大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・《紛らいもののセラ・5》 一歩前へ

2017-07-08 06:20:02 | 小説4
 《紛らいもののセラ・5》 
一歩前へ、自分から



 予想どうり奇異の目で見られた。

 露骨に口に出して言われることはなかったが、始業式の学校で、セラは良くも悪くも時の人だった。
 興味の持たれ方はは二種類だ。
 あのバス事故から無傷で生還したセラへの畏怖の混じった興味。もう一つはSNSで出回った、事故現場で献花するセラと、家のリビングで大口開いて団子を頬張るセラとのギャップに対してである。

――へえ、あの子がね――両者の気持ちを言葉にすると同じになる。

 簡単に言えば野次馬根性ということではいっしょだった。
 そう割り切るとなんでもないことだった。
「セラ、大丈夫……?」
 セラの数少ない友達の中でも、三宮月子だけが親身に声をかけてくれた。
 月子は元皇族の家系で、ひところ元皇族家の復帰ということが取りざたされたときに、ひと月ほどマスコミに付きまとわれたことがある。直ぐに女系の元皇族は埒外という世論が大半になり、マスコミは興味を失ってしまったが、月子はその間ノイローゼ寸前で、普通に語り合えたのはセラ一人だった。
「校長室にいくわ」
 そう言うと、月子は校長室の前まで付いてきてくれた。

 校長は無事を喜んでくれた。

「本当に無事でよかったね。でも39人の方々が亡くなられました。その人たちのご冥福を祈りながら、実りある学校生活を続けてください。なにか精神的に、その、困るようなことがあれば言ってください。わたしも相談に乗るしカウンセラーの先生にも相談できるからね」
 校長室は、そのあとマスコミの取材を受けることになっていた。喜んでくれてはいたが、半ば学校としてのアリバイ工作。
 月子に話すと寂しそうにしていたが、校長という立場上仕方ないと言うと、月子は意外な顔をした。
「世の中には、絶対の善意や心配なんて、あるもんじゃないわ。校長先生や北村先生は、半分は本気で心配してくれていた。わたしは、それで十分だと思う」
 教頭のアデランスだけが違ったことは月子には言わなかった。
「セラ、なんだか大人になったね」
 月子の一言が、一番身にこたえた。

 その夜、Tテレビから電話があった。三連休の中日に、テレビに出て欲しいというのである。

「ようこそ、徹子のサンルームに。来ていただけないかと心配したんですけど、亡くなられた方々と、僭越ですけど、セラさんのためにもお呼びしておこうと思ったんす。本当にありがとうございます」
「いいえ、こちらこそありがとうございます。徹子さんご自身からのお電話なんでびっくりして、そして、本当にわたしのことを思って声を掛けてくださったことが分かりましたから」
「あの、お団子食べてる写真て、あきらかに盗撮ですもの。それも、こんなことを言ってはなんですけど、プロが撮ったとしか思えませんもの。あのままじゃあんまりだと思って、お節介させていただきました」
「ありがとうございます。あれは家に帰ったばかりで、世話をしてくれた兄の方がまいっていましたし、母も心配していました。元気なところを見せたかったことが本心です。あ、いいかっこじゃなくて、ほんと家に帰ったら急にお腹が空いてきたことも確かなんです」
「そうよね。だいいち自分の家で、どんなふうにお団子食べようが自由ですもんね。それに、そんな気配りがちゃんとあって、それをあんな風に盗撮してSNSに載せるなんて、ほんとに卑劣なことだと思います。同じ業界の者としてお詫びいたします。
 猫柳徹子は深々と頭を下げた。
「そんな、徹子さんに頭を下げていただくようなことじゃありません」
 セラには分かった。自分が頭を下げることで、写メを撮った業界人を遠まわしに非難して、セラにはなんの悪意もないことをテレビを通じて表明しているのだ。業界でも影響力のある自分がやっておけば、世間は納得の方向に変わっていく。

 放送が終わると、猫柳はプライベートで言った。

「セラさん、あなた今度のことで声を掛けてくる芸能事務所とかあるかもしれないけど、絶対のっちゃダメよ。セラさんハーフで可愛くって、話題性もあるから、そういうところ出てくると思う」
「大丈夫です。そんな亡くなった方々を踏み台……いえ、踏みつけにするようなことはしません」
「そう、安心したわ。もし何かあったら遠慮なくあたしのとこに電話してきて、力になるから」
 そう言ってメアドの交換までやった。

 そして、猫柳の心配は数日後には現実のものになった。

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