大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・《紛らいもののセラ・13》出でよハートのエース

2017-07-16 05:59:50 | 小説4
 《紛らいもののセラ・13》
出でよハートのエース



 ちょっと探してしまった。

 約束した駅の西側に行っても、大木の姿も春美の姿も見えなかった。
――いったい、どこなの?――
 そんな気持ちでキョロキョロしていると、駐車場の方から小さくクラクション。
 大きめのワンボックスカーのドアから春美がオイデオイデをしている。

 車の中には、春美さんと大木さんの他にも、カメラさんやらのスタッフがいて驚いたけど、そんな驚きは一瞬で、大木は新曲の歌詞と楽譜をセラの前に広げた。

〔出でよハートのエース〕

 タイトルの下には、何種類かの歌詞が書いてあった。
 要は、トランプの裏側はみんな同じで、めくるとジョ-カーを含めて53の顔があり、人間本当の姿は、トランプの表をめくるように分からない。それっで、宿題の出来から始まって、彼の気持ちをどう受け止めるかまで、韻を踏んで女の子の気持ちと、無限に変われる可能性を明るく歌った13の歌詞が並んでいた。
「一番と、最後の歌詞は決まりだと思うんだ。宿題の出来から始まって、彼の気持ちをどう受け止めるか。で、セラちゃんには、その間の歌詞を5つほど選んで欲しいんだ。青春の揺れる気持ちと可能性を明るく歌い上げた、これでセラちゃんの解離性同一性障害の噂を逆手にとってヒットもとばせる。いや、ヒットは副産物。今のセラちゃんを元気にできると思うんだ」

 気づくとワンボックスは動き出していて、セラの心を揺らしながら事務所のスタジオに着いてしまった。

 この業界の恐ろしいところは、考えている間もなくことを進めてしまうこと。
 その日のうちにレコーディングが終わってしまった。
 春美たちの気持ちは、純粋ではなかった。かと言って、セラを食い物にして儲けようという気持ちでもない。自分たちの手でスターを育てたい、そのことでファンの人たちが生き生きと元気になれば、それが彼らの喜びである。
 世の中に絶対の善など存在しないとセラは思っている。
 セラは春美や大木の敷いたレールから降りるつもりはなかった。
 実際〔出でよハートのエース〕はヒットし、解離性同一性障害ということだけで、マスコミから騒がれることもなくなった。
 世間もセラの事をバス事故に便乗して出てきたぽっと出のタレントとは見なくなっていた。

 きっかけなんてどうでもいい、みんなを元気にしてくれるアイドルが生まれたんだから。セラの人気上昇の早さは業界新記録になった。

「セラは城中高校の希望の星よ。仕事で抜けた授業なんか、わたしがカバーしておくから、セラは仕事に専心してちょうだい!」
 三宮月子は、校内でのフォローと親衛隊長を買って出た。

「お客さん、疲れてますね」

 収録が深夜に跨り、放送局が出してくれたタクシーの中、ふと眠りかけたらウンちゃんが、そう話しかけてきた。
「あ……どうも、まだ体が、この仕事に慣れてないもんで」
「苦労しますね。アイドルも大変だ」
 セラは、ウンちゃんの声に聞き覚えがあるような気がしてバックミラーを見た。

「あ……!」

 セラではない記憶の半分が蘇った。
「あなたは、サリエル部長天使!」
「やっと見つけたよ、本物のセラの魂を」
 その一言で分かった。この体の中に居る「わたし」は本物のセラじゃない。本物は……。
「そう、おまえさんの心に同居している。解離性同一性障害などと言われたのは、そのせいだ」
「じゃ……今あなたと喋っているわたしは?」
「それは、決まりで言えないことになっている」
 サリエル部長天使はニベもなく言った。

「お客さん、着きましたよ」

 ウンちゃんが、そう言ったときセラは夢から覚めたが、夢の中身が本当であるという確信が生まれていた……。 

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