大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・《そして ただいま》第八回・由香の一人語り・6

2016-10-16 06:13:11 | 小説4
 《そして ただいま》
第八回・由香の一人語り・6



 食後のコーヒーを二人分買って、センターの門を入ると、ギンガムチェックのシャツにサロペットスカートという女の子が、センター玄関へのアプローチを歩いているのが目に入った。

「あ、貴崎先生!」
「あ、分かっちゃった?」
「ええ、でも、こんな近くまで来なきゃ分からなかったですよ」
「ちょっと恥ずかしかったんだけど、これ、あの頃、幸子さんとお揃いで着ていたの」
「ペンションの制服ですか?」
「ううん、スタッフと分かるように、お揃いのを買ったの。二十何年ぶりで……ちょっと恥ずかしいな」
「そんなことないですよ。先生のこと知ってたからわかったけど、そうじゃなきゃ短大生ぐらいでも通りますよ」
「ほんと……!?」

 貴崎由香先生は、恋をし始めた女子高生のように見えた。

「このワカランチン……ユカちゃんの方なんだよ、田中さんが好きなのは」

 目が点になった。
 と、思った瞬間、ココアにむせかえってしまった。
 そのあたしの背中をさすりながら、幸子さんは続けた。
「男って、いつもそう。ほんとうに好きな人には、なかなか喋れないものなのよ。そんな自分にじれて、余計にむつかしい話をしたのよ、今夜は。ユカちゃん、ここがこんなにファミリーになったのは、わたしのせいだと思ってるでしょ? ちがうよ。わたしが来たときには、すでに出来上がっていたんだよ。わたしは、ただ、それに乗っかってワイワイ言ってるだけ。これつくったのはオーナー夫婦。そして、田中さんとユカちゃんなんだよ。わたし、物書きのハシクレだから、そういうとこ鋭いの」

 あたし、点になった目が泳いでしまった……え、ここまで書けてるんですか(由香先生は、催眠状態でパソコンを操作するような手つきをした)

――彼は、ほんとうは自分のペンションが持ちたいのだ。ほんとうに、この土地の自然と一体になれるような……。
 でも、オッサン一人でやる自信がない。愛想悪いし、人間関係ヘタだから。
 でも……昔から、そうなんじゃない。昔は紙屑が燃えるようにペラペラ良く喋った。
 男一人が、ああなるのには、いろいろあったんだろう。
 若い頃は、ツッパリとディフェンスだけの青春のようだった……今のところ、そこまでしか分からない――

 だろうね。ほんとうに何も言わないんだよね……あの人。

――「ユカちゃんみたいな人がいっしょにやってくれればいいのにね」
 と、わたしが言う。
「やれば、いっしょに」
 そう水も向けてみた。
「だめだよ、ユカちゃんはアルバイト。いずれは帰ってしまう子だ」
 そう言うと、彼はコーヒーカップを口元まで持っていった。
 その少し前屈みの姿に、大人の寂しい自制心を感じた……。
 そして、同時に、ユカちゃんとの出会いが、自前のペンションを考えさせるようになったんだと直感した。

「いっそ、結婚しちゃえば!」

 このストレートパンチに、彼は、さっきのユカちゃんそっくりにむせかえった。
 その背中をさすりながら、ユカちゃんに相応しい真っ直ぐな人だと思った――

 泳いだあたしの目が、みるみる涙に溺れていった……。

「ちょっと、止めまひょ」

「はい……」
 由香先生は、ゆっくり目をつぶった。
「ちょっとパソコンから目え離して、周りを見てくれまっか」
 由香先生が、再び語りはじめた。

 あ、始まった。
 やっぱ、一雨来る前にやっちまうんだ……聞こえる、チェ-ンソーの音?
 裏手の桜並木を切ってるの(パソコンの向きを変える仕草)
 どう、パソコンのカメラでも見える?

 昔は、あの土手の上に偉い人のお屋敷とかあったらしいんだけど、戦争で焼けた後、みんなで植えたんだって。
 東京タワーが出来た頃には立派な桜並木に育って、この街でも有名な桜の名所になった。
 春には花見、夏には木陰で夕涼み。あそこから大川の花火も見えたんだって。それを目当てに、あたしが小学校のころ、ここに越してきたんだけどね。

 今はダメ。

 手前の操車場が再開発されて、ビルしか見えない。
 でも、それは、それでいい景色って人もいて、今でも時々写真を撮ったり、絵を描いている人がいる。
 お母さんの、何回目かのファーストキスも、あそこだったんだって。
 複数の大学からの帰り道に近くってさ……昔の若者もたくましい。ファーストキスを何回もやるかっちゅうの!

 アハハ、お母さん言うわけないよ。お母さんの友だちから聞いた話し。

 お父さんは、いい男だったんだって。賑やか好きで、お喋りなお母さんとは馬が合って……。
 その賑やか君とお喋りさんでも、しんみりとキスしちゃったかもしれない桜並木。
 それをどうして切っちゃうかなあ……。

 桜って、きれいだけど、落ちた花びらとかすごいでしょ、秋の落ち葉もね。毛虫も付くし、意外に手入れが大変。
 それで、近所の人たちから苦情が出始めて……。
 昔は、町内の人たちで掃除とか手入れとか、当たり前のようにやっていたんだって……だんだん、そういうこともしなくなったでしょ。
 老人会とか、婦人会とかでは細々とはやってたけど、一部住人にばかり負担をかけるのはいかがなものか……それで、地域の会議で切ることに決まった。

「今日は、そこまでにしときまひょ」

「……止めてもらって良かった」
「ちょっと、予感がしてきましたか?」
「桜の話は面白いんですけど、そのあと……ちょっと」
「まあ、面白いとこらへんでおいときましょ。この先、なに思い出すか、分からしまへんけどね、今日の貴崎さん。いや由香さんにとっては、そのギンガムチェックがキーポイントやと思いまっせ。思い出した若さ、大事にね」
「はい」

 少女のような素直さで由香先生は頷いた。カウンセラーとクランケの間に信頼関係ができた証拠だ。私にも、それくらいは分かるようになってきた。

「バラバラやけど、キーワードが、揃うてきましたな。さて、これが、どない結びつくか……」

 由香先生は、アプローチから手を振りながら門をでていった。
 私は、親しみをこめて手を振りかえした。私も由香先生が友だちのように思えてきた。

 

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