大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・時かける少女・54『正念寺の光奈子・4』

2017-05-15 06:51:34 | 時かける少女
時かける少女・54 
『正念寺の光奈子・4・アミダ現る』 
       

 昭和二十年四月、前月の大空襲で肺を痛めた湊子(みなこ)は、密かに心に想う山野中尉が、沖縄特攻で戦死するまでは生きていようと心に決めた。そして瀕死の枕許にやってきた死神をハメた。死と時間の論理をすり替えて、その三時間後に迫った死を免れたのだ。しかし、そのために時空は乱れ湊子の時間軸は崩壊して、時のさまよい人。時かける少女になってしまった……今度は、正念寺というお寺の娘の光奈子になり、演劇部員だ。

 
 光奈子の朝は、本堂の阿弥陀さまに御仏飯(オッパン)を供えることから始まる。

 いつものようにオッパンを供えると、お盆を胸に抱えた。ここまではいつも通りである。小学校の四年生から、この役は光奈子と決められている。

 いつもと違うのは、ここでため息をついたことである。クラブのことが気がかりなのだ。シノッチ先生は、ああ言ったが、林田が辞めた先生の役を外すと、台本が成り立たない。シノッチ先生も勢いで書き直しを引き受けたが、困っているであろうことは容易に想像できた。明日から三連休。それが過ぎれば、九月も半ば。コンクールまで、実質一カ月しかない。だからため息になった。

「ちょっと待ちなよミナコ」と、声がした。

 え……振り返っても、本堂のどこにも人影はない。
「ここだよ、ここ」
 須弥壇の宮殿(くうでん)の中から声……すると、阿弥陀さまが、グーッと大きくなりながら宮殿からお出ましになり、光奈子の前にお立ちになった。

「あ、阿弥陀さま……!」

 光奈子は、思わず正座して手を合わせ、お念仏を唱えてしまった。

「そんなカシコマルことはないよ」
 気楽に阿弥陀さまは、光奈子の前でアグラをかいた。
「だけども、やっぱり……南無阿弥陀仏!」
「オレは、ミナコのアミダさんだよ」
「へ……」
「人様の手前、こんな伝統的なナリはしてるけどね、本名はअमिताभ Amitābha[amitaabha]」
「へ……」
 光奈子は、間の抜けた返事をするしかなかった。
「ええと……無量光仏、無量寿仏ともいって。無明の現世をあまねく照らす光の仏にして、空間と時間の制約を受けない仏であることを示すんだけども、本来なら姿は見えない。だから、これはミナコに見えるための仮の姿。まあ、CGかホログラムみたいなものだと思って」
「ホログラム……初音未来のバーチャルコンサートみたいな?」
「そそ、ただ、この姿はミナコにしか見えないから、そのつもりで。時間も止まってるからね、いつまで喋りあっても時間はたたないからね」
 なるほど、本堂の時計は止まったままだし、寺の前を駅へと急ぐ通勤、通学の人たちの喧噪も聞こえない。本堂の戸を開けてみると、世界がフリーズしていた。

「分かったかな。オレ、ミナコを助けるために出てきたの。ミナコには、その能力と問題があるから」
「能力と問題?」
「こうやって、オレってか、あたしと通じる能力。そしてとりあえずは、ミナコが抱えている問題。今はクラブの台本のことだね」
「うん……なんとかしないと、ひなのも浮かばれないもん」
「ひなのは、もう御浄土に行ったからいいんだよ。ただ、ひなのの気持ちを大切にしてやりたい気持ちは大事だと思う」
「なんか、名案あります?」
「基本は、シノッチ先生も含めて、演劇部の不勉強。部員が何人になろうと、やれる芝居の三つや四つは持っていなきゃ。シノッチ先生も、本書くんだったら、条件に合わせてチャッチャッと書き直す力がなきゃね。そういうとこナイガシロにして、プータレてんのって、ダサイ。だから演劇部って人気がないんだぜ。そもそも……」
「あの、お説教は、またゆっくり聞きますから、なんか対策を」
「スマホで、小規模演劇部用台本ての検索してみな。『クララ ハイジを待ちながら』てのがあるから。主題は、今までの本と同じ。閉じこもって揺れながらも前に進もうって姿と、その道の険しさが、両方出てる」
「クララ ハイジを待ちながら……覚えた!」
「よしよし。じゃあ……」
「あの、一つ聞いていい?」
「いいよ。時間は止まったままだから」
「あたしのこと、なんだかカタカナのミナコって、呼ばれてるような気がするんだけど?」
「そりゃね、光奈子は、世界中……って、まあ主に日本だけどね、ミナコって名前の子の人生をみんな引き受ける運命にあるからさ。ま、それはいい。光奈子は、いまのミナコを一生懸命生きればいいよ。オレ、あたしのことも、カタカナのアミダさんでいいから。じゃあね」

 アミダさんが消えると、街の喧噪と、家の日常音がもどってきた。人の世というのは雑音だらけだと光奈子は感じた。

 さっそく、朝の支度と通学時間を使って『クララ ハイジを待ちながら』を読んだ。主役のクララは、大変そうな役だけど、面白そうだった。学校に着いたら、昼にでも、学校のパソコンで引き直してプリントアウトしなきゃ!

 学校の下足室に着くと、知らない女生徒が立っていた。

「これ、印刷して綴じといたから」
 その子は、台本が三十冊ほど入った紙袋をくれた。
「あ、あなた……?」
「アミダ、あたしは、をあまねく照らす光の仏って、言ったでしょ。しばらく網田美保ってことで、ときどき現れるから。あ、それから、ひなのを跳ねた犯人は、午前中には逮捕されるから」
 そう言って網田美保は行ってしまった。

 光奈子は、まずシノッチ先生に台本を渡した。

「うん、読ませてもらう。正直、書き直しは進んでないんだ」

 休み時間に、残り三人、碧(ミドリ) みなみ 美香子にも渡し、放課後の部活では、みんな『クララ』を演るつもりになった。

 キャストも決まった。クララが碧、シャルロッテがみなみ、ロッテンマイヤーが美香子。で、演出が光奈子に収まった。
「スタッフ、足りないから、新入部員掴まえてきた!」
 シノッチ先生が、にこやかな顔で入ってきた。
「よろしく。二年B組の網田美保です!」

 サッと部室に光が差し込んだようだった。シャクに障るのは、部員の誰よりもカワイイことであった。


※『クララ ハイジを待ちながら』は実在の戯曲です「小規模演劇部用台本」又はタイトルで検索してください。 

ジャンル:
小説
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