言葉の泉

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書評『女二人のニューギニア』 (朝日文庫)

2017年07月14日 | 書評
女二人のニューギニア (朝日文庫)
有吉 佐和子
朝日新聞社


蒸し暑いこの季節、おもいっきり笑いとばせる本で暑気払いをしよう。
 今は亡き有吉佐和子さんの珍しく面白すぎる実話エッセイを紹介したい。
体力は人並み以下、虫一匹這い出しても悲鳴を上げて逃げ出す著者が、
 よりにもよってまだ当時未開だったニューギニアへ行くことになった。

 有吉さんは、ある日、文化人類学者でニューギニアの未開社会をフィールドワークとしている友人の畑中幸子さんに東京でばったり再会した。
 「東京は騒がしゅうてかなわん。私はもう疲れてしもうた。早うニューギニアに帰りたい。
  ニューギニアは、ほんまにええとこやで、有吉さん。私は好きやなあ」
 「そう。そんなにニューギニアっていいところ?」
 「うん。あんたも来てみない?歓迎するわよ」
  「じゃあ、行くわ。案内してくれる?」
  「よっしゃ。これで私はニューギニアでは顔なんよ。
  これこそニューギニアやというところを見せたげるわ。プログラムは任せというて」
 という会話を交わしたのをきっかけに、誘いに乗ってしまった。
こういう機会でもなければ未開社会は覗けないという、大層気楽な気持ちで約束してしまった有吉さん。

 ガタピシのセスナ機に乗ってオクサピンという地に着き、そこから三日かけて徒歩でジャングルの中を分け入って行くという。
 それを聞いた有吉さん真っ青になったのは言うまでもない。
 昼なお暗いジャングルの中、険しい山を登って行く。
 足の爪ははがれる。まだまだ三日かけてジャングルの中を歩かなければならない。
 靴をはきかえ軽くなった喜んだとたんに3メートルほど墜落。
 「キノコは気を付けてよ。喰いつくのがあるかね」と畑中さん。
 密林の中、人に喰いつくキノコ。豪雨が降っても歩く。
 食べものは大蛇!
 濁流をいかだをくんで渡ったり、ヒルに吸いつかれたり、虫に刺されて全身かきむしったりの密林を歩くこと三日。

 足の爪がはがれてとうとう歩けなくなった有吉さんを原住民が負ぶって山を越え、坂を下りジャングルを脱出。
ジャングルを出て畑中さんの宿舎についてからがまた大変。
 鼻に動物の骨を何本も付きさした原住民を相手に畑中さんはフィールドワークの言葉の蒐集や習慣の調査がはじまる。
 ニューギニアの最奥地。

 裸の現地人にパンツを縫ってやる有吉さん。お裁縫をしたこともないのにせっせと毎日縫う。
 毎日缶詰めに飽きて大蛇が食べたくなる有吉さん。

 帰るに帰れない体調。密林をまた引き返す体力がないまま、女二人、未開の奥地で獅子奮迅。
 大変なのに抱腹絶倒、あまりにもすごい密林での日々をありのままに書かれたこのエッセイは紀行文とはまるで違うもの。

 この密林からどうやって帰れたかは読んだ人だけが知ることとなる。
 最後はちょっと鼻の奥がツーンとなり、胸をしめつけられる友情に読者はほっと人心地つき、ページを閉じることとなる。

 薄い本であるが、読み応えがあって、想像を超えるジャングル越えに息をのむ。
 ゴルフコースも歩くのに耐えれないと辞めた有吉さん。
 タクシーばかり乗って歩くことがなかった作家家業の有吉さんの、前代未聞のニューギニア奥地の日々に、
 驚き、笑い、息をのみ、ちょっと涙が出たワイルドライフ・ルポだった。
エンピツしか持ったことがない作家の有吉さんが大蛇を食べ、
 銀座を歩くのも嫌う有吉さんがジャングルを三日もかけて歩く様子はすさまじすぎるが、
 もう一人の主役、友人の人類学者の畑中女史の女傑ぶり、
 あっぱれと言いたいほどの、ジャングルでの学研生活には日本に、
 いえ、世界にこんなにすごい女性がいたのかと快哉を叫びたくなる。
 著者の有吉さんは、密林の日々を書くと同時にこの友人の人類学者としての素晴らしい生き方、人柄を
 伝えたいと思う気持ちに満ち溢れていて、女二人の友情に胸が熱くなる。

 ベストセラー作家がめったに書かない紀行文は紀行文と呼ぶ以上のものが満ち溢れていて傑作だった。


※有吉 佐和子(ありよし さわこ、1931年(昭和6年)1月20日 - 1984年(昭和59年)8月30日)は、日本の小説家、劇作家、演出家。和歌山県和歌山市出身。日本の歴史や古典芸能から現代の社会問題まで広いテーマをカバーし、読者を惹きこむ多くのベストセラー小説を発表した。カトリック教徒で、洗礼名はマリア=マグダレーナといった。代表作は『紀ノ川』、『華岡青洲の妻』、『恍惚の人』など。娘にエッセイストの有吉玉青がいる。 

※阿川佐和子さんとは別人物なのでお間違いのないように。
 
 

 
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