大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・トモコパラドクス・68『今は もう秋……』

2017-04-19 06:40:48 | トモコパラドクス
トモコパラドクス・68 
『今は もう秋……』
         

 三十年前、友子が生む娘が極東戦争を起こすという説が有力になった未来。そこから来た特殊部隊によって、女子高生の友子は一度殺された。しかしこれに反対する勢力により義体として一命を取り留める。しかし、未来世界の内紛や、資材不足により、義体化できたのは三十年先の現代。やむなく友子は弟一郎の娘として社会に適応する「え、お姉ちゃんが、オレの娘!?」そう、友子は十六歳。女高生としてのパラドクスに満ちた生活が再開された! 娘である栞との決着もすみ、久々に女子高生として、マッタリ過ごすはずであったが……


 なれの果てから、またメールが来た。これでもう三通目である。

 主に高校演劇の在り方や、津波のことをとりあげることの説明をしている。
 友子も、大人しく恭順の意を示せばすむことなのだが、こういう情熱と現実からの逃避を取り違えたオッサンは許せなかった。
 フェリペのなれの果ては、山坂といってS劇団を出ている。

 三通目を二度見たときに感じた……。

「あら、本当に来るとは思わなかった」
「オレも、本当に来てしまうとは思わなかった」

 江ノ電『鎌倉高校前』のプラットホームで、友子は、ある女性に擬態して、山坂を待っていた。学校には、自分の分身を行かせている。

「水曜が休みだってこと、覚えていてくれたんだ」
「三回、学校休んでデートしたでしょ」
「二回だ。古い思い出だけど、まだ記憶は確かだ」
「いいえ、三回。二回目に海辺でキスして、三回目は、ホテルの前で、先生は車停めたの」
「ハハ、あんな冗談、まだ覚えてんのか」
「じゃ、あのファーストキスも冗談だったんだ」
「若かったんだ……」

 それきり、二人は黙り込んで、目の前に広がる湘南の海を見つめた。

 十分ほどすると、下りの電車がやってきて、遅刻した生徒が二人降りてきた。生徒は二人に興味を示すこともなく、改札を出て行ってしまった。それをきっかけに山坂が口を開いた。

「海辺に出ようか」
「うん、稲村ヶ崎の方に行こう」

 天気は良かった。前線は、遠い日本海側を通過中たが、湘南は波が意外なほど高く、犬を散歩させている人を二人見ただけで、サーファーの姿はなかった。
「なんだか、二人で砂浜買い占めたみたいだな」
「フフ、十五年前も同じこと言ったよ」
「ハハ、オレって、進歩ねえなあ」
「その表現はよくないな。せめて、変化しないぐらいがいいよ。それも胸張って」
「なんだか、それじゃ、オレが自信うしなったみたいじゃないか」
「先生、三回目に言ったよね。十八になったら免許取れって」
「ああ、車に乗ったら世界が変わるからな」
「だから、免許取ったんだよ」
「ほんとか、オレ知らなかったぞ」
「卒業まで、内緒にしておこうと思ったら、ほんと、先生が言う以上に世界が変わっちゃった」
「おまえの世界が変わったのは認める。自動車を通り越して飛行機だもんな」
「わたし、CAやりながら、世界中のお芝居観てんのよ」
「ほう……」
「ねえ、石の投げっこしましょうよ」
「この波じゃ、水切りは無理だぜ」
「砲丸投げよ。どこまで投げられるか」
「ハハ、そんなの勝負にならないって」
「CAをバカにしちゃいけません。はい、これくらいかな」

 友子は、ソフトボールぐらいの石を二個拾った。

「一二の三よ!」
「分かった」
 二人で声を揃えて、石を投げた。友子の石が少し遠くに飛んだ。
「やったー!」
「同じくらいさ。でも、力つけたな」
「去年、中央大会観にいったのよ」
「なんだ、顔ぐらい出せばいいのに」
「わたし、顔に出ちゃうから」
「……どういう意味だ?」
「ちっとも変わってないとこ。ああ、こんなのを日本一の高校演劇だなんて思ってたんだ。ヤでしょ、そんなクソナマイキなOGは」
「無理いうなよ。たかが一二年で舞台に立つやつばっかなんだぞ」
「CAだって同じ。劇団の研究生だって、同じよ。でしょ?」

 山坂が、何か言いかけると、友子は、134号線の下に行った。

「あった!」
「なんだよ……」
「ファーストキスのしるし!」
「え……」
「あのあと、先生、ずっと海見てたでしょ。わたしその間に、このコンクリートに石でシルシつけたの」
「どれ……?」
「これ!」
「……この縦棒か?」
「縦棒じゃないわよ、少し斜めだけど、アルファベットの『I』よ」
「I……イニシャルじゃないな」
「アイよ。愛を一番簡単に、人に分からないように書こうと思ったら、これが一番でしょ」
「そうなんだ……」
 山坂と友子の目があった。ひとしきりの潮騒……山坂が、一歩友子に近づいた。友子は静かに目を閉じた。
「な~んちゃってね。ハハ、その気になった?」
「バ、バカにすんのか!?」
「尖ってはいけません。わたしは、今日、これをこうしに来たの……」

 友子は、勢いよく『I』に横棒を付け加えた。

「ペ、ペケ!?」
「違うプラスよ。足す引くの記号のプラス」
「プラス……」
「そう、先生も人生の半ばは過ぎたんだから。プラス思考でいかなきゃ」
「プラス思考か」

 山坂は、しばし、その記号を手でなぞった。

「碧(みどり)……」

 山坂が振り返ったとき、碧の友子の姿は無かった。

 噂では、フェリペの山坂の指導が変わったそうである。友子にメールが来ることも無くなった。

 そして、数か月後、山坂は知った。碧という卒業生は、着陸事故で、乗客を助けようとして、たった一人殉職していた。

 そう、あのプラスは、墓標のシルシでもあったんだ……。

 友子は、やっとトゲが一本抜けたような気がした。
 

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