大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・時かける少女BETA・14《アナスタシア・10》

2017-07-15 06:42:01 | 時かける少女
時かける少女BETA・14
《アナスタシア・10》
          


 北樺太とウラジオストクは一か月で、アナのロシア帝国に帰属した。

 もともとがロシア帝国の領土であり、ソヴィエトの力も、ここまでは及んでいなかった。この地域に住んでいたロシア人は帰属する国家が消滅し、オロオロしているところに、アナが艦隊を引き連れて現れたのである。ほとんど何の抵抗もなくアナは掌中に収めることができた。

「東郷提督、ありがとうございました」

 無事入港を果たしたとき、デッキに一緒に立った東郷平八郎に、改めて礼を言った。
 日本は第一次大戦が始まると、同じ連合国として日露戦争で鹵獲した艦船の半分をロシアに返し、それらは事故で失われたもの以外はソヴィエトのものになってしまっていた。
 そこで、残りの6隻の艦船をアナの新生ロシア帝国に返還、急きょロシア極東艦隊が再編され、いまこうして、ロシア海軍旗を掲げ、ウラジオの港に入港している。むろん日露戦争から10年以上もたち、戦闘艦としては陳腐化していたが、新生ロシア帝国の威容を誇るのには十分だった。アナが乗っているレトウィザンを始めロシア艦隊の後ろには日・米・仏の艦隊が控え、瞬間的ではあるが、東洋一番の艦隊になっていた。
 港では残留していたロシア人、西からウラル山脈を越え、はるばる逃れてきたロシア人、在留外国人たちが歓呼の声で、この東洋一の艦隊を出迎えた。
「登舷礼ヨーイ、総員上甲板」の号令がかかった。
 東郷は、この日のために日本中から亡命ロシア人の若者を集め即席のロシア海軍の軍人したてようとした。しかし亡命者の中には老若取り混ぜて本物のロシア軍人がかなり混じっており、各艦の大半は彼らで占められた。
 ただ、各艦ともに相当改造されており、ロシア人の慣熟には時間が足りず、運用の実態は日本海軍が担った。
 そして、レトウィザンには東郷始め各国の提督が並び立ち、新生ロシアは各国と協力して再建されることを目に見える形で人々に示した。中でも東郷の存在は、かつての敵将であったにも関わらず、ロシア人を奮い立たせる力があった。

「アナ、大事なことはこれからよ」

 歓迎レセプションを終え控室に戻ったアナをアリサは急き立てた。
「分かってる」
 一言言うとアナは、ローブデコルテを脱ぎ捨て、軍服に似た女帝事業服に着替えた。
「歩きながら説明するわ、実は……」
「え、ほんと!?」
「ええ、早く手を打たないと、みんなソヴィエトに持っていかれるから。善は急げよ」

 アナは、まだ宮殿を持っていなかった。樺太でもウラジオでも、ホテルを借り上げて仮宮としていた。それには深慮遠謀があった。

 会議室には、ロシア軍やコサックの部隊長、各国の派遣軍司令官と参謀、それにユダヤ資本を始めとする財界人たち、そしてウラジオ周辺に移住してきたチェコやポーランドの代表者たちが混じっていた。
「わたしはロシアのくびきでもなく専制独裁者でもありません。ただの文鎮です」
 アナは、紙の束の上に文鎮を載せてみた。
「文鎮があれば……(紙の束を吹いて見せた)このように紙の束は吹き飛ぶことはありません。でも……コサックのヘトマンさんこちらへ」
 傲然としてはいたが、隅の方でひかえていたコサックの部隊長ヘトマンは少し驚いたが、アナの前に出て敬礼した。
「あなたが吹いてみてくださる。思い切り」
「……よろしいんですか陛下?」
「ええ、思い切り!」
「ハ、仰せのままに」
 コサックの巨漢が肺一杯に空気を貯めて吹き飛ばすと、紙束はささやかな文鎮もろとも吹き飛ばされてしまった。
「では、ヘトマンさん。この文鎮でお願いします」
 アナは、一キロほどの重たい文鎮を紙束に乗せた。さすがのコサックの巨漢でも、これは吹き飛ばせなかった。
「ありがとう、ヘトマンさん。さてみなさん……わたしは、この小さな文鎮です。コサックのヘトマンさんのひと吹きで飛んでいきます。しかし、この少し大きめの文鎮なら吹き飛ぶことはありません。ここに無骨なモーゼルという拳銃があります。これを置くと紙は吹き飛びませんが、上の何枚かの紙を傷つけてしまいます。少しの間、わたしを大きめの文鎮にしていただけないでしょうか。けして紙を傷つけることはありません。それに……」

 アナは、悠然とモーゼルを構えると、テーブルに乗り、紙の束を真上から撃った。

「ご覧のとおり、モーゼルと言えど、この文鎮にまとめられた紙の束を打ち抜くことはできません」
 モーゼルの弾は上から20センチのあたりで見つかった。貫通はしていない。このことで同席の者すべてがアナの非常大権を認めた。
「まず、ハバロフスクまでの治安と主権を回復します」
 地図を示した。異議が出た。
「ご無礼ながら陛下、我々の力をもってすれば、イルクーツクあたりまで一年でとりもどしてみせますが」
 イギリスの司令官だった。
「いいアイデアです司令官。わたしも同じ意見です。ただ、あまり人の血を流したくないんです。もうロシア人同士……いえ、人類の血を流したくないんです。バートル・ダルハンさん入ってください」

 正面の扉から、一人のモンゴル人が入ってきた、なにやら横綱の入場を思わせる風格があった……。

ジャンル:
小説
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