大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・小悪魔マユの魔法日記・10『ダークサイドストーリー・6』

2019-08-22 06:20:27 | 小説5

小悪魔マユの魔法日記・10
『ダークサイドストーリー・6』

 

「え……各駅停車……」

 片岡先生は、先週からダイヤが替わっていたことを忘れていた。先週までは、この時間は特急の通過であった。
 各駅停車でも目的を果たせないわけではないが、ホームに着く寸前で速度が遅い。
 片岡先生は、特急列車で景気よく跳ね飛ばしてもらい、きれいに即死したかった。

 それほど、メリッサ先生を見た衝撃は大きかった。

 片岡先生は気づかなかったが、メリッサ先生とシンディーは双子の姉妹である。それも、幼い頃、母親が亡くなり、別々の里親に育てられ、双子の姉妹がいることに二人とも気づいてはいなかった。
 だから、メリッサ先生が片岡先生を初めて見たときは、他人としての戸惑いでしかなかった。
 片岡先生も、中庭の池の鯉を見ているうちに、よく似た他人なんだろう……と、合理的に理解した。

 しかし、理解と納得は違う。

 それまで封印していた、シンディーへの思い出が、血を流しながら蘇ってきた。
 シンディーに会いたい……切なく、理不尽な願望で心が一杯になり、それは心の表面張力の限界を超えて溢れてしまった。
 そして、理不尽な願望は、飛躍した行動を彼に思いつかせた。

――死ねば、シンディーに会える……!

 で、片岡先生は、ホームで特急列車を待っていたのである。
 マユは、改札で、片岡先生の思念に気づいた。
 

――なんとかしなくっちゃ。
 

 マユは、うろたえた。悪魔の立場から言えば、人間の不幸は願ってもないことのように思えるが、実際は違う。
 読者にはもうお分かりかもしれないが、悪魔の役割は人を不幸にすることではない。人が正しい選択をするために、試練を与えることにある。
 たとえば、敵に追われて川辺にたどり着いた人間がいるとする。天使や神は、その時の人間の心の清らかさや、信仰心次第で、橋を架けたり、川を割って道を造って人間を助けてやる。
 悪魔は違う。ひとまず隠れる場所を与え、あとはホッタラカシにする。人間が苦しみ悩み、自分で結論を出し、行動をおこすのを待つ。ときにヒントとして、川の側に小さな木を植えたり、ゴロゴロの岩を用意しておく。人がそれに気づき、木を大きく育て橋を造ったり、岩を川に投げ入れ足場を作って、自分の力で解決するのを待つのである。時に、それは人間の時間で何世代もかかることがある。
 この試練と救済をめぐって、サタンという天使は神と争った。そして天界を追われ、悪魔の烙印を押されてしまった。オチコボレ小悪魔のマユは、そのへんの機微が分かっていないので、人間界に落とされて修行中の身なのである。

 方や、オチコボレ天使の雅部利恵(みやべりえ 天使名、ガブリエ)は、救済のなんたるかや、タイミングが分かっていないので、この人間界に落とされ、偶然……実は、神さまと悪魔、それぞれの名誉をかけて同じ学校の女子高生として送られてきた。
 で、無気力教師の片岡先生の閉ざされた心の奥を、互いに覗き込んでしまい、利恵の早とちりで、今回の不幸が起こってしまった。

 なんとかしなきゃ……このままでは、片岡先生は次の電車に飛び込んでしまう!

「先生、横に座っていい?」
 マユは、なんの思惑もなく、声をかけてしまった。
「あ、ああ……」
 片岡先生は、力無く答えた。取りあえず先生の飛び込みは阻止……しかし、後が続かない。

――先生の記憶を無くしちゃえばいいのよ。

 閉まった各停のドアから、利恵の思念が、お気楽に飛び込んできた。
 そんなの解決にならない!
 反発すマユであったが、と言って、簡単に道は見つからない。
 
 マユのこめかみから、一筋の汗が流れ落ちた……。

 つづく


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