大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・志忠屋繁盛記・4『300グラムのステーキ』

2012-10-28 18:13:05 | 志忠屋繁盛記
志忠屋繁盛記・4
   『300グラムのステーキ』



 300グラムのステーキを目の前にして、タキさんとKチーフはため息をついていた。

 ため息をつくほど旨そうなのではない。いや、旨そうなのである……見た目には。いやいや、このステーキを作るプロセスを見ずに、これを出されたら、だれだって旨そうと思うのに違いない。
 ところが、オーナーシェフのタキさんも、Kチーフも作るプロセスを見ている。
 正確には、ステーキの原料を知っているのである。

「あのなあ、トモちゃん……」
「なんか文句あんの?」
「いえ、いただきまーす!」
 タキさんとKチーフは、幼稚園児のような素直さで、お箸を構えた。

「どうよ、けっこういけるでしょ」
 トモちゃんは、カウンターに並び、いっしょに300グラムのステーキを主菜にしたマカナイの昼食を食べだした。トモちゃんが完食し、二人のオッサンが、なんとか2/3ほどを食べ終えたころ、〈準備中〉の札も構わずに女子高生が入ってきた。
「こんにちは……」
「あ、はるかちゃん……」
 Kチーフがすがるような眼差しで女子高生を見上げた。タキさんは「お……」と一瞥をくれただけである。
「あ、こんなもの二人に食べさせてるの!?」
「ここは食べ物屋のくせに、栄養管理がちっともできてないんだから」
「それにしても大根のステーキ200グラムはきついよ」
 と、はるかという女子高生は、オッサンたちに同情した。
「200ちゃう、300や」
 タキさんは、そう言うと、残った大根ステーキを口の中に放り込み、シュレッダーのように咀嚼すると、シジミのみそ汁で一気に胃袋に収めた。
「タキさんも、Kさんもオジサンなんだからメタボは仕方ないよ。ね、タキさん」
「はるか、それ、あんまりフォローになってへんで」
「別にメタボを非難してるわけじゃないんですよ。あ、言葉がいけないんですよね。ポッチャリてかデップリってか……あ、貫禄、貫禄!」
「おまえも、女優のハシクレやねんから、もっと言葉にデリカシー持たなあかんで」

 そう、この女子高生は、坂東はるかというれっきとした女優なのである。昨年の秋にひょんなことで東京の大手芸能プロである、NOZOMIプロにスカウトされ、高校生のまま女優になってしまった。詳しくは『はるか 真田山学院高校演劇部物語』をお読みいただきたい。
 そして、名前からお分かりであろうが、この志忠屋の新しいパートとしてやってきた、坂東友子の娘でもある。
「はるか、四時の新幹線なんじゃないの」
「そうだよ。六時間目からは、早引きしてきた」
「まさか、その制服のまま行くんじゃないでしょうね?」
「このままの方が、目立たなくっていいんだよ」
「うん、それアイデアやと思いますわ」
 Kチーフが、こっそりと大根ステーキの残りを始末しながら、賛意を表した。
「はるか、今、あんたの顔は全国区なんだからね、おちゃらけたこと言ってたら……」
「冗談よ、ちゃんと着替える。タキさんおトイレ借りますね」
 はるかは、ものの二分あまりで着替えて出てきた。ラクーンファーコートに大きめのキャスケットを被ると、顔の2/3が隠れてしまい、よほど近くに寄らなければ、本人だとは分からない。
「ほう、そんなんが似合うようになってきたんやなあ……」
 タキさんは、感じ入った声で言った。タキさんの言葉は、包み込むような父性を感じさせる。はるかは、こういうタキさんの物言いが好きだ。
「ありがとう、タキさん。お母さんのことよろしく。また、変なもの食べさせられそうになったら、言ってくださいね。じゃ、お母さん、制服とかよろしく」
 はるかは、制服と学校カバンが入った袋を目の高さにあげた。
「そこ、置いとき。帰りにオカンが持って帰るわ」
 タキさんが、伝票の整理をしながら、カウンターの横をアゴで示した。
「お店は、コインロッカーじゃないし、わたしは、はるかの付き人じゃないんだからね」
「わたしはね、お母さんが、他人様にご迷惑かけてないか、見に来たんだよ。お母さんは、なんでも自己流通す人だから」
「この店のことを思ってやってんの、ちょっとタキさん邪魔。ねえKちゃん……」
 トモちゃんは、タキさんの横の椅子に上がって、ソースの缶詰や、パスタの残量をチェックして、Kチーフに報告、Kチーフは、それをメモると、食材屋に電話をする。
「まあ、確かに並のアルバイトの倍は働いてくれるさかいなあ」
「そう言っていただければ……でも、なんかあったら言ってくださいね。このヒトは、とことんのとこで男心分かってないとこがありますから」
「グサッ……はるか、ちょっと生意気すぎ!」
「じゃあ、行ってきま~す」
 はるかの語尾は、自動ドアがちょん切ってしまった。
「ええ、お嬢さんですねえ……」
 Kチーフが、感心と、ちょっぴり憧れのこもった声で言った。

 手際よく、始末と準備を済ませると、Kチーフは窓ぎわのベンチ席で横になり、タキさんと、トモちゃんは、パソコンを取りだし、互いにもう一足の仕事を始めた。
 そう、タキさんは映画評論家であり、トモちゃんは、小なりと言えど作家の端くれ。互いに文筆だけでは食えないところが共通していた。

 ディナータイムになって、最初にやってきたのは、店の常連であるトコこと、理学療法士の叶豊子であった。
「わあ、トモちゃん、復帰したん!?」
「うん、編集の内職って、やっぱガラじゃなくって。それにタキさんが、どうしてもって言うから」
「当分、やってはるんでしょ!」
「うん、半永久的にね」
「そんな契約はしてない!」
「タキさんは、魔女と契約したのよ」
 タキさんが、厨房で目を剥き、慌てて十字をきった。その漫才のようなやりとりを、トコは、子どものように身をよじりながら喜んで見ていた。

 その姿にトモちゃんは、何かあったな……と、女の勘が働いた……。

『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』 

 2012年10月25日に、青雲書房より発売。全21章ですが序章のみ立ち読み公開。
 
お申込は、最寄書店・アマゾン・楽天などへお願いします。

青雲書房直接お申し込みは、定価本体1200円+税=1260円。送料無料。
送金は着荷後、同封の〒振替え用紙をご利用ください。

お申込の際は住所・お名前・電話番号をお忘れなく。

青雲書房。 mail:seiun39@k5.dion.ne.jp  ℡:03-6677-4351


 
 このも物語は、顧問の退職により、大所帯の大規模伝統演劇部が、小規模演劇部として再生していくまでの半年を、ライトノベルの形式で書いたものです。演劇部のマネジメントの基本はなにかと言うことを中心に、書いてあります。姉妹作の『はるか 真田山学院高校演劇部物語』と合わせて読んでいただければ、高校演劇の基礎連など技術的な問題から、マネジメントの様々な状況における在り方がわかります。むろん学園青春のラノベとして、演劇部に関心のないかたでもおもしろく読めるようになっています。


       
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