大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・《紛らいもののセラ・10》公認の約束違反

2017-07-13 05:56:58 | 小説4
 《紛らいもののセラ・10》
公認の約束違反



 二度目のスタジオは、少し緊張した。

 でも、自分のギターをきっかけにイントロが流れ始めると、あとは、すっと曲の世界に入っていけた。

 男臭い六畳の窓を開け、寒さの中にも、かすかな春を感じる。ちょっと多感すぎるかな……🎵

 歌い終わると、一瞬の間があって、スタジオに拍手が満ちた。拍手の中心にいた猫柳徹子が後ろからハグしてくれた。
「とても良かった。こんな素敵な約束違反、とっても嬉しいわ!」
 徹子は、そう言うと、いつもの「徹子のサンルーム」のセットの方にセラを誘った。
 セットには、手紙を書いた佐藤良子と、その手紙を詩と感じ見事なバラードに仕立て上げた大木功が控えていた。
「ボクが作った以上の仕上がりでしたよ!」
「ありがとうございます。曲を頂いて、とっても迷いましたけど、良子さんも、とても喜んでくださったし、何より徹子さんが『これは絶対裏切るべきよ!』って、自分でおっしゃるもんで……わたしなに言ってるんだろ。ああ、とにかく歌い終わって感動です!」

 以前、猫柳徹子は、セラがハーフの上にとても魅力があり、人を相手に話すことにも長けていたので、音楽事務所のスカウトなどには乗らないように、このセットで注意したところであった。
 それが、バス事故の慰霊祭で犠牲者の妹の佐藤良子の手紙をセラが代読。そしてYouTubeで流れた動画でみた作曲家の大木功が一晩でバラードに仕上げてしまった。
 並のスカウトなら断ったが、大木自身がどこの事務所も通さずに、直接楽譜をセラと良子に送った。

 で、セラがみんなと相談するうちに、今日の運びとなってしまった。

 一般の視聴者の反応もさることながら、事故の遺族の人たちも、この曲を好意的に受け止めてくれた。
「プロになんかならなくていいから、この曲だけCDにしてみないかい」
 大木の提案は、直ぐに実行され、否応なしにセラは、新人のシンガーとして認識されてしまった。

「出演のオファーがこんなに来てる。これは、もうマネージャー付けて管理しなきゃ、やってけないわよ」
 タブレットのオファー一覧を見せながら、春美はセラにプロとしての登録を勧めた。春美にしても、事務所所属のシンガーになってもらわないと、マネジメントの仕事ができない。

「やれるとこまで、やったらいいと思うわよ。世間なんて浮気なものだから、ブームが過ぎたらただの人よ。遺族の人たちが喜んでくれている間だけでもやってみたら」
 自分でもマスコミに翻弄された経験で、元皇族家の三宮月子がアドバイスしてくれた。
「分かった、良子さんも喜んでくれてるし、やれるところまでやってみるわ!」
「うん、それがいいわよ!」
「ようし、決意記念にお汁粉で乾杯だ。オバちゃん、お汁粉二つ!」
 かくして、学校の食堂で、一曲限定歌手の世良セラの誕生となった。連絡した春美は二つ返事で了解、さっそく今月のスケジュールを送ってよこしてきた。
「読まれてたわね、これって、セラが承諾することが前提でなきゃ組めないスケジュールよ」
 上品にお汁粉をすすりながら月子が言った。

 その日家に帰ると珍しく、父の龍太が帰っていた。

「仕事、一段落?」
「ああ、やっとな。なんたって海自最大の艦を、最軽量で作ろうってんだからな。アレンジミスの修正から計算しなおして、計画案よりもいいものになった。進水式にはセラも来いよ。最新鋭艦と人気新人歌手、話題になるぞ!」
「それまで、続いていたらね。お母さん、お腹空いた!」
 セラは、よく言えば元気に、ありていに言えば行儀悪くソファーにひっくり返った。
「今の、動画でとったぞ。ネットで流したら評判だろうな!」
「もう、なんちゅうアニキよ!」
 兄の竜介が意地悪を言う。母の百恵は、再婚以来初めて家族らしい団らんになったと嬉しそうにキッチンで夕食の用意を始めた。

「お父さん、用意ができましたよって、お母さんから」
「ああ、いま行く……」
 龍太は、再婚以来撮りだめにしていた、家族のビデオをパソコンで編集しなおしている最中だった。ちょうど再婚一周年記念の家族旅行の映像がモニターに写っていた。
 一人そっぽを向いている自分がおかしかった。

 そう、おかしく感じた。

 この時の記憶はあるが、なんだか他人のそれのような違和感を感じた。

「なにミイラ取りがミイラになってんのよ。お鍋だから、早くして」
「はーい」
 そう母の声に反応しながら、もう違和感のことは忘れているセラだった。
 

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