大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・4・なんだかなあ……

2017-05-14 06:36:10 | 小説・2
オフステージ(こちら空堀高校演劇部) 
  なんだかなあ……
                   


 空堀高校は、見かけの割に充実したバリアフリーである。

 各フロアーごとに身障者用のトイレが完備、校内のドアの半分は車いすでの通行が可能で、そのいくつかには点字以外に音声案内まで付いている。エレベーターも早くから導入され、去年からは新型への更新も始まって、今では、バリアフリーのモデル校の指定を受けるほどになっている。

 この充実ぶりには訳がある。

 大正の末年にできた空堀高校は第一次大戦の好景気や教育熱心な時代の気風で、敷地にも校舎にも余裕がある。
 それで全く新規の学校を建てるよりも、一ケタ少ない予算で完全なバリアフリーができるのである。慢性的に財政難な大阪府にはうってつけな学校であったのだ。

 沢村千歳は、そんな情報をもとに空堀高校に入学した。

「なんだかなあ……」

 入学して4週間、すっかり口癖になった「なんだかなあ……」をため息とともに吐き出した。
 車いすの千歳にも申し分のない設備で、先生もクラスメートも親切に接してくれる。
「沢村さん、入る部活とか決まった?」
 今日も担任の村上先生が聞いてきた。
「いろいろ目移りして、なかなかです」
 もう100回目くらいになる答えをリピートした。
「あ、そう。なにか決まればいいわね」
 そう言って、村上先生は職員室に引き上げて行った。

「えと……部活とかもがんばりたいと思います」

 自己紹介で、うっかり言ってしまった。1分間の持ち時間を持て余していたからだ。
 その気になればいくらでも喋れたが、ピカピカの同級生たちは反応が薄かった。入学したてで緊張してもいるんだろうけど、これは元からこうなんだろうと思った。
 人への興味が薄く、薄い割には簡単に人をカテゴライズしてしまう。リア充、ツンデレ、ヤンデレ、オタク、モブ子、マジキチ、他色々……。
 カテゴライズされてしまえば、それ以外の属性では見られない。
 千歳は、足が不自由だけど、頑張るリア充ということになってきている。
 ほんとうは部活なんかに興味はなかった。最初に担任の村上先生が言った「空堀には30あまりの部活があります。きみたちも、ぜひ部活に入って、高校生活をおう歌してもらいたいものです。そもそも部活というのは……」
 5分ほどの演説の中で数十回繰り返された「部活」「がんばる」という言葉が刷り込まれて、つい出てきた言葉なのだ。

 リア充と思われると、リア充として振る舞わなければならない。

 そんなシンドクサイことは願い下げだ。

 千歳は、ある決心をしていた。でも、その決心は口に出してしまっては顔に出て悟られそうなので、言わない。
「クラブ見学とか行くんやったら、押していくよ」
 くららが笑顔で寄って来た。なにくれと千歳の世話を焼きたがる真中くらら。悪い子ではないけどリア充としてしか会話が成立しない。
「ありがとう、今日は図書室行くから」
「そうなんや、沢村さんて、どんな本読むんやろなあ? また話聞かせてね。あたしクラブ行ってるさかい」
「うん、またね」

 そうして、千歳はエレベーターに乗って図書室を目指した。

 エレベーターが上昇するにつれて、決心が、さらに強くなっていく……。
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