大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・連載戯曲『梅さん➄』

2017-07-08 06:26:41 | 戯曲
連載戯曲『梅さん➄』        



: 短大行ったのも、働きたくないからでしょ。
 だから運良くお父さん必死のコネアタックで信金に就職きまっても不満タラタラ……
 予測では(ノートを開く)三年目でルックスだけがアドバンテージ男にはまって子供ができて「できちゃった、どうしよう!?」
 男はどういう答えをすると思う? 百パーセント「君の好きにしたらいいよ」
: それってあたりまえじゃん。生む生まないは女の権利だから、男はそう答えるしかないんだよ。
: で、生んじゃったら、事あるごとに「おまえが生むって決めたんだぞ!」と、男は百パーセント渚に責任転嫁するわ。
 そして、子供捨てられるほど不人情じゃないから……
 わたしは、そのへんに可能性を感じて、元締めと最後まで掛け合ったんだけどね。
 元締めはこう言うの。続けるね……その渚に残された顕微鏡で見なきゃわかんないほどの人情、
 この人情が裏目に出て、子供を殺したり捨てたりすることもなくダラダラ虐待寸前の育児。
 その間に離婚と再婚。あげくの果てにパチンコに入り浸り、車に子供を残して熱中症で死なせてしまう…… 
: それでガス自殺でドッカーン……!?
: そう、まだ六七年先のことだから少し誤差はあるけど、大筋はその通り。
 巻き添えは間違いなし、十人から二十人の巾かなあ……
: そんなことしない、ぜったいしない。だって、今話聞いたもん。肝に銘じてわすれない!
: 忘れる、必ず忘れる。思い出してごらん、今までどれだけ約束を破ったり忘れたりしたか……
: ……
: もう忘れたことさえ忘れたか……
: 約束破ったりしないもん。そりゃちっこいことはあったかもしれないけど、人に迷惑かけるような約束忘れたりしないもん!
: ほう……たとえば五年前、高校受験の前の日、谷掛安子さんと受験場に行く約束をしたよね?
: え……ヤッチンと?
: あんたたち受験の前日、前祝いとか言って、不安解消するために、公園でチューハイ飲んでできあがちゃってさ。
 そこで渚、あんたは谷掛さん、ヤッチンと約束したんだ。三丁目のポストの前で待ち合わせしようねって……
 ヤッチンは覚えていた……だから時間が過ぎてもギリギリまで待っていた。
 先生に言われたとおりその日スマホは家に置いてきて連絡もとれずに……そしてヤッチンは受験場に間に合わず不合格。
: そんなの、そんな約束……
: したのよ。で、ヤッチンは、そんな約束を信じた自分が馬鹿だったと、渚には一言も言わなかった。
 いい子だね。それが幸いしてか、公立ではいい友達、いい先生にめぐりあえて、今はもうあれはあれで良かったと思っている
 ……いい友達だったのにね。渚はただ行く学校がかわったから離れていった子だとしか思ってないだろ?
: そんなことが……
: そうだよ。
: でも、それはアルコールが入っていたから……
: その梅の盆栽、源七が剪定しとくよって、昨日晩ご飯の時、渚にもちゃんと聞いてるんだ。
: 嘘……
: 友達と喋っていて、いいかげんな返事をしたんだよ。
 源七おもしろくなかったろうね、よかれと思って帰りに渡したら、渚にムッとした顔されて……
: 盆栽なんてささいな……
: その些細なことで、ついさっきまでどんな顔してたの……どれだけの人を傷つけたの……
 駅の南口で、女の人と肩がぶつかったろう「このバカヤロー! どこに目ぇ付けて歩いてんだ!」……
 もう忘れちゃったよね。あの女の人、これから見合いにいくとこだったんだよ、十三回目の……
: ……
: 最後にもう一つ。今わたし達は何の話をしているんだっけ?
: どれだけあたしが人の話を聞いていないか……
: 違う。
: どれだけあたしが知らず知らずの間に人を傷つけてきたか……
: 違う……それはみんな周りの問題だ。根本はもっと違う話。
: ……?
: 渚には夢がないという話。
: どうして夢がなきゃいけないのよ! 夢のない人間なんてゴマンといるよ、
 トコも、サチコも、うちの親だって夢なんてもってないよ。親父なんて万年平社員じゃないか!
: 言葉って難しいね……わかりやすく夢という言葉を使ったんだけど、金持ちや、スターになることだけが夢じゃない。
 ……覚悟って言った方が良かったかな……金持ちになる覚悟、スターになる覚悟、そして大人になる覚悟。
 親から自立し、自分で自分の力で身の丈にあった実直な生活を送り、子供を産み育てる覚悟……
 それも立派な夢なんだよ……聞いてる、私の話? ロクに人の話も聞かずに人を傷つけてばかり……
 だから、源七がやったみたいに蕾のうちに剪定されるのよ。他の蕾を生かし、木を守るために……

 この時、もんぺ姿に防空頭巾を首に回覧板を持った五十代と思しきふくがあらわれる 

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小説
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