大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・セレクト№16『写メの意外な波紋・1』

2012-10-08 08:19:08 | ライトノベルセレクト
ライトノベル・セレクト№16
『写メの意外な波紋・1』
   



 あっけなく、のぞみはホームを離れていった。
 見えなくなるまで見送って、ため息一つ。

 父と、父の新しい奥さんを見送って、はるかの『親の離婚から……』は幕が下りてしまった。
 この四カ月、無意識に大人ぶって、親の離婚から目を背け、割り切ったように、ZOOMERに乗ることと、演劇部にのめり込むことで逃げてきた。それに気づき、家族の復活を果たそうともがいて傷ついて……その間に大人たちは、新しい道を、すでに歩み出していた。父も母も、新しい父の奥さんも。
 その、大人道の三叉路で、いつまでも立ち止まっていたのは自分一人だけなんだ。
 寂しさと、安心と、寄る辺ない孤独がいっぺんにやってきた。

 振り返ると、ケータイを構えたオネーサンが二人、わたしの写メを撮っていた。
「ごめんなさい、あんまり可愛かったから」
「ども……」
「よかったら、この写メ送ろうか。ケータイ持ってるでしょ」
「はい、ありがとうございます」
 送ってもらった写メは、とてもよく撮れていた。
 一枚は、ちょっと寂しげに、のぞみを見送る全身像。
 もう一枚は、振り向いた刹那。ポニーテールがなびいて、群青のシュシュがいいワンポイントになって、少し驚いたようなバストアップ。

「このままJRのコマーシャルに使えるわよ」
 
 と、オネーサン。聞くと写真学校の学生さんだった。
 オネーサンたちと別れてしばらく写メを見つめて……ひらめいた!
――これだ、『おわかれだけど、さよならじゃない』
 わたしは、ベンチに腰を下ろし、写メを見ながら、そのときの物理的記憶を部活ノートにメモった。

 
 この写メが、後に大きな波紋を呼ぶとは想像もしなかった。


 文化祭がやってきた。
 うかつにも気がついたのは、一週間前。
 わたしが、お父さんを新大阪に見送りに行ったその日。
 演劇部は、それくらい『すみれの花さくころ』に集中していたってことなんだけど、うかつは、うかつだった。
 逆に言えば、真田山は、それほど行事に関心がない。
 一部のクラブやサークルを除いて、みんなの関心は、三年生を中心にまず進路。就職や、推薦入試がこの時期に集中する。そしてバイトのことであったり、趣味や検定とか、要するに自分のことにしかいかない。
 しかし、迫ってきたものは仕方ない。
 クラスの取り組みも、そのころにやっと動きだした。
 でも「演劇部だから」を免罪符にして、クラスの取り組みからは抜け出せた。
 一応、クラブに集中はできる。 
 そして、これはいいニュースなんだけど、三年生の人たち、みんな揃って進路が決まったこと。
 タロくん先輩は念願かなって(なんせ幼稚園のころからの夢)大手私鉄に。
 タマちゃん先輩は、保育系のT短大。
 山中先輩はO音大に。
 当然ここにいたるまでには、稽古日程の調整が大変だったけど(わたしもお父さんの看護で二日ほど抜けた)タロくん先輩が、臨時ダイヤを組むように、その都度改訂してくれて、稽古場のモチベーションは下がることが無かった。

 しかし、先生の間で一悶着あった。
 乙女先生は、リハを兼ねて『すみれ』を演ろうという。
 大橋先生は、文化祭で、本格的な芝居をやっても観てくれる者などいなく。雑然とした空気の中で演っても勘が狂うだけだし、演劇部はカタイと思われるだけと反対。
「文化祭というのんは文字通り『祭り』やねんさかい、短時間でエンタティメントなものを演ろ」
 と、アドバイスってか、決めちゃった。
 わたしは、どっちかっていうと乙女先生に賛成だった。部活って神聖で、グレードの高いものだと思っていたから。

 出し物は、基礎練でやったことを組み直して、ショートコント。そしてAKB48の物まね。
 こんなもの一日でマスター……できなかった。
 コントは、間の取り方や、デフォルメの仕方。意外に難しい。
 物まねの方は、大橋先生が知り合いのプロダクションからコスを借りてきたんで、その点では盛り上がった。ただ、タロくん先輩のは補正が必要だったけど。
 振り付けはすぐにマスターできた。しかし先生のダメは厳しかった。
「もっとハジケなあかん、笑顔が作りもんや、いまだに歯痛堪えてるような顔になっとる」
 パソコンを使って、本物と物まねを比較された。
 一目瞭然。わたしたちのは、宴会芸の域にも達していなかった。


 当日の開会式は体育館に生徒全員が集まって行われた。
 校長先生の硬っくるしく長ったらしいい訓話の後、実行委員でもあり、生徒会長でもある吉川先輩の、これも硬っくるしい挨拶……。
 と思っていたら、短い挨拶の後、やにわに制服を脱ぎだした。同時に割り幕が開き、軽音の諸君がスタンバイしていた。
 ホリゾントを七色に染め、ピンスポが、先輩にシュート。
 先輩のイデタチは、ブラウンのTシャツの上にラフな白のジャケット。袖を七部までまくり、手にはキラキラとアルトサックス。
 軽音のイントロでリズムを作りながら、「カリフォルニア シャワー」
 わたしでも知っている、ナベサダの名曲(って、慶沢園の後で覚えたんだけど)
 みんな魅せられて、スタンディングオベーション!
 でも、わたしには違和感があった。
――まるで自分のコンサートじゃない、軽音がかすんじゃってる。

 会議室で、簡単なリハをやったあと、昼一番の出までヒマになった。
 中庭で、三年生の模擬店で買ったタコ焼きをホロホロさせていると、由香と吉川先輩のカップルがやってきた。
「おう、はるか、なかなかタコ焼きの食い方もサマになってきたじゃんか」
「先輩こそ、サックスすごかったじゃないですか。まるで先輩のコンサートみたいでしたよ」
「そうやろ、こないだのコンサートよりずっとよかったもん!」
 綿アメを口のはしっこにくっつけたまま、由香が賞賛した。もう皮肉も通じない。
「なにか、一言ありげだな」
 さすがに先輩はひっかかったようだ。
「あれじゃ、まるで軽音が、バックバンドみたいじゃないですか」
「でも、あいつらも喜んでたし、こういうイベントは(つかみ)が大事」
「そうそう、大橋先生もそない言うてたやないの。はい先輩」
 由香は綿アメの芯の割り箸二人分を捨てに行った。
「わたし、やっぱ、しっくりこない……」
「まあ、そういう論争になりそうな話はよそうよ」
「ですね」
「こないだの、新大阪の写メ、なかなかよかったじゃん」
「え、なんで先輩が?」
「あたしが送ってん……あかんかった」
 由香が、スキップしながらもどってきた。
「そんなことないけど、ちょっとびっくり」
 由香にだけは、あの写メ送っていた。しかしまさか、人に、よりにもよって吉川先輩に送るとは思ってなかった。でもここで言い立ててもしかたがない。今日は文化祭だ。
「あれ、人に送ってもいいか?」
「それはカンベンしてください」
「悪い相手じゃないんだ。たった一人だけだし、その人は、ほかには絶対流用なんかしないから」
「でも、困ります」
「でも、もう送っちゃった」
「え……?」
「アハハハ……」
と、お気楽に笑うカップルでありました……。

『はるか 真田山学院高校演劇部物語・第18章』より
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