大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・時かける少女BETA・39《コスモス坂から・12》

2017-08-09 06:13:07 | 時かける少女
時かける少女BETA・39
《コスモス坂から・12》



「どうして北C国の犯行が予見できたんですか?」

 マスコミの質問を要約すると、この一つになった。
「わたしは、小説を書くために資料を集め、情報のネットワークを持っています。そこからの情報としか申し上げられません」
「で、その情報源は?」
「申し上げられません」
 おおむね、この会話で終始した。
 
 芳子自身、実のところ勘とか閃きとしか言いようが無かった。でも、秘密めかしくしておくことで、有りもしない組織を感じさせ、これからの自分の言動を大きく意味のあるものにすることができた。

「芳子と付き合ってると、CIAのエージェントと思われちまった」
 というアメリカの軍人や外交官も少なからずいた。芳子の交友関係は、8か国数十人にのぼったが、実際は単なる軍人や企業家、外交官などの趣味を通じてのお友だちにしかすぎなかった。しかし、政治家を含め日本の権威と言われる組織や個人をけむに巻くには十分だった。芳子の外人の友人たちも「この中に、本物の諜報関係者がいるに違いない」と思わせたほどである。

「芳子のおかげで、うちの日日新聞の人事が一掃されたぜ」
「でも、実売部数は増えたでしょ。お兄ちゃんも出世したんじゃないの?」
「そういう話は、全部断った。オレは一生現場の記者だ。しかし、今度のことで日日新聞は変われたよ。礼を言う」
 勲は、J国倭国版と揶揄された姿勢を180度転換。取材と資料に基づく公正な新聞へと変貌していった。
 妹久美子の亭主、真一も、やがて党の議員となり、空想的社会主義者と言われていた井土玉子らの勢力を一掃し、S党を地に足の着いた健全な野党として再建していった。

 そして、なにより北C国の拉致を初期段階で止められたことである。すでに拉致されていた十数名もC国の幹部に回りまわって影響を及ぼす。つまり不正蓄財や、権力行使の尻尾を掴むことによって、北C国に釈放させたのである。

「よっちゃん、オレ総理大臣になっちまった!」

 喜びと驚き半々で、真一が芳子に電話してきたのは、94年の秋のことであった。衆参同時選挙でJ党は大敗を喫したが、政敵であったS党と連立を組むという離れ業で政権に残り、なんとS党の党首になっていた真一が総理に担ぎ上げられた。
「ちょっと外国人の口から、日本のことを言ってもらうよ。まあ、お楽しみに」
 真一は、アジアを中心に精力的に外国を回り、いかに世界が日本に期待しているかを外国の元首の口を通して言わしめた
 真一は、アジアはご近所の三か国だけではないことを日本人に印象付けた。真一は自分の代では無理でも、のちのち憲法を改正できるように布石をうちつつあった。

 そんな真一の政権が、ようやく軌道に乗り始めた、95年1月17日に阪神淡路方面で巨大な地震が起こった。

 内閣が発足したときに作っておいた内閣危機管理体制が有効に働いた。
 地震発生5分後には阪神地区の自衛隊に災害出動を命ずると共に、実質的な指揮権を危機管理室次長に一元化した。米軍から海上輸送基地としての空母派遣の打診があり、真一は次長の意見に従い打診を受け、空母はあくる日には神戸沖に達し救助や支援物資の中継基地として、その役割を果たせた。
 自衛隊の初期活動が早かったので、二次火災も最低に抑えられた。

 死者は1500人に抑えられた。大半が建物の倒壊による犠牲者で、火災による死者は僅かだった。それでも、野党やマスコミから叩かれたが、国外の専門家から、この規模の地震なら1万人近い犠牲者が出ても不思議ではない。そう言われて国内の世論は、批判から賞賛へと変わっていった。

 秋になって、ようやく一日の休暇が取れ、真一夫妻と勲はコスモス坂にやってきた。

「お姉ちゃん、ただいま!」
 久美子の声に応えはなかった。
「あれ……」
 30分ほど芳子を探した。でも、ついに見つからなかった。

 コスモス坂は、名前の通り坂一杯のコスモスが浜風に揺れるばかりだった。


※:この話はフィクションであり、現実に存在する組織個人とは無関係です 
ジャンル:
小説
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