大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・《そして ただいま》第九回・由香の一人語り・7

2016-10-17 05:51:26 | 小説4
 《そして ただいま》
第九回・由香の一人語り・7


※主な人物:里中さつき(珠生の助手) 中村珠生(カウンセラー) 貴崎由香(高校教諭)



「わあ、髪切っちゃったんですか!?」

 あやうく飲みかけのコーヒーにむせかえりそうになった。
「イメチェン、どーよ!」
 前回のギンガムチックにサロペットスカートのままに、今度は思い切りのショートヘアになっている。軽くアイラインなんか入っているせいもあるんだけど、とても四十を過ぎた高校の女先生には見えない。由香先生は記憶を取り戻すのに従って若くなっていく。最初の頃のくすんだオバサンオーラは、かけらもなかった。
「すんまへん、今日はうちが遅なってしもて。さ、始めまひょか」
 珠生先生は、入って来るなり、そう言って温くなったコーヒーを飲み干した。そして、急いで来た割には、いつもより念入りに由香先生を催眠状態にいざなった。


 桜を切る先頭に立っているのはお母さん……チェーンソー持ってる。

 まるで、女ジェイソンだ。
 あ、例の用事かな……居なくなっちゃった。
 あ……アハハ、ごめんなさい。見える幸子さん? あの半天に鉢巻きのオジイサン、倍率上げるね……。
 タバコ屋の源蔵ジイチャン。気合い入ってんなあ、ハハハ、お母さんのお仲間タジタジだ……惜しいなあ、いたら見応えのあるケンカになったでしょうね。

 え……うん、今日は田中さんに会いに行ってる。
 日頃は、女性の自立とか自主性とか言ってるけど、いざ、自分の娘のことになったら、あの源蔵ジイチャンとドッコイドッコイ。
 自分で確かめなきゃいられない。
 え、無理もない……?
 ちょっと、この結婚たきつけたの幸子さんでしょうが……!

 エヘヘ、いいんです。これもお母さんの愛情だろうって……思えるぐらいには成長したんですよ、この二年間で。
 それに、会えば、きっと田中さんが、いい人だって分かってもらえる……あ、電話。

 もしもし……あ、お母さん?
 どうだった? あたしが言ったとおりの人だったでしょ!? ぶっきらぼうだけど真面目に考えて、真っ直ぐな……。

 え…………どうしてダメなの、なにが気に入らないの?

 え、全部、全てが…………そんなの説明にならないよ。

 お母さん、いつも言ってるじゃない、筋道たてて、きちんと説明しなさいって……。
 え、親権? なにそれ……そう、親だよお母さんは。未成年の結婚には親の承諾……そんなの、あたし、あと四カ月で二十歳だよ。
 田中さんも、ケジメを付けて、あたしが二十歳になってから……。
 え、交渉? 交渉って……性交渉!?
 侮辱よ! そんなこと、たとえ、お母さんでも答える義務ない!
 ダメなものはダメ!?
 お母さん! お母さん!

 すみません……聞こえちゃいましたね。電源入れっぱなしだったから。
 母は、いつもああなんです。こっちに言うだけ言わせて、最後にピシャリ。
 服を選ぶことから、受験校選びまで……。
 筋道立てて説明させて、その矛盾を突いてくるんです。どこかのニュースキャスターみたい……。

 今度は、分かってもらえたと思ったのに……。

「今日は、そこまでにしときまひょ」

 珠生先生は、十分ほどで止めてしまった。
「えらいことが分かってきましたな」
「はい……あたし、田中さんと結婚するつもりだったんだ」
「その先は……その顔やったら、まだ思い出してないようでんな」
「カウンセリングが進んで、田中さんに憧れ持ったとこまでは思い出しましたけど……まさか、結婚だなんてね。わたしもビックリです」
「貴崎さんは、ただの鬱とはちゃいます。ちょっと呼び戻す記憶の順番考えならあきまへんな」
「わたし、なんだか、ときめいてきました。二十歳にもならないのに、そんなこと考えていたなんて!」

 由香先生の目は、いつも以上にキラキラしていた。

「あ、これ、下のホールで、若い男の先生に」
 珠生先生は、一枚の名刺を由香先生に渡した。
「県立Y高校 山埼豊……ああ、十年くらい前の教え子です。へえ、先生になったんだ」
「で、同じ鬱で、隣の先生にかかってはるんですけどね。貴崎さんのこと見て、ボーっとしてはったんで声かけたんですわ」
「山埼クンに?」
「はいな。アハハ、ほんなら、『あの子、貴崎っていうんじゃないんですか?』やて」
「え、あの子!?」
「はいな。あんまり若こう見えるし、よう似てるさかい、貴崎さんの娘さんと勘違いしたみたいだすなあ」
「ハハ、昔から、こういう子でしたから。でも、娘とはまいったな!」
「だって、そんなイメチェンしてんですもん。事情を知らなきゃ、私だって勘違いするくらい若いですよ」
「まあ、こんなことに気を取られてるようなら、山埼クンの病状は軽いですね」
「あんさんのも、もうちょっとですやろな」

 由香先生は、弾むような足どりで帰っていった。なんだか私のほうが年上のような気がしていた。

「あ、サッチャンに手紙きてましたで」
「私にですか?」
 珠生先生は、郵便物を整理しながら渡してくださった。

 私は、その封書を複雑な気持ちで手に取った……。 

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