大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・001『核ミサイルが飛んできた』

2017-07-31 11:36:50 | 小説
 高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・001
『核ミサイルが飛んできた』



 12000メートルもの上空であったにもかかわらず聞こえた。

 昨夜来雨を降らせた雲が立ち込めていなければ、もっと鮮明に聞こえていただろう。
 聞こえるだけではなく、中心部分で数万度を超える熱線と閃光で、運悪く空を見ていた者がいたとしたら瞬間で失明していたはずだ。
 この瞬間に限って言えば、この大阪は幸運であった。

 X国が発射した核ミサイルが、大阪城の上空12000メートルで炸裂したのである。

 運悪く炸裂の直下を飛行していた大日空301便は瞬時に蒸発してしまったが、それ以外には若干の電波障害が出ただけであった。

――オペレーションミスであり、意図的な発射ではない、落下二十秒前にミサイルを自爆させ被害を未然に防いだ――

 珍しくX国は声明を発表し、一時間後にはミサイルの発射司令と技術責任者を逮捕して、その様子を世界中に流した。

 日朝新聞、日毎新聞と、その系列メディアは『誤射であるのだから調査が先決』と、報復攻撃を求める世論をけん制した。
 アメリカも国内問題に振り回され、きびしく非難した割には、嫌がらせに爆撃機を飛ばすことしかやらなかった。
 大日空301便は、わずかな破片が奈良県東部で発見されるまで行方不明としか発表されなかった。

「夜逃げした方が早いよ」

 事務所を出ようとしたら、友子がうすら笑いしながら言う。
 それには答えずに喜一は駐車場に向かう。
 朝の八時前だと言うのに駐車場に続くアスファルト道路には逃げ水が揺蕩っている。
 とっくに気温は三十度を超えているだろう。
 
 この暑さだが、家に居るわけにもいかない。

 今月中になんとかしなければ、来月には不渡りを出して小林工業は倒産してしまう。
 資金繰りに走り回る小林喜一には核ミサイルも夏の暑さも友子のうすら笑いも意識の外だ。
 
――ミサイルが落ちていたら、いっそ清々しかったのにな――

 エンジンがかかるまでの、ほんの数秒間だけ思った。
 三年前まで海自の艦長であった喜一は、ミサイルがオペレーションミスなどとは毛ほども思っていない。
 米軍も自衛隊も発射十秒後には弾道と落下地点を割り出している。
 割り出すだけでなく、三段構えの迎撃も実施しているはずだ。
 その三段構えで破壊できずに、ミサイルは大阪城の上空まで達したのだ。
 真実を言えば、日本どころかアメリカもパニックになるだろう。
 
 車が発進した時には、どこから金策に回るか、そのルートしか頭に無かった。
 状況に即応して頭を切り替えるのは自衛官時代からの習い性だ。

 三軒はアポの電話にも出てもらえなかった。

 二軒は居留守をつかわれ、一軒は怒鳴り散らされただけで終わった。
 いまさら体にも心にも堪えない。
 会社兼住宅でジッとしているよりは何倍もいい。
 最後の瞬間まで前向きで居ようと言うのは、職業意識というよりは喜一の性分だ。

 時計を見るとヒトサンマルマル。飯にしよう。

 思うと同時にハンドルを切る、
 現在位置は小坂の南だ。数件の候補が頭に浮かぶが、二番目に近い小坂マーケットに向かう。
 ネットで発見してから一度も足を運べていないが、今時珍しい万屋と言っていい風情のスーパーだ。
 このあたり、戦前は大きな撮影所があり、西日本有数の映画のメッカだった。
 その撮影所時代からの店が小坂マーケットなのだ。
「へー、こんなものが残っているんだ」
 昼のピークは過ぎても弁当や総菜パンは豊富に並んでいた。店の近所には食べ盛りの女学校やフレックスタイムの会社があったりで、品ぞろえはコンビニよりもいいのかもしれない。
 その品ぞろえの中で目についたのは『シベリア』だ。
 カステラ生地の間に餡子が挟んであるという甘々な食い物だが、なんとも懐かしい。
 海自時代に横須賀で何度か食べた。先輩の話だと大正時代からある代物で、昔の子どもたちにはとんでもないご馳走であったようだ。

 公園のベンチでパクついていると、聞き慣れたマーチが聞こえてきた。

「あ、ガルパンマーチだ」

 声に出てしまった。
 耳をそばだてると、生のブラバンだ。どうやら、女学校の吹部あたりが練習しているのが風の具合で聞こえてくるようだ。
 そう言えば映画版のガルパンに『シベリア』が出ていた。
 文科省の意向で大洗女子が廃校になりそうになって、生徒会長が戦車道本部に掛け合いに行って、出されたお茶うけがこれだった。
 
 そうだ、あのころはまだ、いっしょに映画に行けるほどに仲のいい親子だった。
 ほんの三年ほどで、友子の喜一を見る目は本来の意味のシベリアよりも冷たくなった。
 理由はいろいろだが、考えても詮無い。
 今は金策だ。
 ペットボトルのお茶をラッパ飲みすると、車に急ぐ。

 日光避けをフロントガラスに付けていても、車内は四十度を超えている。
 エアコンを付けても滝の汗が流れるが、狭い車内でモソモソ食べるよりは何倍もマシだと思った。
 朝、駐車場で乗り込んだ時も、今と大差ない酷暑であったはずなのだが、身体が溶けそうな不快感は無かった。
 四捨五入すると還暦という年齢は現役自衛官のころほどの持久力無くなっているのかもしれない。

 ピシャリと頬を張り倒し、喜一は、ガルパンマーチを口ずさみながら午後のの金策にハンドルを向けた。
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