大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・『チョイ借り・5』

2016-10-29 06:25:35 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト
『チョイ借り・5』
       


 次の土曜日、サイクリングに行った。

 チイコはオレンジに乗り、おれがチイコのママチャリに乗った。オレンジは、かなりのアシストをしてくれたので、チイコは楽勝だった。
「自転車って、楽しいね!」
 アシストされているとも気づかずに、チイコは楽しげに言った。オレンジはうまくやってくれている。
 オレは、当たり前のママチャリなので、どうなるか心配だったけど、これが平気で付いていけた。オレンジのやつ、新聞配達の間にアシストを少しずつ落としていって、どうやら近頃は、オレの自力でやらせているようだ。騙されたようだが、悪い気はしない。

 ただ行き先が奇妙だった。行き先はチイコが決めているようだが、実はオレンジが巧妙に誘導している。
「ハハ、もうほとんど埼玉県だよ」
 スポーツドリンク飲みながら、チイコが壮快そうに言った。
「たしか、この辺は……」
「見て、自衛隊の基地だよ!」
 オレたちは、阿佐ヶ谷の自衛隊駐屯地まで来てしまった。
「オレ、自衛隊に入る気はないぜ……」
 小声でオレンジに言ってみた。
「これは、チイコちゃんの運よ」
 と、一言言って黙ってしまった。

Japan Ground Self-Defense Force Public Information Centerの文字が目に入った。側には、もっとデカデカと陸上自衛隊広報センターと看板が出ていたが、オレンジの薫陶で、英文を見て訳すクセが付いてしまっている。

 オレは、特に自衛隊フェチじゃないけど、展示物には迫力があった。生まれて初めて本物の戦車を見た。

 二階のオープンシアターで、チイコは運命的な映像に出くわした。女性自衛官が災害派遣や訓練に励んでいる姿である。女性の自衛隊員が重機を動かしたり、中には幹部になって男性隊員を指揮している姿に感動していた。

「これだ……!」

 チイコの進路が決定した。
 チイコは、その場で入隊に関わる資料をもらい、明くる日の日曜にはオジサンの部屋で、資料とネットを駆使して、いろいろ調べた。そして、チイコの心が決まった。

「あの部屋にいって、何もしないで出てきたの初めてだな」
「なに言ってんの、一番充実した一日だったわよ!」
 チイコのトンチンカンが嬉しかった。
 進路の先生は、進歩派で、自衛隊には反対したが、チイコの決心は固かった。

 そして、明くる春に、チイコは自衛隊に入った。

 成績が優秀なので、南西方面遊撃連隊という、自衛隊の海兵隊のようなところに回された。車の免許から、無線、小型船舶の免許まで取れて、チイコの嬉しそうなメールがくるのは、オレにも楽しかった。
 オレは、大学生になっていた。うちの高校からは二人しか通らない難関の大学で、みんなは奇跡だと言ったが、オレには当たり前だった。

 そのころから、オレンジの口数が少なくなってきた。

「どうか、したの?」
 オレンジが、久々に人間の姿で現れた時に聞いてみた。相変わらずオレンジのセーラー服を着て、ベッドのおれの横に寝転がった。
「変わったわね、ナオキもチイコちゃんも」
「そうかい? ま、確かにね……オレンジのおかげだよ。ここまで立ち直れたの。ありがとう」
「なに言ってんの、半分は二人の力よ。二人の可能性がゼロなら、あたしが何をやっても答はゼロよ。チョイ借りのつもりが三年もいっしょに居ちゃった……」
 珍しく、オレンジの声が湿っている。
「どうかしたのか?」
 そう言うと、オレンジは、横向きになって背中を見せた。思わず肩に手をやった。当たり前なんだろうけど、人間の女の子のように柔らかくて暖かかった。
「お願い、しばらく、そうしていてくれる」
「あ、ああ……人間のオレンジに触ったの初めてだな」
「ありがとう、人間て言ってくれて」
「オレンジ……」
「そのまま、これ以上はチイコちゃんに悪い」

 その明くる日、オレンジが居なくなった……。

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