大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・VARIATIONS*さくら*90『長徳寺の終戦・3』

2017-05-13 06:15:00 | 小説4
VARIATIONS*さくら*90
『長徳寺の終戦・3』
 (さくら編)


 たまに高射砲に当たって落ちてくる米軍機がいる。

 間抜けとも不運とも言える。高射砲というのは時限信管で、弾が一定の高度に達したときに爆発する。だから、今のミサイルと違って、相手目がけてとんでいって爆発するようなシロモノではない。直撃なんか、まずありえない、爆発半径10メートル以内に飛び込んできて、運悪く、その弾片を食らったものが落ちてくる。
 で、その不幸……と言うより間抜けの部類に入る飛行機が落ちてきた。正式にはP38ムスタングっていうんだけど、みんなは、省略してP公と呼んでいた。
 日和山の高射砲陣地には、それまで敵機を一機も落としたことのない高射砲陣地があった。ま、八王子まで飛んでくる敵機はあまりいないので、チャンスにも恵まれなかったこともある……というのは日和山の兵隊さんの言い訳であるとみんな思っていたが、予備役の隊長さんや、どう見ても応召のオッサンの兵隊さんに悪いので、米軍機も性能がよくなったし、とか、威嚇の役割は十分果たしていますよ。などと、取りようによってはオチョクリになりそうな慰めの言葉をかけていた。でも、日和山の隊長さんも兵隊さんも怒ることもなく、頭を掻いているだけだった。

 それが敵機を落としたのである。陣地の兵隊さんも、里の村人も茫然だった。

 敵機が間抜けと言うのは、パイロットが脱出して決定的なものになった。なんと敵のパイロットは、長徳寺の本堂の上に降りてきてしまったのだ。屋根のてっぺんに落下傘がひっかかり、降りてくることができない。なんとか落下傘は外したけど、小なりと言えどお寺の本堂。とても飛び降りられる高さではない。
 そのうち、村人や憲兵さんたちがやってきたが、容易に手が出せない。敵のパイロットは拳銃を持っているのである。パイロットは大汗をかきながら喚いている。だが意味が分からない。
「この暑いのに、あれじゃ、半日ももたねえよ」
 かづゑの父が長閑に言った。兵隊さんたちも下手に本堂の大屋根に上るのは得策ではないと手をこまねいている。だれも口に出してはいわないけど、日本の劣勢は明らかで、捕虜には死んでもらいたくはない。

 で、かづゑがセーラー服にモンペ姿で、大屋根にあがることになった。女学校4年のかづゑは、一年だけ英語の授業を受けたことがあるので、選ばれてしまったのである。
「ハウ、ドウユードウー。アイム、ア、エルダードーター、オブ、ディステンプル。スクールガール。OK?」
「ヤー、アイム、マイク・ルーニー。キャンユー スピーク イングリッシュ?」
「イエス、アイ キャンスピーク リトゥル。アーユー、サースティー?」
 そう言って、かづゑは水筒を差し出した。マイクは弱っていて、水筒を落としてしまった。とても悲しそうな顔になった。
「アーユー サッド?」
 マイクは、力なくうなづいた。かづゑは頭の回転のいい子であった。
「すみませーん。そこの消防ポンプのホース、投げてくれません!」
 村人が、ホースの口を投げあげ、兵隊たちが、手押しポンプを漕ぐと、ホースから勢いよく水が吹き出し、本堂の上に虹がかかった。マイクも日本人も一瞬感動した。かづゑは、マイクに水をかけてやった。
「オー ナイス。カムファタブル!」
 マイクは、素直に喜び、直にホースの口から水を飲んだ後、真上に向けて水を撒き、さっきより大きな虹が本堂の上に現れた。

 その虹は、CG処理され、三越紀香のときよりも盛大な虹になった。

 スタッフと、マイク役のジョ-ジの提案で『長徳寺の終戦 ファーストレインボウ』と改題された。
 この後、終戦の日に防空壕を掘るという間抜けたエピソードが入り、クランクアップになった。

 このピンチヒッターで入ったドラマが意外な反響を呼び、さくらの運命を変えることになるかは、だれも想像ができなかった。
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