大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ライトノベルセレクト『黒髪のロング』

2017-07-29 18:37:20 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト
『黒髪のロング』
          


 イテ!! 

見かけによらないボクの声と、男のような言いように車内の視線が集まった。


 ボクのポニテールの先が、無意識だろうと思うんだけど、出口の手すりパイプにいっしょに握っちゃった大学生風がいた。
 乃木坂の駅で降りようとしたら、引っ張られてしまって、五六本髪の毛が抜けたような痛みを感じてしまい、つい、家に居るときのような男言葉風に「イテ!!」になっちゃった。
 学生さんは「あ、ごめん。気がつかなくて。ほんとごめん」とてもすまなさそうにボクの顔を見て謝った。
「気いつけてよね、髪の毛も身のうちなんだから!」
 そういうと、大学生風が握ったままの髪の毛をふんだくって、ホームに降りた。
 
 坂を登って、校門をくぐり、朝礼が終わって、一限の柚木先生に注意されるまで、ボクはブスっとしていた。
「あら、尾形さんなにむくれてんの。美人が台無しよ」
「あ、どうもすみません。考え事してたもので。気を付けます」
 ボクは、やっと、この乃木坂学院の女生徒として恥ずかしくない言葉で喋ることができた。

 言っとくけど、ボクは男でもなければ、ブスでもない。この春に憧れの乃木坂学院高校に入った十六歳の女子高生だ。

 ボクの兄弟は上三人がみんな男で、ボク一人が女だ。あ、それとお母さんとネコのショコラ。兄貴たちはボクがチッコイころから女扱いはしなかった。キャッチボールもサッカーも兄貴たちといっしょだった。小学校二年までは平気で上半身裸で走り回っていた。当時は髪も短く、世間の人もボクが女の子だとは思ってはくれなかった。

 三年になりかけのころ、女子トイレに男子がいると評判になり、気がつけば自分のことだった。
 で、一人称も兄貴たちに影響されて「オレ」になりかけていた。で、「オレ」だったボクは、クラスでいつもメソメソして、なにかというと「美香できないもん」とべそをかく羽室美香がかったるくて、跳び箱の前で泣いている美香を「後がつかえてんだ、メソメソすんじゃねえよ!」「だって……」そのナヨナヨぶりに思わず手が出てしまった。運悪く、その日は爪の検査があったので、ざっくりとした切り方しかしていなかったボクは美香のホッペに三本の赤いスジを付けてしまった。
 親が菓子折持ってボクを引っ張って、謝りに行った。

 そして、その日からリカちゃん改造計画が始まった。リカちゃんといってもお人形ではない。ボク尾形里香のことだ。一人称も「わたし」にかえられそうになったが、三回も舌を噛んで口を血だらけにしたので、「ボク」という線で落ち着いた。スカートを穿かされそうになって逃げ回り、初めてスカートを穿いたのは中学に入った時が最初だった。
「こんな気持ちの悪いもの穿いて、よく平気だな!?」
 あの事件以来、仲のよくなった美香に言うと、ボクの影響で少したくましくなった美香に言われた。
「あんたの方が、変態なのよ!」

 で、リカちゃん改造計画の柱が、長髪化だった。小三の事件からこっち、前髪以外は切らせてもらえなくなった。ボクは、母親似の素直な黒髪で、顔立ちも整っているのだ(そうで) 美香のお節介もあって、中一の二学期には、TPOを使い分け、大人や目上の人には「わたし」と舌を噛まずに言えるまでに成長した。

 夕べ、短パンで座卓の上のパソコンで遊んでいたら、テレビゲームしていた下の兄貴の視線を股間に感じた。
「あの、里香さ、短パンのときは又開いて、膝立てるのやめとけよ」
「なんでさ!?」
「そりゃあ……」
「ナマパン見えて、祐三には目の毒なんだよ」
 中にいちゃんが言った。
「だって、風呂上がり、パンツ一丁で歩いていてもなんとも言わないじゃん」
「あれとこれとは違うんだよ」
 中にいちゃんまで同じ目つきでボクの股間を見つめた。なんだかきまりが悪くなって、そろりと正座すると中小二人の兄貴が爆笑した。ボクは腹立たしかった、そして、なにか胸の中の得体の知れない物が体をカッカさせた。そのときの不快さが朝まで残り、気がついたら、地下鉄の中で大学生風に罵声を浴びせることになった。

