大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・かぐや姫物語・1・Преступление и наказание

2017-07-13 21:41:05 | 小説5
かぐや姫物語・1
Преступление и наказание


「いってきま~ふ……!」

 姫子はトーストをくわえたまま家を飛び出した。
 こんなことは初めてだ。
「しかたのない子ね」
 年老いた母は姫子の気持ちを気づかないまま、苦笑いして姫子の後ろ姿を見送った。
「見てやるんじゃねえ、おめえが見ていたんじゃ、涙も拭けねえや……」
「え……」

 開店準備をしていた父の方が、姫子の気持ちをよく分かっていた。

 姫子は、夕べ、自分が実の子ではないことを、じかに両親から聞かされた。
 姫子は、ほとんどそのことを知っていた。なんと言っても親との年の差が五十三もあるんだから……。

 今から十七年前、泣き声に気づいて、立川亮介は店の戸をパジャマ姿のまま開けた。
 そこには、竹の子の香りが残る段ボール箱に、オクルミにくるまれた赤ん坊が入っていた。
「お、おい、恭子!」
「なんですよ、捨て犬かなんかですか……?」

 それが始まりだった。

 赤ん坊は大きな声で泣いていたが、筋向かいの豆腐屋のオヤジも隣の喫茶ムーンライトのママも気づかなかった。その赤ん坊の泣き声は、立川家具店の初老の夫婦にしか聞こえなかった。
 夫婦には子どもが無かったが、育てるのには歳をとりすぎていた。
「この子が二十歳になったら、七十三だぞ、二人とも」
 亮介の言葉で恭子も決心し、赤ん坊を児童相談所に預けた。警察も乗りだし『要保護者遺棄』の疑いで捜査した。
「なに、すぐに分かりますよ」
 所轄地域課の秋元巡査部長はタカをくくった。段ボール箱には竹の子の香り、多摩市の農協のロゴもついている。オクルミやベビー服も新品のようで、有名そうなメーカーのロゴが入っていた。その線から当たれば、三日もあれば解決すると思っていた。

 ところが、農協もベビー服のロゴも実在のものではなかった。

 目撃者もおらず、法定期日も過ぎたので赤ちゃんは、児童福祉施設に送られることになった。

「うちの子にします!」

 秋元巡査部長から、そう聞かされたとき、恭子は決然として言った。夫の亮介はたまげた。

 そして、赤ん坊は立川夫婦に引き取られ、恭子の反対にもかかわらず「姫子」と名付けられた。
 家具屋の姫子で、商店街のご近所さんやお客さんたちから、案の定『かぐや姫』と呼ばれるようになった。名前も立川姫子なので、有名ラノベのキャラと一字違い。中学の部活は、ラノベのキャラと同じソフトボール部だった。

 夕べ、修学旅行用の書類を準備するときに、いずれ分かることだからと、父から養女であること伝えられた。
「やっぱし……いいよ、分かっていたから」
 その場は、そう言ったが、やはり直接言われるのは応えた。平気そうにしていたが、寝床に入ると涙が止めどなく流れるのに閉口した。
 姫子は、いつも通りに起きて食卓に着くときには、いつもの顔に戻っていた。

 でも、だめだった。親子三人、あまりにも普通すぎた。それが応えて、姫子はたまらなくなり、トーストをくわえたまま家を飛び出すことになったのである。

 そして、姫子も両親も気づいていなかった。姫子が本物のかぐや姫であることを……。


  つづく………☆

ジャンル:
小説
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 高校ライトノベル・オフステ... | トップ | 高校ライトノベル・《紛らい... »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
ブログ作成者から承認されるまでトラックバックは反映されません。