退し、将来の発展を考えれば大阪では狭すぎると。で、例の太政官符になり、明治天皇が『ちょっと行ってくる』ぐらいのノリで東京にきました。だから、京都の人は天皇陛下が京都に来られることを『帰ってきはった』と言います」

 米造ジイチャンは、この日本的な曖昧さが日本だと言っている。飄々としているが含蓄がある。

「明治になるとき、ま、昔は封建社会から明治絶対主義への移行などとマルクス主義的な説明をムリクリしました。ま、革命なのかもしれません。実は倒される側の幕府の方がお金も組織も軍事力でも勝っていました。人数に例えれば、わたし一人と、みなさんぐらいの差になります。で、勝負したら、このわたしが勝ったようなもんです。まるで魔法です。その後の戊辰戦争を通しても死者は一万人を超えません。幕府の本拠地であった江戸城も一滴の血も流さずに明け渡されました。世界史的にはまるでマジックです。あなたたちは、そのマジックの本拠地にいるわけです。ワハハ」

 それから、私たちは大小十五台のバスに分乗して東京をあとにした。

 三分の一が、横須賀の戦艦三笠に向かった。案内役は、まんま田中米造さん。
「いま見ればチャッチイ船ですが、これを日本は六隻しか持っていませんでした。日本海海戦の時は四隻に減っていました。その、たった四隻の戦艦を中心に連合艦隊を組み、ほとんど倍のバルチック艦隊をやっつけました。世界の海戦史上唯一の完全試合でした……」
 田中さんが舳先の方を指差すと、三百に近い生徒たちから、どよめきがおこった。
「田中さんやるね……これ、イリュ-ジョンだわ」
 滝川さんが呟いた。
 友子は、麻衣の脳にシンクロさせて、そのイリュ-ジョンを見た。

 敵艦隊六十隻が間近に迫り、敵弾が巨大な水柱をあげ、あたりに落ちる。
「長官、まだですか!?」
 参謀の声に東郷長官は答えない。
「距離9500!」
 測距士官が叫ぶ。中には被弾する艦も出てきた。三笠の至近にも弾が落ちる。露天艦橋の上は水浸し、至近弾の破片で負傷する者もいる。
「距離8000!」
 東郷は、高く右手を挙げ左に振った。
「左舷160度、とーり舵!」
 艦長が、それをうけ、航海長は舵手に命じた。
 これにより、東郷の艦隊は敵艦隊の頭を押さえ、すれ違いの戦いから同行戦に持ち込み、圧倒的な命中率で、バルチック艦隊を壊滅させた。
「日本は、この日露戦争をやるのに国家予算の五倍の借金を外国からしました」
「でも、この戦争は勝ったんでしょ?」
 社会科好きの男子が聞いた。
「野球は何回までありますか?」
「あ、九回です……」
「そう、この戦争は、それを五回で止めたようなもんです。勝った状態でアメリカがタオルを投げるように外交で確約をとっていました」
「じゃあ……」
「そう、綱渡りのような戦争でした」
 イリュージョンは、刺激が強くならないように、半透明になり、音は1/5程に絞られていた。

 この戦争のあと、日本は国策を誤る。勝ったと誤解したのである。最大の資金提供者であった欧米のユダヤ人に見返りを与えることをせず、少しずつ日本は世界の反感をかい、孤立の道を進んでいく。
 その完全試合の三笠の艦上にいても、戦闘は悲惨だった。二百人近い兵士が死に傷ついていった。
 乃木坂学院の生徒は、明治という時代。そこに奇跡のように咲いた日本という国を感じた。そして、勝った側でも、こんなに悲惨な戦争というものを田中イリュージョンで知った。

 その夜泊まったホテルからは、横須賀港が見渡せた。田中さんに教えられ、第七艦隊と海上自衛隊の区別も付き、現代日本の置かれている立場をなんとなく理解した。

 そして、大方の生徒は、イリュ-ジョンの影響でうなされた……。
 

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