言葉の泉

一粒の種から言の葉が茂ることを願って。

『邂逅の森 (文春文庫)』熊谷 達也著

2017年05月16日 | 書評
邂逅の森 (文春文庫)
熊谷 達也
文藝春秋


 東北の険しい山々に住む獣、熊、アオシシ(ニホンカモシカ)を追って狩りをするマタギ、猟師の話だ。
 マタギという言葉は聞いたことはあっても、どんなことをして、どんな日々を送る人たちかを知っている人は少ないだろう。

 秋田の貧しい小作農の次男に生まれた富治は伝統のマタギをはじめる。
 マタギたちが獲った獣の毛皮は、山間部の貧しい村に現金収入をもたらす。
 熊とアオシシ(ニホンカモシカ)はお金になる。

 14歳の富治は初めての狩りでマタギの覚悟が生まれる。
 吹雪の中での巻き狩り、熊と人間のかけひきと闘い。
 富治の男の成長の物語であり大自然の掟、禁忌、を通して、厳しい自然への畏怖、畏敬、が全体を圧倒する。
 地主の一人娘に夜這いをかけ、土地を追われる。鉱山に生き、マタギにもどり、山の主ともいえる熊との一騎打ちまで、一気に話に惹きこまれた。
 東北の女の白い柔肌が荒ぶるマタギの身も心も揺さぶる。
 二人の対照的な女の間で揺れる男の性と時代の波。

 マタギの獣と対峙して生きていく男の生き方が、熊を仕留めた時の鬨の声「勝負!」に集約される。
 東北の険しい山々を獣を追って暮らすマタギと熊の匂いや咆え声まで聞こえてきそうな、雄大で厳しい物語に終始圧倒された。
日清、日露戦争が軍用毛皮の需要を高めた時代の東北の寒村地帯。次第に失われつつある日本の風土を余すことなく伝えてくれた。
 直木賞、山本周五郎賞のダブル受賞作品。

 読了後、眼をあげた時、あたりの世界が変わって見えた。久しぶりの感動の読後体験だった。
 言葉の力、文学の力ってすごい!
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6 コメント

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引き込まれるように… (kei)
2017-05-16 22:09:26
こんばんは。

昨年でしたか、私も読みました。
書展で、偶然に手に取り、即購入した本でした。
知らなかった世界。
迫力あって、読みごたえのあった一冊でした。
読まれたのですね、なんか嬉しい気がします(笑)
keiさんへ(知らない世界) (ろこ)
2017-05-16 22:19:29
keiさんへ
 こんばんは。
 keiさんもお読みになったのですね。しかも昨年。
 嬉しいですね。
 そうそう。全く知らない世界に誘ってくれました。
 最近の直木賞はちょっと落胆気味だったのですが、迫力ある言葉の世界に堪能しました。
 東北の山、月山については文字通り『月山』を書いて芥川賞を受賞した森敦著を読んで以来、興味をひかれておりました。
 その東北の山々を舞台のマタギの世界。
 圧倒的な迫力に気おされました。
 嬉しいコメントをありがとうございました。わぁ~い。
邂逅の森 (Rei)
2017-05-17 10:03:29
どうしても読みたくなりすぐアマゾンへ注文しました。紙の本が好きですが、すぐ買いに行けないのでkindle版で購入致しました。楽しみです。
何でもほしいとなったらすぐほしくなって・・・
子供みたいで恥ずかしいです。ご紹介くださってありがとう!!!
Reiさんへ(熱くて厚い本) (ろこ)
2017-05-17 11:19:51
Reiさんへ
 おはようございます。
 Keiさんも、お読みになり、Reiさんもと、嬉しくなります。 紙の本にしても、相当分厚い本で長編です。
 惹きこまれましたが、さすがに一日では読み切れませんでした。
 直木賞のとき審査委員だった田辺聖子が文庫本では解説しております。
 驚嘆して讃えた内容ですから、折り紙つきです。
 どうぞお楽しみくださいませ。
なんて読むんですか? (黒仁庵)
2017-05-17 14:48:50
不勉強なもので……m(_ _)m

「世界が違って見える」ほどの本なら是非読んで見たいです(≧∀≦)

僕は九州福岡ですが、今九州大学が市内中心部から郊外…と言うか市の外れの山側に移り、そこの酔狂な教授が、ゼミの学生たちと猟銃免許をとり、狩をするってのがニュース等で話題になってます。
害獣駆除、生態調査、と称し、山を駆け巡っている。
「命の尊さを実感し、地球の1部であると理解してもらいたい。我々は獲った猪や鹿は、必ず食べる。余れば食品加工会社に売る」ってバーベキューしてます。
「ふざけた気持ち」は多分ないんでしょう(だからタチが悪い)
現代社会で「生」で日々自分が何によって生かされているか。と学ぶにはとても有意義だとも思う。

けどなんかヤダ。
それはニュースに移る教授の顔が、嬉々としているからだ。
「釣りをレジャーとして認識してて、イノシシ狩るののどこが悪い」と、もし思っているなら、この教授と僕は友達になれない。。
僕は料理人でもあるので殺生もたくさんしてきた。
だが一度たりとも「殺すの、たっのしい〜!!」なんて思った事ない。
原罪を抱え仕事してきたつもりなのです。

なんか変な話になりました。
「○○の森」読みます(๑˃̵ᴗ˂̵)
黒仁庵さんへ(かいこうのもり) (ろこ)
2017-05-17 15:27:25
黒仁庵さんへ
 邂逅の森=かいこうのもり。
 邂逅=めぐり合いという意味ですね。
 難しい字ですし、めったに使いませんよね。
 その教授のお話、どこか違和感を感じます。

 「人は歩いた数だけ山を知る。山のことは山に教われ、獣ことは獣に学べ」がマタギの鉄則。
 マタギには様々な掟(おきてや禁忌(きんき)(やってはいけない禁じられたこと)があります。それは山の神様への信仰があるからです。獲ってはならないとされている動物がいくつかあります。それらは山の神様の使いとされているものです。
 趣味で狩猟する者と、山の神様が分けてくださる動物への感謝と祈りを捧げるマタギとは全く違います。
 狩りをしたあとは、必ず獣と山の神様に祈りの言葉を唱えるならいです。 
 そのために狩りをする前は冷水を浴びて身を清め、女性を断ち、禁欲します。
 命ある獣と対峙するのですから、むやみな殺生を戒め、山の神様と獣たちに祈りをささげる狩り。
 
 英国の故ダイアナ妃は貴族が狩りをするのを楽しむのをとても嫌っていたそうです。夫のチャールズさんと、不倫相手の今は奥方の座についた女性は狩りが大好きだったそうです。
 趣味で楽しみで動物たちを狩る。殺生を楽しむ趣味です。
 「邂逅(かいこう)の森」は極寒の雪崩にあいそうな山で命がけでグループを組んで獣を獲る。その命と命の対決。それを厳しい自然が迎えうつ、そのすさまじさ、自然が獣が一人の男を男にしていく物語です。
 「邂逅(かいこう)」めぐり合いが何を意味するのか?それが読了後にわかります。
 大変な長編ですが、一読の価値は十二分にあります。
 ぜひご一読あれ。

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