大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・トモコパラドクス・91『絶崖の聖杯・2』

2017-05-12 06:48:39 | トモコパラドクス
トモコパラドクス・91
『絶崖の聖杯・2』
    

 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女子高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであった……さて、今回のターゲットが絞り込まれてきた。


 三人は、もう一度T町にテレポし、それを……発見した。

 二人のミイラ化した遺体だった。肉屋の冷凍庫に入れられていたので、町の空気中のカツブシ的な臭い粒子は、ごく微量で、しかも拡散していたので、発見に時間がかかった。
「ひどい……まだ十代の女の子よ」
「勘が鋭いというだけで殺されたのね、あたしたちが居場所を感知出来なくするためだけに」
「奴も焦っているんだろう。ここに隠すまでに悩んでいる。だから臭いの粒子が飛び散ったんだ」

 三人は数秒間、演算……いや、考えた。そして互いをシンクロさせると元のカッパドキアにテレポした。

 司教たちの居所は、すぐに分かった。最初に居た崖庇の数キロ北で血の臭いがしたのだ。

 そこは渓谷の崖の洞窟のあたりからしてきた。
 この洞窟にたどり着くことも出来ずに渓谷に落ちたT町の人が二百人ほど谷底に落ちて死んでいた。
 洞窟の中に入ると、様々なトラップがあった。あるものは落とし穴に落ちて亡くなり、ある者は壁から突き出した無数の槍で串刺しにされたのだろう。体中に開いた穴から血を流し朱に染まって命の灯を消していた。そして、その先には、地獄の番卒でも目を背けたくなるようなトラップと、その犠牲者たち。
 そういうトラップが、機能しなくなるまで死体の山を築き、さらに、その奥に数人に減った人の気配がした。

 一番奥の広い岩の広場では、千人に近いT町の住人が亡くなっていた。遺体のそばにはいろんな杯が転がっていた。
 そう、ここは聖杯の広間なのである。

 千に余る聖杯が並んでいたのであろう。その中に本物は、ただ一つ。他の聖杯はニセモノで、それに満たされた水を飲んだものは……いや、実験台に飲まされた者は、ことごとく血反吐を吐いて死んでいたのだ。

「お、お前達は天使か……二千年にわたり、世の人々を苦しみの底に追いやった、まがまがしき神の僕(しもべ)どもか!」
 友子、紀香、滝川の三人は、無意識に天使に擬態していた。いや、あやまてる司教のゴルゴダ教団を誅するために三人の義体をして天使ならしめたのかもしれない。

 司教の傍らには、十数人の人間が居た。一人は、あのモーテルのオヤジ。他は町の最後の生き残りの人たち。マインドコントロールされているのだろう、みんな目には生気が無かった。そしてその手には、それぞれ聖杯が……。
 そして、二人と司教の間には車椅子に乗った少女と、その母親がいた。この三人は聖杯を手にしてはいなかった。

「みなさん、その聖杯は、捨てなさい。いずれもニセモノです」
 ミカエル似の天使が言うと、町の人たちは杯を取り落とした。しかし目の光は、まだ戻ってこない。
「司教、その子が、あなたの娘ですね。そして横の女性が、あなたの妻だ」
「違う! この子は神の子だ。この女は、その神の子の母。新しきマリアだ。この神の子は病んでいる。放っておくと、あと一月と肉体はもたない。この子は、この現世で肉体を成長させ、永遠の若さと命を授かり、本当の神の御教えを、人々に伝えなければならない。その為には真の聖杯に満たされた聖水を飲まねばならない」
「そのために、町の人たちに試させたのですね……」
「聖骸布の全てが手に入っていれば、こんな手間はいらなかった。手に入らなかった聖骸布を取り戻すのには時間がない。そこで、こんなに大勢の信者が犠牲にならなければならなかった」
「司教、あなたは聖職の身にありながら子をもうけた。それを罪と感じ、その子を神の子と思いこんでしまった」
「違う。この御子こそが神の子なんだ。わたしは、その神の子を護持する僕(しもべ)にすぎない」
「なら、残る聖杯は、三つ。司教、あなたと、その妻である女とで試すがいい。もし外れたとしても、残った一つが真実。その子の命は助かるであろう」
「ぬ、ぬぬ……」

 三つの聖杯が、浮かび上がり、司教の目の前で空中に漂った。

 母親が、マインドコントロールされているにもかかわらず、その一つを手に取った。
「それも偽物!」
 ガブリエル似の天使が指差すと、偽物の聖杯は、粉々に砕け散った。
「さあ、残りは一つ。司教……あなたが選びなさい」
 ラファエル似の天使が迫った。

 司教は、数秒迷い、叫び声をあげて逃げてしまった。

 司教の娘は、元の姿にもどった、友子たちによってナノリペアを投与され、病巣は取り除かれた。
 そして、しばらくすると、残った者達のマインドコントロールも解けていった。
 司教は死んだのか、その力を失ったのか分からなかったが、友子たちは、あえて、その後は追わなかった。

 壊滅寸前になったT町は、残った十数名の人たちで、ゆっくりと回復していくであろう。

 母と娘はS市を離れ、ニューヨークの雑踏の中で静かに暮らし始めた。その後の母子のことも、三人は調べないことにした……。

 聖杯は、真贋の二つが残ったが。その在りかは、永遠に封印された……。

ジャンル:
小説
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 高校ライトノベル・オフステ... | トップ | 高校ライトノベル・時かける... »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
ブログ作成者から承認されるまでトラックバックは反映されません。