大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・オメガとシグマ・21『あたし神楽坂ウカルかな?』

2017-03-15 13:34:49 | 小説
高校ライトノベル・オメガシグマ・21
『あたし神楽坂ウカルかな?』



 賞金受け取りの締め切りは三月十七日だ。

 つまり明後日の午後五時までに申し出なければ、一等賞金の一億円は頂けないのだ。
 当選の宝くじは、ただの紙切れになってしまう。

 持ち主は、薄い壁一枚向こうでマンガでも読んでいるんだろう、ケタケタ笑いながらベッドの上でドタバタ身悶えている。

「一等の一億円が当たってんぞ!」隣りへ行って、そう言ってやれば、この悶々とした気持ちは解消される。あとは「落ち着け菊乃! あとは兄ちゃんが全部やってやっから!」と宣言し、菊乃の代わりに一億円を受け取ってやればいい。菊乃は内弁慶なやつだから、一億円が当たったなんて知れたら間違いなく気絶する。なんとか覚醒させても、賞金の受け取りで、また気絶する。気絶しないまでも興奮のあまり失禁する。つまりオシッコをちびってしまう、小学校の入学式までは粗相してたもんな。それ以来、ここ一番という時には朝から水分を摂らないようにしてるもんな。入試は無事に終えたようだけど、一億円の受け取りってことになれば絶対ちびる。憎ったらしいツンデレのクソビッチだけど、血を分けた妹をそんな目に遭わせるわけにはいかない。
 で、代わりに受け取ってやれば、こうなる。

「ありがとうお兄ちゃん、忘れてた宝くじを思い出させてくれただけじゃなくって、代わりに賞金を受け取ってくれて、やっぱりあたしのお兄ちゃんだ!」

 そう言って、ここ何年かの無礼を詫びて抱き付いてくるんだ。
「よせよ、姉弟の仲で水臭い。それより顔を拭きな、涙と涎で、せっかくの可愛い顔が台無しだぜ」
「グス、可愛いだなんて、お兄ちゃんに初めて言われた~嬉しいよ、菊乃、チョー嬉しいよ」
「おまえが素直になれば、お兄ちゃんだって、素直に褒めてやるさ」
「お兄ちゃん、お礼に賞金の半分受け取って!」
 は、半分!?
 一億円の半分って……五千万円だぜ!
「そんなの受け取れないよ、菊乃が掴んだ幸運だ、自分のいいように使えばいいさ」
「じゃ、せめて一割でも……」
 う~ん……それでも受け取れない。
 中坊のころ、酔っぱらった祖父ちゃん介抱したら「小遣いだ、とっとけ」と差し出したのが一万円。祖父ちゃんの懐具合から千円札と間違ったのは明らかで、それでも押し付けられた諭吉に足が震えた。
 俺は、分という者をわきまえている。
 え、気が小さいだけだろ?
 いや、違う。説明できないけど違う。

 菊乃が部屋から出る気配、俺は反射的に部屋を飛び出した。

「なんか用? キモイんですけど」
 階段の下まで行くと睨まれた。
「あ、えと……」
 宝くじのことは言えない、言えば、菊乃の荷物から茶封筒を抜いたことがバレてしまう。むろん茶封筒は戻してあるけど宝くじは手許に置いてある。受け取りの締め切りを忘れたり捨てたりしちゃいけないからな。
 言葉に詰まったが、菊乃のトレーナーが裏がえしなのに気づいた。
「トレーナー裏返しだぞ」
「え、あ、ほんとだ」
 こういう場合、菊乃は悪態ついて部屋に戻って着替える……はずが、その場でトレーナーを脱いでしまった。
 で、あろうことかトレーナーの下は裸だ。パジャマを脱いだ後、そのまま着てしまったんだろう。
 こういう時の反応はむつかしい、でも、焦っているうちに菊乃はトレーナーを正しく着直した。ほんの数秒間だったけど、汗をかいてしまった。

「ね、あたし神楽坂ウカルかな?」

 靴を履く手を停めて、菊乃が呟く。たぶん呟きなんだろうけど、疑問形なので返事をしたものか戸惑ってしまう。
「あたし後期選抜じゃん、もう後が無いんだよね」
「あ、ああ……」
「ここ一番て時に力でないからさ……入試の日も不安でさ、休み時間とかは、みんな賢く見えちゃって、カッコつけてさ、進学とか就職とかの色々集めたりしたんだけど、どっかいっちゃった。ちょっとは読んだり観たりしよーと思ったんだけどね……今日もマンガとかで気を紛らわせよって、笑ってみても……なんだかね……」
 菊乃は顔でも洗うような仕草をして停まってしまった。

 ひょっとしたら泣いているのかも……こんな菊乃は何年かぶりだ。

「あ、なんか寒い……って、トレーナーの下着てないじゃん!」
 ドタドタと階段を上がると、部屋で着替えている様子だ。
 いつもがいつもだから、ちょっと不憫になる。
 これ以上関わっては逆効果と思い靴を履く。
 そこへ着替え終わった菊乃が下りてきて、期せずしていっしょに外に出ることになる。

「散歩か?」
「うん……」

 後が続かない。
 宝くじを切りだそうとするんだけど、なぜ、俺が菊乃の宝くじを持っているのかの説明ができないためのためらってしまう。
「大丈夫、菊乃は受かってるさ。だって、この俺が受かって三年生になろってんだから」
「うん……」
 返事がさえない、子どものころやったみたいに菊乃の髪をワシャワシャしてやりたくなったが手が出せない。
「あたし、最後のテスト、受験番号書き忘れたような気がするんだ……書いてなかったら零点だもんね」
「それは……」
 続けようとした言葉が出てこない。
「あたし、公園の方行くから」
「あ、ああ」
 駅の方に行こうかとしていたので、そこで別れた。

 やっぱ、菊乃と接点を持つのはむつかしい。

 駅前まで来ると、信号の向こうにシグマがいた。
 シグマなりに邂逅を喜んでいるんだろうけど、パッと見不貞腐れているように見える。損な奴だ。
 信号が変わるとシグマの方から駆けてきた。
「先輩、ゲームどこまで進みましたか!?」

 家に帰ってゲームをやろうと決心した。
 
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