大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・JUN STORIES・4《殉の人》

2017-06-16 06:19:12 | 小説3
JUN STORIES・4《殉の人》


 年の瀬のこの季節、喪中葉書が多い。

 たいていは、ご両親のどちらかが亡くなったもの。
 言い方に困るが、我々の親は、たいがい大正生まれなので天寿を全うされたということで、来るべきものが来たんだと、あまり悲壮感はない。
 中には愛犬が亡くなりましたのでというものがあり、ご本人の気持ちには察して余りあるものがあるが、どこかヒューマンな温もりを感じる。

 堪えるのは、友人や歳の近い先輩自身がお亡くなりになったものである。

 元職が教師なので、この手の喪中葉書は例外なく現職、または退職間もない人ばかりである。
 三十年教師をやっていて、関係した(担任、あるいは教えていた)生徒に五人亡くなられた。やや多い部類に入る。
 同僚先輩の方は、両方の手で足りない。ざっと思い出しても十五六人にはなる。

 他職のことは、よく分からないが、少し多いような気がするのだがどうだろう。

 この業界には七・五・三という言葉がある。校長で退職すると三年。教頭で五年、平で七年の平均余命という意味である。
 中には現職中に亡くなる人もいる。一番若かったのは二十三。教職についてわずか半年であった。

 死因は自殺……。

 亡くなる前、体中に湿疹ができ、その治療にも通っていた。一応府教委は、校長を通じて職場で問題が無いか調査をしたが、病気治療で通院していたという一事で「病気を苦にしての自殺」で片づけてしまった。
 生徒が自殺すれば、全国ネットで大騒ぎになり、時に裁判沙汰になる。彼の自殺は、新聞の地方欄に天気予報より小さく載っただけである。
 
 あとで思うと前兆があった。

 教材研究に呻吟していた。穴があくほどに教科書と指導書を見つめていた。
 物事を理解することと、それを人に教える能力は別物である。大学の教職課程では、この「教えること」を教えない。教師は、採用され、その日から現場で子供たちを相手にしなければならない。
 府教委もわずかに考え、一年間は指導教官を置く。また、官制研修もアホほど増やした。

 だが、多くの場合指導教官そのものの授業が度し難い場合が多い。官制研修に至っては現場で不適応だった指導主事が多く、これも、ほとんどアリバイにしかならない。

 彼は、授業を中断して職員室に帰ってくることや、授業開始時間になっても教室にいけず、教頭から注意されたりしていた。
 自殺の原因は、誰が見ても仕事の悩みである。
 わたしの勤務校は、府下でも有数の困難校で、わたし自身初年度の夏休みを入院と病気治療に食われてしまった。
 この学校に勤務していて、在勤中、または退職後、転勤後に六人ほどが亡くなっている。

 今年の最初の喪中葉書は、三つ年上の退職間もない先生自身のものであった。何度か読み返した。ご母堂のそれではないかと思ったからである。四回目にご本人が亡くなったことに違いが無いことを理解した。

 日本では、交通事故による死者は、事故後24時間以内に亡くなった人のみをいう。アメリカは州によって違いがあるが、ほぼ事故後一か月を事故死と扱っている。数字はマジックである。

 極端な話、退職してあくる日に亡くなっても教師の死にはならない。二三年もたっていれば、現職時代のストレスと絡んで考えられることはありえない。

『月刊生活指導』というイカツイ雑誌がある。たいていの学校の生活指導室には置いてある。十数年前に「教師のストレス」という特集をやっていた。
 そこにILOの資料が載っていた。
 総じて、教師のストレスは、最前線の兵士のそれに匹敵する。むべなるかなである。

 わたし自身在職中の疾病で、いまだに通院している。むろん、なんの保障もない。

 息子の進路に口出しはしないが、教師になると言えば絶対反対する。

 命を懸けて殉ずることは絶対いらない。

ジャンル:
小説
コメント   この記事についてブログを書く
この記事をはてなブックマークに追加
« 高校ライトノベル・『はるか... | トップ | 高校ライトノベル・連載戯曲... »
最近の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。

あわせて読む

トラックバック

この記事のトラックバック  Ping-URL
ブログ作成者から承認されるまでトラックバックは反映されません。