大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ひょいと自転車に乗って・03『乗れた!!』

2016-11-20 11:54:39 | 小説6
高校ライトノベル・ひょいと自転車に乗って・03
『乗れた!!』
        


 100回以上コケて自転車に乗れるようになった。

 100回以上というのは、100回目で、それ以上数えることを止めてしまったからだ。
 105回かもしれず、170回ほどかもしれない。
 数えることを止めたとといのは、不貞腐れたというんじゃなくて、ヘゲヘゲになって数える気力が無くなったから。
 尾道にいたころ、比叡山のお坊さんが『千日回峰行』という命がけの修行を成し遂げたというニュースをテレビで観た。
 お終いのころには意識ももうろうとするようで、テレビの画面を通しても、幽霊のようにやつれた姿が痛々しかった。
 わたしは、あの時のお坊さんのようになってしまっているんだ……乗れるようになったら、あのお坊さんみたいにテレビで紹介されるのかなあ……これだけやつれたら、体重の5キロくらいは痩せて、ぐっとスリムな美智子になれるんだ。そんなことを思っていた。

 ほれ、あと一周!

 京ちゃんに叱咤され、言い返す気力もなくてペダルをこいだ。
 一周と言っても、うちの駐車場だ。装甲車とか戦車とかジープとかがゴロゴロしている。その合間を縫っての一周だから、障害物競走のようなものだ。
「ゴール!」
 京ちゃんが叫んだ時には、ドウっと、自転車ごとひっくり返ってしまった。もう限界なんだ。
 やっぱ、十四歳で自転車の稽古だなんて無理なんだ……もう自転車になんか乗れなくてもいい。
 ひっくり返った、わたしの目には戦車と装甲車に縁どられた空が茜色になって「もうお終い」を暗示している。

「おめでとう! 乗れたやんか!」

「乗れた? なんで?」
 いぶかしがるわたしに、京ちゃんが続ける。
「最後の一周は、あたし、後ろに着いてただけやねんで。ミッチは一人で一周したんや!」

 実感が湧くのに数秒かかった。

 自分が感動しているのは、茜色の空が滲んできたことで理解した。

「ミッチ、おめでとう!」
 番頭さん格のシゲさんが乾杯の音頭をとってくれた。
 お母さんは「今日あたり乗れるようになる」と踏んで、記念の宴会の準備をしてくれていた。
 駐車場にバーベキューの用意がされ、恐縮する京ちゃんも混ぜて、宴会になった。
「大阪に来て、一番目出度い宴会だなあ!」
 遅れて戻って来たお父さんやらバイトさんたちも含めて文字通りの大宴会に発展した。
 いつも仕事ばっかりのお父さんやお母さんが気にかけてくれていたのが、とても嬉しかった。
 口にこそ出さなかったけど、住み慣れた尾道を離れて大阪に来るのは辛かった。大阪に来るのには、ここでは言い切れない事情と気持ちがあるんだ。
 人に気を遣われるのは苦手、苦手だから気を遣われる前に気を遣う。
 そんなのくたびれるだろう。シゲさんは言う。
「そんな、気なんか使ってないよ」と、気を遣ってしまう。

 でも、今夜の大宴会は、自分にも達成感があったせいか、気を遣っているという重しがとれた。

 それもこれも、もう生まれた時からの友だちみたくなっている京ちゃんのお蔭だと思った。
 
ジャンル:
小説
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 高校ライトノベル・秘録エロ... | トップ | 高校ライトノベル・タキさん... »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

小説6」カテゴリの最新記事

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
ブログ作成者から承認されるまでトラックバックは反映されません。