言葉の泉

一粒の種から言の葉が茂ることを願って。

「本日は晴天なり」

2017年06月22日 | 新・随想

 昨日は隣の庭でとれたビワをたくさんいただいた。
 お隣とわが家は、よく到来物のお裾分けをしあう仲だ。
 何年か前までは、隣と我が家は干渉し合わない間柄だった。
 こんなに仲良くなったのは私がもたらした、ひょんな事件が発端だった。


 アマチュア無線を趣味としている私は、ある日、隣からの電話に真っ青になった。
 低い、押し殺したような、ドスの利いた声で、隣の主人はこういった。
 「うちのステレオからあんたの声がするんだけど、これって電波障害っていうやつかい?」

 まさかの出来事に驚いた私は、隣近所十七軒を調査することにした。
 一軒一軒回って、丁寧に聞き取り調査をしたところ、隣の家だけに電波障害をもたらしていることが判明。
 原因のもとをさぐり、我が家の無線機やケーブルに障害をださぬよう対処をしたが、電波障害はとまらなかった。
 その間、何回もお隣に行って状態をチェック。時には、ご夫婦の寝室にまであがって、ステレオをバラバラに分解したこともあった。
 ハンダゴテで、手をやけどしながら、電波障害をなくすフィルター作りを隣のご主人が見ている前でやる。
 できあがったフィルターをステレオ内部に入れ、我が家にひきかえして無線機のスイッチを入れ、マイクに向かって話す。
 「テスト、テスト、ただいまマイクのテスト中」
 マイクを置くとすぐ隣にひきかえして、尋ねた。
「ステレオからまだ声が聞こえますか?」
 「聞こえたよ。ただいまマイクのテスト中ってね」

 それを聞いた私はがっかりして涙がこみあげてきた。
 もう万策尽き果てたと思ったからだ。
 ハンダゴテでやけどして硬くなった指で涙をぬぐったら、眼のふちがヤスリでこすったようにあかく血がにじんだ。
 隣の奥さんが気の毒がって、
「もういいわよ。どうせお父さんはいつもステレオ聴いているわけじゃないから」
 といって慰めてくれた。

 そういわれても、電波障害がなくなったわけではない。
 また一からでなおしだ。
 電波障害を防ぐ本をかたっぱしから読み直しては、フィルターを作り、実験をくりかえす日々が続いた。

 どうやっても、直せないので、ある日、岐阜にいるベテラン・アマチュア無線局の家を探し出して、状況を話して対策を教えてもらうことにした。しかし、せっかく遠くまででかけたけれど、教えてもらった方法はもうすでにやった対策だった。
 がっかりして帰ろうとしたら、名古屋にいる友人に、その道の大家がいるからと住所を書いた紙を渡してくれた。

 次の日曜日に教えてもらった人の家に行くと、年の頃は六十歳ぐらいの男性がでてきた。
 中に入るように言われ、入ると、部屋の中は、足の踏み場もないほど電気コイルやケーブルが蛇のようにとぐろを巻いていた。
 「これ使ってみるといいよ」
 と豆粒ほどの丸いフィルターを差し出した。
 「俺が作った発明品だけど、ぴたりと止まるよ」
 と言って笑顔を向けた。
 貴重なフィルターを分けてもらい、扱い方を教えてもらって帰路につくことにした。

 見ず知らずの私なのに、岐阜の人も、名古屋の男性も、親身になって対策を考えてくれた。アマチュア無線という同じ趣味を持つもの同士、他人事じゃないのだ。
 わけてもらった特製のフィルターを持ってさっそく隣に出かけた。教えてもらった通り、フィルターを慎重にステレオの配線ケーブルに巻いた。すぐさま、わが家にとってかえって、マイクに向かって叫んだ。
 「神様、お願い.止まりますように」
 恐る恐る隣の家の玄関に走って入ると、
 「おい、待機しているんだから早くテストしてくれよ」
 ご主人が怖い顔で言った。
 「あの~。今、マイクに向かって叫んだんですけど・・・」
 「え!テスト終わったの?何も聞こえなかったよ」
 「ほんとうですか?わ!止まったんだ。やったー。電波障害が止まった!ばんざい!」

 嬉しさのあまり、玄関のあがりかまちに腰を抜かしたようにへたりこんだ。
 とうとう電波障害がとまった。
 いつのまに、そばに来たのか、隣の家のご主人が、私の肩に手を置いてぽつりとこういった。
 「あんた、へたな電気屋よりずっと腕がいいね。何でも直せそうだなあ」
 初めてみるご主人の笑顔だった。

 「隣は何をする人ぞ」とせちがらい世の中。
 それまで、私もお隣とは干渉し合わない関係だったが、災い転じて福となった。
 「本日は晴天なり」
 マイクをテストする私の声が、今日も梅雨空をつき抜けて電離層に向けて発信されていく。
 隣の庭に、たわわに実ったビワの実が重そうに風に揺れていた。
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2 コメント

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Unknown (藍)
2017-06-24 08:44:01
ろこさま

枇杷つながりで素敵な
お・は・な・し。
  ↑
(ここのところ、滝川クリステル風に)

だから、ろこさまファン。
やめられません。
藍さんへ(枇杷) (ろこ)
2017-06-24 09:46:27
藍さんへ
 枇杷の時期になると、思い出す騒動でした。

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