緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

和波孝禧 第24回 クリスマス・バッハシリーズ コンサートを聴く

2016-12-24 23:15:31 | バイオリン
今日、東京上野の東京文化会館小ホールで、和波孝禧氏の演奏による第24回クリスマス・バッハシリーズ コンサートが開催された。

和波孝禧氏の演奏を初めて聴いたのは今から10年くらい前であろうか。
作曲家の原博の録音を集めていた時に、原博の「ヴァイオリンと弦楽オーケストラのためのシャコンヌ」という曲を、和波孝禧のヴァイオリン・ソロ、いずみごうフェスティヴァルオーケストラとの共演のライブ録音で聴いたのである。
この曲は1980年に原博が和波孝禧氏のために書いた曲であり、この時代には珍しいバロック形式、機能調性を徹底した力作であり、隠れた名曲である。
この曲は無伴奏版で他の演奏家の録音も聴いたが、私はどうしても和波氏の演奏の方が相性が良く、何度か繰り返し聴いてきた。
久しぶりにこの1週間で7、8回集中的に聴いたが、和波氏の音楽観、感情エネルギーに満ちた音に触れ、生の演奏を聴きたいと思うようになり、今日それが実現した。

14時の開演前に10分程のプレトークがあり、初めて和波氏の姿を目にしたのであるが、驚いたことに目の見えない方であった。
先の原博の「ヴァイオリンと弦楽オーケストラのためのシャコンヌ」のCDの解説では一切そのことは記載されていなかったが、生来の全盲とのことであり、非常に驚いた。
全盲でありながら難関のロン=ティボー国際コンクールなどで上位入賞を果たしている。
今日の聴衆の中には、白い杖を持った方、盲導犬を連れた方が少なからずいた。

さて今日のプログラムは下記のとおり。

・J.S.バッハ 無伴奏ヴァオリンソナタ 第2番 イ短調 BWV1003
・M.レーガー 無伴奏ヴァイオリンソナタ イ短調 Op.91-1
・E.イザイ  無伴奏ヴァイオリンソナタ 第3番 ニ短調 Op.27-3
・J.S.バッハ 無伴奏ヴァオリンパルティータ 第2番 ニ短調 BWV1004

71歳という高齢でありながら、無伴奏の大曲4曲に挑戦することは容易ではない。
しかし今日の和波氏は、どの曲も全力投球の素晴らしい演奏を聴かせてくれた。
第1曲目の始まり、まず音のパワー、大きさに驚いた。
そして音の間違いが皆無に近い。指もよく動く。基礎的な技巧練習を相当に積んできたのであろう。
高齢になっても技巧が衰えないのは、絶え間ない豊富な技巧練習の積み重ねなのだと思った。
2曲目のレーガーのヴァオリンソナタは初めて聴く。
たしかプレトークで和波氏が、この曲を若い時分は相当練習、研究をしたが、ある時点から全く弾かなくなり、30年のブランクがあるとの話をしていた。
M.レーガー(Max Reger 1873-1916)のこの無伴奏ヴァイオリンソナタは、バロック様式、基本的には機能調性をとっているが、和声はかなり変質しており、現代音楽の前段階の音楽のような印象を受けた。
プログラムの解説によると43歳の若さで早世した作曲家とのことであるが、他の曲も聴いてみたいと思った。
3曲目の E.イザイの無伴奏ヴァイオリンソナタの和波氏の演奏は凄かった。
暗い夜を思わせるような不気味さを感じる音楽で始まるが、ヴァイオリンでは難しい重音を多用し、変化の多い難曲だ。
和波氏の低音は力強く、感情のうねりがダイナミックで渾身の力を出し切った素晴らしい演奏であった。
難しい技巧を物ともせず、この曲に賭ける強い気持ちが聴き手の多くに伝わったことは間違いない。
曲が終った後の聴衆の拍手が大きく、なかなか鳴りやまなかった。
プログラム最後の曲は、有名なバッハの無伴奏ヴァオリンパルティータ第2番。
終曲「シャコンヌ」はピアノやギターにも編曲され、単独で演奏されることが多いが、この曲はやはり全曲を通して聴いた方がいい。
1曲、1曲が独立しているのではなく、5曲が互いに関連しており、ストーリーのようなつながりを感じる。
「シャコンヌ」で技巧を強調し、見せるために弾く奏者もいるが未熟さを露わにしているようなもの。
和波氏の演奏はそのようなものとは対極にある演奏であり、勿論技巧的にもしっかりとしているのであるが、音楽の根本的な意義を問いかけてくるような演奏であったことを言っておきたい。
音に凄みがあり、聴き手の心に深く届かせることを最も大切なことと考え修練してきたに違いない。
特に第4曲「Giga」のあの印象的なフレーズは、かつて聴いて感情がどっと湧き出てきたシゲティの演奏を彷彿させる素晴らしいものであった。

これですべてのプログラムが終ったが、アンコールでバッハのシチリアーナと、即興演奏で「きよしこの夜」を演奏してくれた。
それにしても何と謙虚で穏やかな方なのだろう。
アンコールを弾き終え、聴衆にお辞儀した後に見せたあの和波氏の表情が忘れられない。

【訂正20161228】
記事で、原博の「ヴァイオリンと弦楽オーケストラのためのシャコンヌ」の無伴奏版を聴いたと書きましたが、ピアノ伴奏版でした。
訂正します。
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