大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・セレクト№15『親の離婚から4か月』

2012-10-07 07:57:03 | ライトノベルセレクト
ライトノベル・セレクト№15
『親の離婚から4か月』
   



 その翌週の木曜に、秀美さんは病院に来た。
 正確には、来ていた。
 九月に入り、短縮授業。部活の無い日だったので、学校から直行したんだけど、秀美さんの方が先に来ていた。
「お父さん……」
 ノックもせずに病室に入った。
 ほんの一瞬、フリ-ズした……三人とも。

 秀美さんは、ベッドの脇に腰掛けて、お父さんと話していた。
 仕事の話らしいことは、その場の空気でわかった。
 ただ、距離の取り方が、二人の心の近さとして、チクッとした痛みをともなって、わたしには感じられた。

 距離には人間関係が反映される。かねがね大橋先生から言われていることだ。
 物理的距離が心理的距離を超えると、人は落ち着かなくなる。
 たとえ第三者として見ているだけでも……。
 だから稽古では、状況や人間関係に合った距離に気をつけて演技している。
 そして気をつけなくても、その距離が自然にとれるようになれば、演技としては完成である。
 二人は、まさに、その完成された距離を自然にとっていた。
 そして、それは演技ではなく、現実の人間関係……。

「新しい商品、はるかちゃんも見てくれる」
 わたしがホンワカ顔をつくろう前に、秀美さんに先を越された。
「うわー、かわいい!」
 女子高生の常套句しか出てこなかった。
 しかし、その商品見本たちは、ほんとうにイイ線いってた。
 シュシュ(ポニーテールみたく髪をまとめるときの飾りみたいなの)のシリーズだ。
「次の春ものにね、ちょっとチャレンジしてみようと思って」
 水玉、花柄、ハート、チェック柄、といろいろ。
「今の子って、はるかちゃんみたいにセミロングとかが多いじゃない。それって、表情隠れちゃうのよね。あ、悪いってことじゃないのよ。時にはオープンマインドなイメチェンしてもいいんじゃないかって、そういうネライ」
「わたしも、ヒッツメにすることもあるんですよ。稽古のある日はお下げにしてますし」
「そうなんだ。でもさ、そういうのをさ、もっとポジティブにさ……」

 あっという間にポニーテールにされた。
 シュシュは群青に紙ヒコーキのチェック柄。
「お、いけてるじゃないか。実際身につけてもらうとよく分かるなあ」
「このシュシュ……」
「そう、あのポロシャツがヒント。商標登録されてないの確認できたから作ってみたの。そうだ、はるかちゃんモニターになってくれないかなあ」


 転院の日は平日の昼前だった。
 わたしは担任の竹内先生に、電話で正直に言って新大阪駅まで付き添った。
 お母さんは、やっぱり来なかった。
「はるかちゃん、ほんとうにありがとう」
 車椅子を押しながら、秀美さんが言った。
 静かで、短い言葉だったけど、万感の想いがこもっていた。
 わたしは、群青に紙ヒコーキチェックのシュシュでポニーテール。
「今度のシュシュの企画当たるといいですね」
「もう当たってるわよ。さっきから何人も、はるかちゃんのことを見ている」
「え……車椅子の三人連れだからじゃないんですか?」
「視線の種類の区別くらいはつかなきゃ、この仕事は務まりません。むろん、はるかちゃん自身に魅力が無きゃ、誰も見てくれたりしないけどね」
「はるかの器量は学園祭の準ミスレベル。父親だからよくわかってる」
「それって、どういう意味」
「客観的な事実を言ってるんだ」
――それって、わたしのウィークポイントにつながっちゃうんですけど、父上さま。
「今のはるかちゃんは、東京で会ったときの何倍もステキよ。そのシュシュが無くっても」
――それは、秀美さんの心映えの照り返しですよ。
 発車のアナウンス。
 車窓を通して、笑顔の交換。
 発車のチャイム。
 あっけなく、のぞみはホームを離れていった。
 見えなくなるまで見送って、ため息一つ。

 この、あきらめとも安心ともつかないため息一つつくのに、四カ月の月日が流れていた。
 このため息一つつくのに四カ月。はるかには人生の半分のように思われた。

 空には、夏の忘れ物のような、小さな入道雲が一つ、ピリオドのように浮かんでいた。

 『はるか 真田山学院高校演劇部物語・第18章』より
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