 美香は、クラスは違うけど、中学以来のテニス部で頑張っていた。マニッシュな新入生だと評判だから、世の中は皮肉なもんだ。放課後、図書館でぼんやり美香のテニスを見ていてウラヤマになった。ボクは、なんの因果か演劇部。顧問の柚木先生のすがりつくような目に負けた……。

 そんな想いや、美香の姿で吹っ切れる物があった。

 というわけで、ボクは美容院セイレンのシートに収まっている。

「どうしても切ろうって言うのね……」
「はい、ボ……わたし決心したんです。自分のスガタカタチは自分で決めます」
 美容師の睡蓮さんは、まだ踏ん切りがつかない。
「せめて、セミロングでワンカールミックスパーマにするとか……」
「いいんです!」
「で、電車の中で抜けた毛は?」
「あ、なんだかもったいないんで、袋に入れてあります」
「これ、わたしが預かっていい?」
「サンプルにでも?」
「いいえ、お祀りしとくのよ。髪には、里香ちゃんとかかわりなく髪の神さまが憑いていらっしゃるんだから」
「プ、ギャグですね」
「バカ!」

 そう言って、睡蓮さんは涙目で、ザックリとハサミを入れた。

 正直すっきりした。家族にはあきれられたが、十六にもなれば髪ぐらい自由にさせてもらいたい。その気持ちが伝わったのか、中にいちゃんも短パンで立て膝していても何も言わなくなった。やっぱ、ボブにして正解だった。
 学校での評判も上々。でも調子にのって体育の時間に木登りをしたら、さすがに叱られた。

 秋になった。

 その日は、演劇コンクールの練習のために、稽古が遅れて、自宅近くの駅に着いたら十時をまわっていた。一応スマホで、帰りが遅くなることは伝えてあるがボク少女を心配するような家族ではなかった。

 いつもの道を通ろうかと思ったけど、近道を通ることにした。ちょっとした工場街には人影は無かった。角を曲がると、アパートがあって、公園一つ隔てていつもの道になる。
「あれ?」
 こないだまで……って、夏休みのころだけど、通ったころは、まだ人が住んでいた。建て替えるんだろうか、アパートのどの部屋にも人の気配がなかった。よく見ると、軒並みガスを閉栓したタグがついていた。
 ガラっと音がして、一軒の部屋から三人の男が飛び出してきた。あっと言う間に口を塞がれ後ろ手に縛られ、部屋の中に連れ込まれた。ひとりの手が口から首に回った。一人を思いきりけ飛ばした。それが男たちの欲望に火を点けた。首に回った手は本気で締めてきた。ブラウスの前が引きちぎられ、スカートの中に手が伸びてくる。意識が遠のき一瞬頭が真っ暗になる。
 死んだと思った。
 すると、ドタンバタンと音がして、急に楽になった。気づくと四人のわたしが立っていた……。

「さあ、里香、あとはわたしたちに任せて、早く家にかえりなさい!」
「さあ」
「早く」
「帰って!」
 わたしは、後ずさるように、玄関に向かった。薄暗がりの中、男三人が伸びているのが分かった、そうして……もう一人倒れているような気がした。
「玄関閉めて!」
 リーダー格のボクが叫んだ。そして、家に帰って驚いた……髪が元の長さにもどっていた。

 コンクールは、予選で優勝、中央大会では落ちた。

 その日は落ち込んだが、やっぱり若さだろう。明くる日は元気に後始末をし、明くる日の休日には、久々にセイレンに行ってトリートメントをしてもらった。
「ね、この髪不思議でしょ。一晩で元の長さに戻ったの」
「そう、不思議ね。でも、里香は黒髪のロングが似合う。それが分かれば、ただの不思議でいいじゃない」

 その帰り道、わたしは何かを確かめたくて、また、あのアパートの前に行った。むろん人通りのある時間帯。

 そこは、とうに更地になって、何も確かめることは出来なかった。

 え……いま自分のこと、わたしって言った……?

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