大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・連載戯曲『梅さん⑪』

2017-07-14 06:16:35 | 戯曲
連載戯曲『梅さん⑪』       


: そう、彼はどうしたの? 本拾ってもらって「じゃ」でおしまい?
: それから帝大に入って、逓信省に二年勤めて、結核で死んじゃった。
: みんな早死に……でも、あたしの聞きたいのは……
: そういう時代。今日は九十何年ぶり……ちっとも変わってなかった、石頭の熱血漢。
 会話なんて、辞書を拾ってさしあげた、ほんの二言三言……だけど、わたしの殿方を見る目に狂いはなかった。
 元締めの剪定一本やりのやり方に反対し、これはという人にとりついて、立ち直らせる運動を進めている。
: ……やさしい人なんだね。
: 違うよ。人にとりついて立ち直らせるなんて、手間と時間ばかりかかって、成功率は二割もないんだよ。
: わかんない……
: 平四郎さん、基本的には生きてる人間のことは生きてる人間にまかせろって主義。
 戦争が起ころうと災害が起ころうと、生きてる人間にまかせ、これはと思う少数の人間にとりついて矯正……
 厳しく鍛え直すって意味ね。そうして鍛え直した人間の手で、世の中を良くしようって、
 まあ、遠回りで間接的なやり方……ある面、人間を突き放した愛情ね。
 だから数量的には元締めの剪定方式にはかなわない。
: 少し……むずいよ。
: あけすけに言うと、筋向かいの池田君なんか、そのまま生かしといて、事故はおこさせない。
: それって……
: ね、優しさとか、愛情とか……とってもむづかしいことなんだ、人に対しても、世の中に対しても。
 平四郎さんの目をみていると、渚のことにかぎっては、任せても良いような気になった……
 渚、平四郎さんは間接的に関わってくれるだけだからね。
 ぼんやり生きてると、子供を死なせて、自殺の巻き添えで大勢の人を死なせることになるからね……
: うん。
: 拙いけれど進一君への愛情は本物になるかもしれない……
 そのへんに賭けて、信じるわ、しっかり生きていきなさい。じゃあ……
: 梅さん……あの……おでんの作り方を……
: おでんのレシピは……
: 待って、書きとめるから……もう少しいっしょにいて。
: 大丈夫。サービスで頭の中にインプットしといたから、次から同じ味が出せるよ。
: 梅さん……
: うん……
: あの……(無理に話題をさぐる)あたしの渚って名前、源七じいちゃんがつけてくれたの。
  海と陸との境目をとりもち、人の心を和ませてくれる伊豆の浜辺の渚にちなんで……
: ああ、それ……ふくさんと相談して、二十年前源七の耳元でささやいてやったの。
  源七自信、なんとか渚ってファンだったから、ひっかけやすかった。
: ……梅さんがふくさんといっしょにつけてくれたんだ!
: それも源七の孫への愛情があって、はじめてできるコンタクトなんだよ。
: この名前、大切にするね……
: そうしてちょうだい。
: 梅さん……
: 言っとくけど……わたしのことはすぐに忘れちゃうからね。
: ううん、忘れないよ!
: 無理だよ、夢といっしょだからすぐに忘れちゃう……
 でも、梅ってひいひい婆ちゃんいたことぐらい、心の片隅に残っていると嬉しいよ。
: 忘れないよ……きっと!
: あ、美智子さんが帰ってくる。ほら、もう玄関の方に……(渚、一瞬玄関に目をやる。そのすきに、梅消える)
: ただいま……あら、貸衣裳屋さんはもう帰ったんだね……うまく着付けてもらったじゃない。
 ね、母さんの選択はまちがってなかったね。やっぱり女学生はこうでなくっちゃ……せ めて、最後ぐらいはね……
 あら、いい匂い、おでんつくっといてくれたの、たすかったわ……
 (台所へ、声)うわーおいしそう……(ハンペンをつまみ喰いしながら出てくる)
 あんた、お料理うまくなったわね、このハンペンのおいしいこと……どうしたのボンヤリして?
: え……ああ、誰かと話してたような気がするんだけど……
: 変な子。そうだ、渚も帰ってきたことだし、お父さんも今日は定時だって言ってたから一本つけようよ。
 その姿とじいちゃんの梅を肴にさ! あ……お酒きれてるんだ。
: あ、あたし買ってくる。
: え、そのかっこうで?
: いいじゃん、すぐ近所だし。渚の御町内デビューってことで……ワインもいっしょに買っとくね。
 あ、その梅あたしんだからね、さわっちゃやだよ。じゃあ……だめだってさわっちゃ!(奪いとる)
: え、だって嫌がってたじゃない……
: 今は気にいってんの。名前までつけたんだからね。
: 梅に名前を?
: うん、梅さんていうの。
: ハハハ、まんまじゃない。
: ……ほんと、まんまだ。
: 思いつきでしょ、あたしが梅に構うもんだから?
: ち、ちがうよ……(と言いながら、自分でも不思議な感じがする)

   この時、かすかな爆音に、母、空に顔を向ける

: あ、飛行船! ニュースでやってたやつだ……
: ほんとだ、伊豆じゃじいちゃんしか気がつかなかったんだ……
: どうせ おしゃべりに夢中になってたんでしょ?
: あったりィ、朝シャンと朝風呂しながらね。
: 胴体に梅の模様が散らしてある。粋だねえ……
: 飛行船も、梅さんだ……
: (思いのほか、飛行船に見とれている娘を気づかい)買い物、あたしが行ってこようか?
: 待って、あの飛行船を見送ったら……いっしょに行こう……久しぶりに二人でさ……
: え、そうかい(チラと娘の横顔を見て、すぐに空に目をもどす)……そうだね、いっしょに行こうか……誰かさんの風むきが……
: かわらないよ!……南南西の春風……
: 天気予報……
: まあね……渚の人生予報……
: え?
: あ、ちょうど目の前……離れていく……
: もう少し早く気づけばよかったねえ……
: ううん、大丈夫、しっかり目に焼きつけとくから……しっかりと……

 梅の鉢を手に、飛行船をなごやかに見送る二人。
 なごやかなエンディングテーマ、飛行船の爆音とクロスしつつフェードアップして幕


 この作品を上演される時は、下記までご連絡ください。 

《作者名》大橋むつお《住所》〒581-0866 大阪府八尾市東山本新町6-5-2

ジャンル:
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