大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・時かける少女・57『耳なし芳一か!?』

2017-05-18 06:19:55 | 時かける少女
時かける少女・56 
『耳なし芳一か!?』 
       

 昭和二十年四月、前月の大空襲で肺を痛めた湊子(みなこ)は、密かに心に想う山野中尉が、沖縄特攻で戦死するまでは生きていようと心に決めた。そして瀕死の枕許にやってきた死神をハメた。死と時間の論理をすり替えて、その三時間後に迫った死を免れたのだ。しかし、そのために時空は乱れ湊子の時間軸は崩壊して、時のさまよい人。時かける少女になってしまった……今度は、正念寺というお寺の娘の光奈子になり、演劇部員だ。


 こないだ亡くなったばかりのひなのが、何冊も文学書を積み上げて……一心不乱に読んでいた。

「ひなの!」
 そう声を掛けると、ひなのの姿は、フッと消えた。まるで幽霊だ。
 浄土真宗においては幽霊は存在しない。死んだら、善人も悪人もみんな往生して極楽にいく。まあ、その是非はともかく、光奈子には、ひなのが見えてしまったのである。

「それはね、心理的な残像よ」

 気にしながら家に帰り、玄関を開けようとすると、後ろから声がかけられた。
「美保……」
 振り返ると、美保姿のアミダさんが立っていた。
「着替えたら、本堂に来て」
 そう言って、さっさと消えてしまった。

「なによ、心理的残像って」
「光奈子、須弥壇のお明かし(ろうそく)点けてくれる」
「いいわよ、そろそろ日没偈(にちもつげ)の時間だから」
「その、お明かしをじっと見て……そして内陣の暗いとこに目を移して!」
「あ……」
「どう、ろうそくの火が、まだ見えてるでしょ」
「ああ、これが残像ね」
「そう、じっと見ていないと残らないの」
「人間にも、こういうことがあるってこと?」
「そう、日頃から光奈子は、ひなののことを気に掛けていた……ライバルとしてね」
「え、ただの友だちよ。むろん良い意味だけど」
「お父さんの、お仕込みね。邪心を持って人を見るべからず」
「でも……」
「ひなのが居たから、楽しかったし、がんばれもした」
「う、うん……」
「簡単に言えばライバル。だから他の人より、ひなののことはよく見ていた。それにね、空間や時間だって、人や事件を記憶する……残像として残すことがあるの。ひなのは、よく図書室にも通っていた」
「……だから見えたのか。ただの幻かあ」

 光奈子は、お明かしに火を点けたマッチをもてあました。

「人の残像は、時に意思を持っている。だから、ときどき残像なのに生きてる人間に影響することがあるの」
「ひなのが?」
「キザな言い方だけど、ひなのは光奈子の中では、まだ生きている」

 それは、何となく分かる。火葬場で、ひなのの骨拾いをしたとき、その灰のような遺骨にひなのを感じることはできなかった。すぐ後ろにいるような気がしたものだ。

「じゃ、またね……」
 美保が行きかけた。
「ねえ、いつまでその女子高生のナリでいるつもり?」
「当分。気に入っちゃったから」
「アミダさんて、そういう趣味?」
「この格好だから、友だち言葉で話せるんじゃない。でしょ?」
「ん、まあ、そうだけど、そこまでカワイクする必要あんの?」
「あなたたちの努力目標になってあげてるの。ウフ、じゃあね」

 正直、ふざけたアミダさまだと思った。

「わあ~、こんなの覚えられないよ!」
 五回目のトチリで、碧が音を上げた。
 台詞が多いのである。50分近い芝居の90%が、碧演ずるところの、クララの台詞である。
「紙に書いてみようよ」
 光奈子は、思わず口にした。心の底で、ひなのが言ったような気がした。
「これ、全部!?」
「うん。だって作者は、何もないとこから、それ書いたんだよ」

 で、みなみと美香子に手伝ってもらって、交代で音読し、碧が、一人で紙に書き写した。
「こうすると、覚えにくいところが、分かってくるよね……」
 最初はプータレていた碧だが、それなりに意義を感じ始めていた。
「これを、コピーして、部屋中に貼っとくの。そうしたら覚えられるから」

 で、明くる日稽古場に行くと、碧が、こう言った。

「あ、光奈子の体中に台詞が書いてある!」
「あたしは耳なし芳一か!?」

 確かに、残像効果はあるようだ……。

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