高校ライトノベル
通学道中膝栗毛・4『中ルートは香りの商店街』
もう一つは中ルート。
商店街のアーケードを通って行く。
夏と冬は、もっぱら中ルートになる。
暑さ寒さをしのげるのが理由の一つ。
第一回でも言ったけど、都立希望ヶ丘青春高校に制服は無いけど、制服廃止前のセーラー服が女子の定番。
セーラー服の冬の寒さは着てみないと分からないよ。
裾が短い上にパカパカで、襟もとも大きく開いている。スースー空気が抜けて行って体温を奪ってしまう。
女子の中には、セーラーの下にモコモコのセーターとか着る子がいるけど、あたしたちはしない。
外見的に崩すことは絶対しない。
フェリスとか女学館とか、セーラー服の名門校は、けして崩した着こなしはしないでしょ。ま、学校の指導が厳しいってことがあるんだろうけど、生徒自身に誇りがあるんだ。
鈴夏と相談して、ネット通販でハーフコートを買った。昭和の女学校風で、とっても清楚。足許は黒のローファーとハイソで引き締め、首にはタータンチェックのマフラーを装着。装着なんだよね、間違っても毛糸のモワモワマフラーをグルグル巻きにして首の後ろで結ぶなんてことはしない。もう、なんちゅうか、学習院も顔負けって感じ。
で、この格好で二人そろって商店街を駅に向かう。
商店街を抜ける理由の二つ目は香りなんだ。
朝の商店街は営業前。
たいがいのお店は閉まっているけど、食べ物関係のお店は開店準備にいそしんでいるのだ。
お惣菜のお店や蕎麦屋さんからはお出汁のいい匂い。魚屋さんは焼き魚、豆腐屋さんは油揚げを揚げる香ばしさ、ケーキ屋さんは甘いクリームの、もう開店しているパン屋さんは食欲そそる焼き立てパン、喫茶店からは挽きたてコーヒー、お寿司屋さんからは酢飯と、もう香りのバザールって感じ。
帰りに通ると、これに天ぷら屋さんと肉屋さんの揚げ物の匂いが加わる。
天ぷら屋さんは二種類で、練り物の天ぷらと普通の天ぷらとでは匂いが違う。あたしは、ごま油の天ぷらの匂いが好きだ。
お父さんが、大阪には紅しょうがの天ぷらがあると言っていた。
「えー、それは信じらんない!」
鈴夏は眉を顰めるけど、チャンスがあったら食べてみたい。あたしはショウガ大好き少女なのだ。
これが最高というか、我が町の商店街のグレードを上げている匂いが、駅寄りの出口の方でする。
花屋さんとお茶屋さん。
食べ物の匂いもいいんだけど、お花やお茶の香りというのは心を気高くしてくれる。
「んー、分からなくもないけど、気高いかなあ?」
鈴夏の感覚は、ほとんどいっしょなんだけど、こういうところにズレがある。
まあ、神社のコマ犬みたいにそっくりじゃなくて、微妙に違いがある方が高校生らしくていいと思う。
今日の帰り道は中ルート。
お肉屋さんで揚げたてコロッケを一つづつ買う。一個60円なり。
お屋敷街の100円自販機も安いんだけど、この60円にはかなわない。
どうしてお肉屋さんのコロッケっておいしんだろ? 家で揚げてもこの味には絶対ならない。
洋品屋さんのショ-ウインドウに二人の姿が写る。
完全装備の女子高生二人がハフハフと歩きコロッケ。昔の女学校では禁止だったんだろうけど、こういう外し方はイケてると思う。
歩きスマホよりもよっぽどいいな。そうは思いませんか?