大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・あたしのあした・31『これでいいんだ秋の夕暮れ』

2016-10-11 12:12:12 | 小説
高校ライトノベル
あたしのあした・31
『これでいいんだ秋の夕暮れ』
      


 智満子はいっしょに乗っては行かなかった。

 あたしたちへの遠慮なら、ギャラクシースペシャルに放り込んででも行かせた。
 インターチェンジまで歩いてきた早乙女女学院と飯館女子の子たちは女子高生の雰囲気じゃなかった。
 太宰治の『走れメロス』のメロスが四十人居て、それがみんな女の子だったらこうなる。そんな感じ。
 メロスと言っても、途中投げ出そうという気持ちと闘っているときのじゃない。シラクスの街を目前にし、どうしても友人セリヌンティウを助けるんだ! と決意に満ち溢れたメロスだ。こんな圧の高い人たちといっしょに行ったら、その情熱と圧で息が止まってしまう。

「じゃ、この人たちを送ったら拾いに来ますから!」

 いつも冷静な手島さんもまなじりを上げてハンドルを握りなおした。
 なんだかエヴァに乗り込む碇シンジをサポートする葛城ミサトのようだ。

「SNSとかで中継とかやってないかなー」

 スマホをいじりながらベッキーが呟いた。
 他のみんなもスマホをいじっていたが反応が無い。
 女子高生がヒマするとスマホをいじるってのは相場なんだけど、この反応の薄さは……と思ったら、みんなも同じ思いで、あちこち検索を掛けているようだ。
 会場はスマホのスイッチは切らなきゃいけないことになっているけど、1200人も居るんだ、こっそり撮っている人が居るに違いない。
「あ、あったよ!」
 ネッチがヒットしたので、みんながネッチを囲んで集まった。
「ちょ、押さないでよ!」
 たちまちネッチは押しつぶされそうになる。
「みんな自分のスマホで観ればよくね?」
 理論派のノエチンが提案すると、みんなその場でスマホとにらめっこを始めた。
 広いインターチェンジなんだから、それぞれ好きなところに散ればいいのにと思う。
 一ところに固まっている様子は、まるで猿山のお猿さんたちみたいだ。

 ん……一瞬ちがう光景が浮かんだ。折りたたんだ新聞に鉛筆を持たせたら競馬場のオッサンたちと変わらない。

 競馬場なんか行ったこともないのに、そんな気がする自分がおかしい。
 てか、あたしは、その猿山の真ん中に居る。あたしはボス猿じゃないわよ。
「ち、切れちゃった!」
 スマホで撮り続けていては電池がもたない。ずっと撮っていろというのが無茶だろう。
「ちょ、お花摘み!」
 ミャーが宣言すると、たちまち八人ほどが右へ倣えになった。

「ね、待合室のテレビで中継やってるわよ!」

 ミャーが手を拭きながら、待合室の入り口で叫んだ。
 そうなんだ、これだけのイベントなんだから地元ローカルならやってるかもしれない! なんで思いつかないかなあ!

 100インチのプロジェクターの前に、あたしたちは陣取った。

 プロジェクターは8Kの最新型で、迫力も臨場感も満点だ。
「会場じゃ、みんなバラバラだけど、こうやってみんな揃って観られるのもいいよね」
 智満子が言う。
「うん」「そうだね」と賛同の声が上がる。
 いくら8Kがクリヤーだと言ってもテレビはテレビ、ライブで観るのがいいに決まってる。
 だけど、みんなで決心して早乙女を助けて、揃って観られることを喜ぼうという空気があった。
 けっきょく手島さんが迎えに来た時は早乙女には間に合わなかった。

 でも、これでいいんだ! と思う秋の夕暮れだった。
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