大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ライトノベルセレクト『メゾン ナナソ・1』

2017-07-18 06:01:16 | ライトノベルセレクト
ライトノベルセレクト『メゾン ナナソ・1』        


 気が付いたら彼女がそこに居た。

 サロペットジーンズのスカートのサラッとした髪が、僕の二の腕にかかったので気づいた。
「ごめんなさい、せっかく集中してたのに」
 ほとんど化粧気のない、でも十分にきれいな笑顔で彼女は言う。そこはかとなく、懐かしくいい香りがした。
「いいです。どうせ暇つぶしのモバゲーだから……」

 ボクは今時めずらしい浪人生だ、特推で贅沢を言わなければ入れる大学はあった。
 でも進路実績がイマイチなので一般の入試で4校受けて見事に落ちた。で、親の仕送りとバイトで浪人をやっている。
 イージーに専門学校なんかには入れたけど、そんなカテゴライズで自分をくくりたくなかった。

 バイトが終わると、三日に一度くらい、この『志忠屋』に来る。本店は大阪にあるけど、バイトで腕を磨いた多恵さんが東京にブランチを出した。本店のマスターは親父と古い友達、バイト時代の多恵さんとも顔なじみだったので、自然と、ここに寄り付くようになった。
「スマホ、面白い?」
「……てか、もう体の一部」
「そうなんだ……」

 それからサロペットの彼女は黙った。でも、他の人間には無いオーラが気になってスマホに集中できなくなった。

「あの、近所の人ですか?」
「そうよ、そこの川沿いに北。500メートルぐらいのところ。メゾンナナソに住んでるの。これでも管理人」
「え……」
「ハハ、似合わないでしょ。持ち主の伯母さんが亡くなってね、アパートってむつかしいのよ。住んでる人がいるからすぐには処分できない。で、立ち退きとか処理がつくまで、あたしが、親の代わりに管理人。まあ、いい人ばかりだから、あたしでも務まる」

 それからなんだか話し込んで、気づいたら二人で川沿いの一車線を歩いていた。

 横丁から、お風呂帰りらしいアベックが出てきて、サロペットに「こんばんは」と小さく挨拶した。
「うちの住人のクミちゃんと大介君。仲いいでしょ」
 二人は無言で、先を歩いていく。サロペットは気を使って歩調を落とし、ボクも、それに倣った。
「あの、お風呂ないんですか、アパート?」
「あったらアパートなんて言わない」

 前を歩く二人が、なんだか新鮮だった。無言なんだけどスマホをいじるわけでもなく、それでいてちゃんとコミニケーションがとれている。
「あ、あなた方向逆なんじゃない?」
「あ、ほんとだ」
 ボクは南へ行かなければならないのに北についてきてしまった。

「あたしナナソナナ。また志忠屋で会えるといいわね」
「あ、ボクは……」
「ボクはボクでいい。じゃあね」
 サロペットのナナソさんは、クルリと髪をなびかせて振り返ると、軽やかな足取りで一車線の向こうに行った。

 ナナソナナ……ハハ、上から読んでも下から読んでもいっしょだ。でも、どんな字を書くんだろ?

 そんな疑問が、懐かしいシャンプーの香りであることに気づくことと引き換え残った……。

ジャンル:
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