言葉の泉

一粒の種から言の葉が茂ることを願って。

言葉

2016年10月14日 | 新・随想

  人間が好きで、言葉が好きという流れの中で生きてきた。
 父も言葉が好きな人だった。
 兄と一緒に小説を書いていたらしい。
 社会人になってからは本業に関わる一文を文藝春秋に寄稿したり、シナリオを書き、映画を作ったりもした。
 それはすべて本業とはかかわりがあったにせよ、本業ではなかった。
 国の代表としてアメリカに滞在し帰国すると転職した。

 そんな父は子どもは男の子を切望していたが、女ばかり三人も授かった。
 三人目の私はほとんど父の眼中にはなく、多忙もあって言葉を交わすことは少なかった。
 皮肉なことに容貌も性格も父にソックリだった私は心の中で父を慕ってはいたが、なつくことはなかった。

 父の晩年、父を看病するのは私が多かった。
 新幹線の回数券を買って看病した。
 父は私の顔をみると「帰りなさい」と言った。
 「今、来たばかりなのに」と思っても「帰りなさい」というのだった。
 もう多くをしゃべることが出来なかった父の大いなる私へのいたわりの言葉だった。
 病み衰えた背中を拭き、マッサージをすると「ああ、いい気持ちだ」と心地よさそうだった。
 あんなに子どものころから欲しかった父の言葉も、
 もう聞く回数も少ないだろうと思いながら聞いていたが、二人とも、もう言葉は必要でなかった。
 父と娘という血のつながりだけが静かに二人をつないでいる。
 それで十分だった。
 
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2 コメント

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父親 (からく)
2016-10-14 21:23:45
こんばんは、からくです。
ブログを拝見して、私も自分の父のことを思い出しました。私は四人兄弟の末っ子で父が42のときの恥かきっ子でした。ですから世代間の大きな違いからか、やはり言葉を交わすことは少なかったです。
晩年の身体の衰えた父親の世話をしたのは私の妻でしたが(感謝、感謝)、私もできるだけ父の入院する病院に顔を見せに行きました。そうすると、やはり「帰りなさい」と言う。今来たばかりなのに。
父親っていうのはそういうものなのかな?
私の場合は今一つ消化不良のまま、父を亡くしたことを悔やんでいます。
からくさんへ(親子) (ろこ)
2016-10-14 21:52:22
からくさんへ
 お父様が42歳の時の「恥かきっ子」とのこと。
 私の場合は母が40歳の時のまさに「恥かきっ子」でした。
 母が40歳で私を身ごもったとき、姪っ子が母に「叔母さん、40歳で妊娠して恥ずかしくないの?」と口汚く言い放ったそうです。
 その言った本人はちょうど40歳の時、子宮外妊娠で子宮が破裂して出血多量で子供3人を残して死にました。自分の言った言葉が自分にそのままふりかっかかった哀れな死でした。
 話が脱線しましたが、親子の時代の差はよい場合もあります。私は両親が40代から50代で、生活面でも人生の上でも充実していた時期だったので、上の二人の姉たちよりも、豊かな暮らしでした。しかし悪い面では、お別れがすぐ来てしまいました。
 新幹線に乗って看病をする娘は父にとってただただ不憫な存在だとおもったようです。
 私も父とは軽口はたたくけれど、心の底を割って話すことは一回もありませんでした。
 この父の世話にだけはなるまいと片意地はって生きてきたように思います。
 私がもし作家になるのなら「父」を題材にして書きたいと思ってきましたが、死んでしまった今、父への怨念も追慕の情も消えてしまって何一つ心に残るものはありません。それは最期に看病した時、憎くくもあり、愛されたいと思ってきたことも、老いのシミが浮いた、痩せ衰えた背中を見たとき、消えてしまいました。
 そして心理学を学び、トラウマ療法をうけたとき、完全に子供の時の心の傷が消えました。
 からくさんも、一度、思いっきり、子供のころから抱いていたお父様への思慕や怒りや、その他あらゆる感情をはきだしてみるといいと思います。
 誰にも読まれない紙に書き連ねてもいいのです。
 心の中の思いのたけを吐ききると、見えてくるものがあります。
 お父様への想いも、きっと昇華することでしょう。
 父と娘。父と息子。それぞれどの家でも違う感情があると思います。一つにこうだと定義づけるものなど親子にはないと私は思います。
 私は11年間、ブログを続けたのは父への想いをいつかかけると思ったからです。
 昨年それを書ききりました。その一文である賞をいただきました。
 私と父はそこで完結したと思っていましたが、また「言葉」という記事を書くに当たり、親子の絆に完結はないと悟りました。
 からくさんは、悔やんでいらっしゃるそうですが、その思いを書き続けてください。きっと見えてくるものがあります。
 答えは自分でみつけてこそ、意味があります。

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