大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ライトノベル・セレクト№19『写メの意外な波紋・停学1』

2012-10-11 06:37:46 | ライトノベルセレクト
ライトノベル・セレクト№19
『写メの意外な波紋・停学1』
  



 停学は三日になった。

 わたしが値切ったんじゃない。
 乙女先生と竹内先生が、話をつけてくれた。
 吉川先輩と、由香も「これは事故です」と終始一貫して言ってくれた。
「一方的暴力です」
 わたしは切腹の覚悟だった。
 例の細川先生などは、「停学二週間!」と言って譲らなかった。

 決め手は、先輩と由香の事故主張(今だから言えるダジャレです)そして、現場を目撃していた東亜美と、住野綾の証言。
 亜美と綾はクラスで最後まで残っていたシカトコンビだったが、この時はなぜか進んでわたしに有利な証言をしてくれた。

「調書の結果」はこうなった。
 わたしが手を上げた時には、先輩はすでに十分手の届かないところまで身体をかわしていた。その間に由香が飛び込んできて御難にあった。
 つまり、わたしが手を上げたのは吉川先輩に対してであり、これについての「犯行」は未遂に終わっている。由香が飛び込んできたのは事故である。だから、停学などの処分にはなじまない。
 しかし、衝動的とはいえ、わたしには「犯意」があったので、激論の末三日ということになった。

 この時、亜美と綾が有利な証言をしてくれたのは、わたし以上に細川先生が嫌いだったからである。しかし、このことがきっかけで二人とも仲良くなれた。
 人生とは不可解なものである。

 それから、この三日には先生達の知らない条件がついていた。
「コンクールが終わったら、NOZOMIプロの白羽さんに会うこと……ええね」
 言葉遣いで分かるようにこれは、由香がホッペを腫らして、ニッコリとわたしの耳元でささやいた条件である。


 停学の初日、学校に母子共に呼び出されて、校長先生から申し渡された。
「……ということで、坂東はるか。本日より三日間の停学を申し渡す。具体的な指導は学年生指と担任の先生から受けるように」
 わたしは、教育勅語並の最敬礼で拝聴した。お母さんはただただ恐縮。
 先生達の反応は、校長室を出てから様々だった。竹内先生はニッコリ。乙女先生はホッと。細川先生は、不足顔。
「これ、停学課題。しっかりやらんと延長やからな」
 ぶっといA4の封筒を叩きつけるように渡していった。
 その後ろ姿に、由香がアッカンベーをした。
「由香ちゃん、いつも仲良くしてもらってんのに、ほんとうにごめんなさいね、お顔とか傷になってない?」
「大丈夫ですよ、お母さん。こんな傷、子どもの頃からしょっちょうやったさかい」
「でも……」
「腫れがひいたら元通りですから」
「蕎麦に入れるビックリ水みたいなもんですよ、これで由香も少しは可愛くなりますよ」
と、吉川先輩のフォロー。
「約束、忘れんように……」
 由香が耳元で、またささやいた。
 母子であちこち頭をを下げて玄関に。

 事務室の前に大橋先生が演劇部のみんなと一緒に待っていた。
 お母さんはここでも平身低頭。
「大丈夫ですよお母さん、金曜日には停学が明けます。稽古は十分間に合いますから」
 他のみんなも、異口同音に「大丈夫」と言ってくれ、お母さんは、その一人一人に頭を下げた。
 栄恵ちゃんは、なにを勘違いしたんだろう、小さな花束をくれた。オレンジ色のハイビスカスが真ん中にドーンと鎮座。いささかバランスを欠いていたが。由香がささやいた。
「オレンジ色のハイビスカスの花言葉は『信頼』やさかいにね」
 思わず涙目になってしまった。
 先生や、仲間達が校門を出るまで見送ってくれた。
 お母さんは、校門を出るまで何度も振り返っては頭を下げていた。

 それから、黒門市場の由香の家に行った。
 この事件を知ってから、お母さんは寡黙だった。事件の大きな原因が自分だって思っている。
 そんなことはない、事件を起こしたのはわたしだ。わたしの洞察力のない場当たり的タクラミとコラエ性の無さ。いわば、未熟で、欺瞞的でさえあったわたしのホンワカ。
 でも、それを口にすると母子で傷つけ合ってしまう。
 だから、わたしも必要以上にはしゃべらない。

「いやあ、これは事故ですよってに。うちの由香も、ちゃんと状況つかんでたら、あんなアホな身ぃの出し方はせんかったでっしゃろ。まあ、エエカッコシイの結果や思てます。はるかちゃんも、これに懲りんと、ええ友だちでいといたってくださいな」
 魚をさばく手を休めて、由香のお母さんは言った。
 その奥で、お父さんが、魚を生け簀に移しながら、微笑んでいた。

 お辞儀をして、黒門市場の雑踏の中に紛れると、急にお魚を焼くいい匂い。
 母子のお腹が、同時に鳴った。今朝は、申し渡しが早かったことや、緊張やらで、二人とも、朝食をとっていなかった。市場の喫茶店に入ってモーニングセットをかっこんだ……。


『はるか 真田山学院高校演劇部物語・第20章』より。
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