大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ライトノベルベスト・真夏ダイアリー・4『ジャノメエリカ』

2017-06-20 06:43:37 | 小説3
真夏ダイアリー・4
『ジャノメエリカ』
        


 だいぶ慣れてはきたけど、やっぱ自分の名前を書くのには抵抗がある。
 
 冬野夏子


 入学式の日に大杉にからかわれ、カッとなったけど、客観的にみたら、やっぱ矛盾した姓名だ、苗字と名前がガチンコしている。省吾の春夏秋冬と書いて「ひととせ」と読むのは至難の業だけど、慣れてくるとミヤビヤカで、ハイソな雰囲気さえある。中村玉男は、本人が、あんなにナヨってしてなかったら、なんでもない。ナヨって感じで言うから「中村玉緒」って女優さんを連想してしまうんだ。

 で、少し抵抗感じながら、名前を書く。最初の問題は元素記号を書くだけ。これはチョロイ。次は元素名を書いて、元素記号にしろって、前の逆。
 もうけちゃった。わたしは、テスト用紙が配られるまで、必死でノートに、夕べはったヤマの元素記号や、化学式を繰り返し書きまくり、テスト用紙が配られると、用紙の端っこに、覚えたそれが記憶にある間に全部書きだした。いわば合法的カンニング。この方法だと80点とかは無理でも、50点は確実にとれる。だから、答は、それを見て写すだけ。わたしは中間テストでは28点の欠点だった。まあ、前の晩にお母さんとケンカしてろくにヤマ張りもできなかったってことが原因なんだけど、普段いかに勉強していないかのアカシでもある。で、どうしても、化学は62点以上取らなければ、二学期は欠点になってしまう。
 ところが、次の問題でこけた。

 次の銅と希硝酸の化学反応式の(?)を埋めなさい。

 ?Cu + ?HNO3 →?Cu(NO3)2 + ?H2O + ?NO2

 わたしは、プロパン(C3H8)の燃焼にヤマをはっていた。

  C3H8+O2→CO2+H2O

  答え
 C3H8+5O2→3CO2+4H2O


 ムムム……絶対プロパンは出ると思っていた。元素記号の問題だけで40点はある。これにプロパンの問題で20点。他にまぐれ当たりで2点を稼いで、ぎりぎりセーフ……のはずだった。

 五分ほど、問題とにらめっこして集中力が切れてしまった。
 夕べみた夢が思い出された。

 夢の中で女の子が現れた。

 薄桃色のAKBの制服みたいなのを着ていた。風もないのに、その子のうす桃色の衣装も、セミロングの髪も、軽くそよいでいた。気が付くと(むろん夢の中)その子と目があった。
 ちょっぴり寂しげだけど、わたしのことを見てニコニコしてくれていた。
「だれ、あなた……?」
「……エリカ」
 それだけ言うと、エリカは口をきかなくなった。ただニコニコ微笑んで、わたしを見ている。なんだか癒される笑顔。
「エリカ……ちょっと寂しげだね」
 そう聞くと、エリカは軽く頷いて、視線を上げた。その視線をたどっていくと、壁が透けて、隣りのお母さんの部屋が見えた。お母さんは、歯ぎしりしながら眠っていたけど、急に目覚めると、頭とお尻を掻いてカーディガンを羽織ると、パソコンに向かって文章を打ち出し、オフィスアウトルックを開き、添付書類にして送信ボタンを押した。なにか仕事のことで思いついて、どこかへメールを送ったようだ。

――寝ても覚めても仕事だ……。

 半分同情、半分怒りが湧いた。五分ほどで、それを終えるとお母さんは、片方のお尻を上げてpass gasした。で、なにやら、スケジュ-ルを確認するとパソコンを閉じ、再びベッドへ。そして、ほんの十秒ほどで、また眠り始めた。で、顔を戻すと、またエリカと目が合った。エリカは優しく頷いた。
 エリカが消えたのか、わたしが眠りに落ちたのか、そこでおしまい。

 今朝、お母さんに声を掛けようとしたら、

「あたし、早出だから、テキトーに食べて行ってね」
「あのさ、お母さん」
 いつもなら、こんな母親はシカトするんだけど。なぜか声をかけてしまった。
「なに?」
「たまには、二人で、どっか行こうよ。引っ越しの買い出し以来、どこにも行ってないよ、二人では」
「だっけ……」
「……ま、言ってみただけ」
「そうね……出るときプラゴミ出しといてね。先週出し忘れて一杯だから」
「はいはい……」

「はいは一回だけ」昔は、お母さん注意してくれた。でも、ろくに返事もしないでお母さんはドアの向こうに行ってしまった。瞬間吹き込んできた冷たい外気にブルっと震えた……。

 そんなことを思っているうちに、鐘が鳴った。
 ああ、これで二学期、化学の欠点は確定だ。

「ねえ、帰りに駅前のラーメン屋行かない? 新装開店で、今日半額だよ」
「ワリー、今日部活」
「エー、なんでテスト中に部活!?」
「そういうクラブなんだ、文芸部って」
「ごめんね」
 そういうと、省吾と玉男は、わたし一人残して、教室を出ていった。

「信じらんねー、あんたたちが文芸部だなんてー!!」
 教室の窓から、思い切り叫んでやった。
「また、遊んでやっから!」
 省吾が叫んで、玉男が笑った。

――遊んでなんかいらねーよ。ただ、話がしたかっただけなのに。聞いてもらいたいだけだったのにイ!

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