大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・時かける少女・56『第六回日本高校ダンス部選手権』

2017-05-17 06:19:08 | 時かける少女
時かける少女・56 
『第六回日本高校ダンス部選手権』 
       

 昭和二十年四月、前月の大空襲で肺を痛めた湊子(みなこ)は、密かに心に想う山野中尉が、沖縄特攻で戦死するまでは生きていようと心に決めた。そして瀕死の枕許にやってきた死神をハメた。死と時間の論理をすり替えて、その三時間後に迫った死を免れたのだ。しかし、そのために時空は乱れ湊子の時間軸は崩壊して、時のさまよい人。時かける少女になってしまった……今度は、正念寺というお寺の娘の光奈子になり、演劇部員だ。


 光奈子の目は、釘付けになった……!

 新聞の真ん中のページに『第六回日本高校ダンス部選手権』が、見開きいっぱいに載っていたのである。見出しの下には、最優秀や、優秀賞の学校の晴れ姿が何枚も紙面を飾っていた。

「え、全国ネットで放送!」

 何とも言えない悔しさや、嫉妬心で胸がいっぱいになった。十月にFテレビでほとんど90分使って放送される。
 高校演劇は、長崎で全国大会が行われ、大阪の高校が最優秀になった。そのことだけでもオモシロクナカッタ!
 東京に比べ、大阪は質・量ともに半分だと思っていたからだ。それでも、このダンス部の目立ちようというか、厚遇ぶりにはムカツイタ! 参加校は、全国で235校に過ぎない。おそらく高校演劇の1/10ほどでしかないだろう。それが、それが……!

「それが、どうかした?」

 いきなり、アミダさんが網田美保のナリで光奈子の横に現れた。ちなみに場所は、本堂の外陣(げじん)である。ご本尊の阿弥陀様にオッパンを差し上げたあと、新聞を取りに行き、ここで読むのが光奈子の習慣になっている。
 大抵は、一面をザッと見て、パラパラと30秒ほどで全ページを眺めて、テレビ欄で二三分というのが平均で、最近の例外は、東京オリンピックの開催決定ぐらいのものだった。
 でも、今日は違う。これを見てしまったのだ。

「不公平だと思わない。演劇部だって、こんなに頑張ってるのに!」
「そっかな?」
「え、なによ、それ!?」

 アミダさんは、美保のニンマリ笑いのまま消えてしまった。

「朝から冷やかしだなんて、仏さんがやることじゃないわよ!」

 と、ご本尊に当たり散らして、学校に行った。
「藤井、朝から機嫌が悪いな。なんかあったか?」
「なんにもありません!」
 親切な担任にまで、当たり散らした。

「ちょっと、図書館にパソコン見にいこう」
 昼休みに、網田美保が誘いに来た。
「YOU TUBEで、ちょっと見てご覧よ」
 美保は、カチャカチャと『高校演劇』の動画を出した。そこそこにアップロードされているが、なんか日頃の稽古風景や、コンクールの断片みたいなのが多かった。
「けっこうあるじゃん」
「アクセス数見てご覧」
「あ……」

 光奈子は納得した。高校演劇のアクセスは、何百ってのが大半で一万を超えるのは、ほんの数本。ところがダンス部は、数万というのがザラにあった。
「演劇部って、関心がひくいんだよね……」
「他人事みたいに言うんじゃないわよ」
「あたしは、がんばってるわよ!」
「じゃ、なんで『クララ』を演るわけ?」
「そりゃ、アミダさんが……」
「ほら」
「え?」
「ほんとうにやりたいのなら、やりたい本の二三本は持ってなくっちゃ。いつも台本は、篠田先生任せじゃないの」
「それは、昔から……」
「これ、見てごらん」

 図書館の一角に部室が浮かび上がった。十人近い生徒が、熱い議論をしていた。実存主義とか、異化効果だとか、ベケット、イヨネスコ、その他いろいろ、光奈子の分からない単語で口角泡を飛ばしていた。どうやら、やりたい芝居がいっぱいあって、みんなで論議していいるようだ。
「これ、あんたたちの先輩。もう50年ほど昔のね」
「高校生じゃないみたい……」
「あのころはね……」
 美保が指し示した書棚には、二段丸ごと演劇関係の本で埋まっていた。
「で、今は……」
 ラノベが、それに変わっていた。
「レベルが、まるで違う……」
「まあ『コクリコ坂から』の世界だと思えばいい。あと、これ見て」

 劇場いっぱいの観客、その中でかなりの割合で混じっている高校生。見ている芝居は、ことごとく大人の芝居だった。赤や黒のテント劇場もあった。そして、何十万冊という演劇の本、原稿、そしてカタチにならない芝居への情熱、そういうものが、ワッと光奈子に押し寄せてきた。

「ついでに、これも感じて……」

 光奈子の心に、心地よいけど、荒々しい情念と疲労感が占めた。演劇部の部活では感じたことがないものだった。
「なに、これ……」
「あるダンス部員が、練習の終わりに感じているものよ」
「こんなに入れ込んでるんだ……」
「それが分かればいいわ。じゃ、またクラブで」
 そう言って美保は、行ってしまった。

 パソコンの電源を落とし、シャットダウンを待っていると、文学書のコーナーで、懐かしい気配がした。
「ひなの……!」

 こないだ亡くなったばかりのひなのが、何冊も文学書を積み上げて……一心不乱に読んでいた。

ジャンル:
小説
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