大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・乃木坂学院高校演劇部物語・52『第十一章・3』

2016-11-07 06:43:09 | 小説7
まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・52   



『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』姉妹版


 この話に出てくる個人、法人、団体名は全てフィクションです。

『第十一章 貴崎サイドの物語3・3』


 折良く繋ぎの仕事が見つかった。

 二乃丸学園高校の先生が急病になり、二学期末の今になって常勤講師が必要になった。小田さんのプロダクションが、新聞社を相手にさらなる訂正記事と謝罪を要求。訴訟も辞さない意気を見せ。新聞社も一面で、謝罪記事を載せ、編集長も更迭。
 そこへわたしが(匿名ではあるけども)学校をいさぎよく辞めたことも世間の知ることとなり、二乃丸学園は即決でわたしを常勤講師に雇ってくれた。
 一応学年末までの契約であるけども、来年度から正規職員として勤めて欲しいと非公式な打診があった。
しかし、やっぱ乃木坂の貴崎マリの名前はダテじゃない……と自惚れてもいた。

 着任したその日に、実質的な演劇部の顧問になった。

 二乃丸学園は、城南地区の所属であり、乃木坂とぶつからないのも気が楽だった。コンクールで、乃木坂と争うのはさすがに気が引ける……ってことは、自分が指導すれば、この欠点も無ければ、取り柄もない平凡な部員十名の二乃丸学園高校演劇部をイッチョマエの演劇部にする自信はあったのよね。

 初日から、わたしの指導は厳しかった。
 まず、発声練習をやらせてみた。満足に声が出る者が一人もいない。エロキューション(発声に関わるすべての技能)がまるでなっていない。鼻濁音ができないくらいは仕方がないとしても、腹式呼吸ができていないことは許せなかった。
 聞けば、都の連盟の講習会にも出ているとのこと。わたしは、その講習会でエロキューションの担当だった。
「講習会で、何を聞いてたのよ!?」
 つい乃木坂のノリになってしまう。
「まずは腹式呼吸だけども、あんたたち腹筋と横隔膜弱すぎ!」

 ちなみに、呼吸法は三通りある。
 一番ダメなのが肩式呼吸(俗に、肩で息をするというもので。息が浅く、発声器官である声帯にも影響を与えやすく。また、呼吸が観ている者に丸見えで、エキストラを演っても死体の役ができない……って、分かるわよね。息をしている死体なんてないでしょうが)
 次に、胃底部呼吸。これを腹式呼吸と間違えている者は、プロの役者の中にもいる。腹筋が弱く、横隔膜だけに負担をかけ、長時間やっていると胃が痛くなる(だからイテー部呼吸というものでもないけどね) これも、息が浅く。長丁場な芝居や、長台詞には耐えられない。
 三番目が、大正解の腹式呼吸。横隔膜と腹筋の両方を使い、イメージとしてはお腹に空気が入ってくる感じ。目安としては、おへその指三本分下(古い言葉で丹田と言います)がペコペコする呼吸法。吸い込める空気の量が多く、また声帯からも遠く影響を与えにくい。

 まず、できていないことを自覚させる。廊下の窓に向かって一列に並ばせ、窓ガラスにティッシュペーパーをあてがわせる。そして、口を尖らせ「フー」って感じでティッシュに息を吹きかけガラスに貼り付けさせる。最低二十秒……できる子は一人もいなかった。
 で、腹筋の訓練。初心者なので五十回にしてやるが、これもできたのは二人だけ。
「あんたたち、体力無さすぎ!」
 で、グラウンドを十周させたところで、時間切れ。
 クタクタになって、着替えている部員たちに宣告した。
「演劇部を文化部だと思ってる子は気持ち入れ替えて、演劇部は体育会系なんだからね」
 そして、集合時間の厳守(五分前集合)を言い渡し、こう命じた。
「明日は、トンカチとノコギリを持ってくること。いいね!」
 そして、解散するときにする挨拶を教えた。
「貴崎先生ありがとうございました。みなさんお疲れ様でした!」
 ヤケクソで十人が合唱した。

 明くる日は、一通りの腹式呼吸の練習を終えたあと、三六(さぶろく=三尺、六尺……つまりベニヤ板一枚分)の平台作りをやらせた。芝居の基本道具で、なにかと便利なのです。
 案の定、まともにノコも引けなければ、釘も打てない。
「いい、ノコギリは体の正中線のとこに持ってきて……」
 各自一本ずつの木を切らせ、釘を一本打たせたところでおしまい。
「貴崎先生ありがとうございました。みなさんお疲れ様でした!」
 これを一週間続けたところで、期末テスト一週間前。部活はテスト終了まで休止期間に入る。
 期末テストは、前任者に教えてもらっていた生徒のノートをざっとみて見当をつけて問題をつくり、内規通りの平均点(五十五点~六十五点)にピタリと収め、無事完了。

 テスト後の短縮授業になった。
「さあ、クラブがんばるぞ!」
 と、意気軒昂……だったのは、わたし一人だった。

 十人の部員の半分がほかのクラブとの兼業だった。乃木坂では許されないことだ。
「どっちかにしなさい!」
 言ったとたんに、三人が辞めていった。

 なんとか、腹式呼吸のなんたるかが分かり、平台一枚ができあがった時には、部員は半分の五人に減って、終業式兼クリスマスイブである十二月二十四日がやってきた。
 この日ばかりは、部活は休み。平台一枚の完成を祝し、五人の結束を高めるため、身銭をきって宅配ピザをサービスして、忘年会をしてやった。


 一人空回りした忘年会が終わったあと、わたしは降りしきる雪の中、潤香の見舞いに行ったのだった。
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