言葉の泉

一粒の種から言の葉が茂ることを願って。

書評『噺家カミサン繁盛記』

2017年07月18日 | 書評
噺家カミサン繁盛記 (講談社文庫)
郡山 和世
講談社

  喧嘩っぱやくて、きっぷがよくて、切れ味するどい江戸前の粋な女(ひと)がいる。
 落語家 柳屋小三冶さんのオカミサン「和世さん」がその人だ。

 気ままに育った医者の娘が噺家のオカミサンになってしまったことから江戸前の女は「お嬢様」から「師匠より怖いオカミサン」に変身!

 落語より面白い話におかしくって、笑い転げながら、反逆魂と女心のいじらしさに共感した一冊。

 女子美の大学生時代小三冶さんと恋をした和世さん。

 そもなれそめから新婚家庭に弟子がうろうろする噺家の住みか。
 師匠に裏返しの羽織をおおまじめに着せる弟子。
 与太郎より与太郎的な弟子と子供三人、カエル数百匹、犬、一筋縄ではいかない亭主をかかえたオカミサン稼業の凄まじさを描いた半生。

 まじりっけなしの本音の本音本。
 辛口のユーモアに加えて、人物スケッチの確かさは群を抜く。
 なまっちょろいタレントの本とは格段の違い。
 子育ての章でも筋を通した生き方(身なりで人を判断するな)が光彩を放つ。

 家中カエルだらけになるほどカエル好きの長男のために一緒にみみずを探すオカミサン。

 そんなオカミサンは自らを
 「不充分ながらも、子育ては相手が生き物だけに、最低限の母親としての勤めはしてきたつもりだが、その他のこととなると、「手抜き」と云う言葉が顔を赤らめるほどズサンであった」と述懐する。
 さらに、「その中で自信を持てることといえば、噺家としての亭主の仕事を理解し、デンワ一本での依頼をマネージする、口先だけの働きだけだ。」と謙虚。

 しかし、真夜中にオカミサンをたたき起こして落語の新ネタを一席サシで稽古する小三冶。
 「どうだった?」と意見をもとめたりする姿はこのオカミサンに全幅の信頼を寄せている小三冶の姿が浮かんでくる。

 趣味が多く、一筋縄ではいかない小三冶を亭主に持つオカミサン。
 気苦労ばかりの日々を、持ち前の明るさと、きっぷのよさ、そしてなにより小三冶に惚れているオカミサンの話は一席の落語よりも面白く味がある。

 小三冶さんのファンである私はこの一冊ですっかりオカミサンのファンに鞍替え。

 たまにはこんなに胸のすくような本を読むのも良い。
 ただし、電車の中や、病院の待合室などで決して読んではいけません。

 面白すぎて笑いじわができないように祈るばかり。


ジャンル:
ウェブログ
コメント   この記事についてブログを書く
« 妻の遺骨を飛行機内に持ち込... | トップ | 知らないって・・ »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。