大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・小悪魔マユの魔法日記・18『知井子の悩み8』

2017-07-18 06:29:03 | 小説4
小悪魔マユの魔法日記・18
『知井子の悩み8』



 浅野さんはうつむいてしまったが、マユはたたみかけるように続けた。

「あなたは、多分一次選考のあとで死んだの。あなたに自覚はないから、原因は分からない。でも、あなたのオーラは生きてる人間のそれじゃない。他の人には見えないけど、受験者が一人多いのに、さっき気づいたわ」
「……それは、他のだれかが間違えているのよ。いや、スタッフかも知れない。わたし、こうやってちゃんと、二次合格の書類だって持っているもの」
 浅野さんが手にした書類は、ただのA4の白紙のコピー用紙だった」

 エアコンの静かな音だけが際だつ間があいた。

「……これは、ただの白紙の紙よ。浅野さんには、これが本当の合格通知に見えるんだ」
「だって、こんなに、はっきりと『二時選抜合格、浅野拓美様』って書いてあるじゃない」
「あなたは、死んだ自覚がないから、それに合わせた都合のいいものしか見えないのよ。無いものだってあるように見えているだけ……」
 
 浅野さんの、目が怒りに燃えてきた。マユに本当のことを言われ、当惑が怒りに変わってきた。部屋の中に風がおこり、机や椅子が動き出し、部屋の中はグチャグチャになった。

「あらあら、部屋がこんなになっちゃった」
「……わたしじゃないわ。わたしには、こんな力はないわよ」
「かなり重症ね。とりあえず片づけましょう」
 マユが、指を動かすと、部屋は、あっと言う間に元の姿に戻った。
「あ、あなたって……」
「だから、悪魔。おちこぼれだけどね。はい、もう一度、落ち着いて書類を見て」
「……は、白紙! あ、あなた、わたしの合格通知をどこへやったの、どうしたの!?」
「何もしないわ、浅野さんにも、本当のことが見えてきたのよ」
 再び、部屋のあらゆるものが揺るぎだし、有機ELの照明がパチンと音を立てて割れた。マユは、照明が落ちた時点で浅野さんの霊力を封じた。
「あなたに自覚はないけど、そうやって、二次選考では、何人もの子たちに怪我をさせたのよ。だから、最初にスッタッフのおじさんが注意していたでしょう」
「わ、わたしは……」
「そう、そんなつもりも、自覚もない。人の演技を見て、スゴイと思ったら、無意識のうちに脚をからませたり、転ばせたり……」
 それでも浅野さんは、飲み込むことができず、頭を抱えている。
「仕方ないわね……」
 マユは、部屋の窓を景気よく開けると、浅野さんにオイデオイデをした。
「外になにかあるの……?」
 窓ぎわに来た、マユは浅野さんの脚を、ヒョイとひっかけ、背中を押した。
「キャー!」
 悲鳴を残して、浅野さんは、はるか眼下のコンクリートの歩道に落ちていった。

「……わたし、いったい?」

 歩道で、怪我一つしないで佇んでいる自分に驚いた。
「行くわよ!」
 はるか上の窓から、口も動かしていないのに、マユの言葉が振ってきた。そして、その直後、マユが頭を下にして、真っ逆さまに落ちてきた。で、地面につく直前に一回転して、体操の選手のような決めポーズで着地した。
「す、すごい……」
「足から落ちてもよかったんだけど、それだとおパンツ丸見えでしょう。だからね」
「すごい、超能力!」
「あなただって、今やったとこじゃないの。わたしは悪魔だから、あなたは幽霊だから、怪我一つしないのよ。それに、周りの人を見てごらんなさいよ。だれも、わたし達に無関心でしょ。女の子が二人立て続けに、あんな高いところから、落ちてきたのに」
「どうして……」
「ほら、今、男の人があなたの体をすり抜けていく……」
 浅野さんは、「あ」と声を上げたが、かわす間もなく、男の人は彼女の体をすり抜けていった。
「あ、あの人って、幽霊?」
「幽霊は、浅野さん、あなた」
「で、でも……」
「まだ、分からない? じゃ、もっかい、あの部屋に戻ろう……入り口からじゃないの。戻ると思えば、それでいいの」

「わたし、やっぱり……」
「そう、死んでるのよ」

 もとの部屋に戻って、浅野さんはションボリしてしまった。
「……一次選考のあと、交通事故があった。わたしはすんでのところで……」
「そう、多分そこで死んだのよ。可愛そうだけど、それが真実」
「……でも、わたし、このオーディションには受かりたい」
「そうやって、浅野さんが居れば、あなたは無意識のうちに、人に怪我を……いいえ、今日は人を殺してしまうかもしれない。それだけ、あなたは危険な存在なの」
「……じゃ、どうすれば」
「もう、あっちの世界に行きなさい」
「あっちって……?」
「死者の世界……分かった?」

 浅野さんは、しばらく目に大粒の涙を浮かべ、ようやく……コックリした。

「わたしが、送ってあげるわ」
「うん。仕方……ないのよね」
「じゃ、いくわよ。目を閉じて」
「うん……」
「エロイムエッサイム……エロイムエッサイム……」

 全てを観念した浅野さん。その姿は、ハンパな小悪魔には、あまりにも心の痛む姿だった……。

ジャンル:
小説
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