言葉の泉

一粒の種から言の葉が茂ることを願って。

「サギ草の君(きみ)」

2016年10月20日 | 新・随想

人とのちょっとしたふれあいが好きだ。
例えば塀の周りの花に水やりをしていると、通りすがりの見知らぬ人が声をかけてくる。
「きれいな花やねえ。なんという花かね?」
 「いつも丹精なさっていますね」
「種から育てたのですか?」
 などと話しかけられる。
 小学生の列が通っていくときは、
「おはようございます」
と挨拶する子や、ホースの上に乗っかっていたずらする子もいる。
中には、
 「お花に水をあげてえらいわね」
 などと、こまっしゃくれたことを言う子もいる。
 きっと家で言われている言葉を使ったのだろう。
 小学生の一団が通り過ぎると、自転車に乗った職人風の男性が、
「おはようっス!」と声をかけてくる。
 「あ!おはよう!いってらっしゃい」と返事。
 別の人が「いつも綺麗ですね」と言って通り過ぎる。
 「え?私のこと?」な~んて、もう勘違いはしませんよ。
 いつだったか犬の散歩で「おいくつですか?」ときかれて、
 「よんじゅううう・・」
 と言いかけると「えっ??」
 とけげんそうな顔をしたのではっと気が付いて、
 「5歳になったばかりです」と答えた。
(いくらなんでも犬に「おいくつですか?」はないだろう!)
 
腰の曲がったお婆さんが、プランターの前で立ち止まって、
 「うっつくしょうね」(美しいね)
 と言うのを聞くと丹精した甲斐があったと嬉しくなる。
  声をかけていく人の中には
 仕立てのよさそうなスーツを着た男性がいる。「おはようございます」と、さわやかに声をかけていく。
 近くに住む人のようだが、どこの誰かまではわからない。
年代は50過ぎだろうか60歳に近いかもしれない。髪の毛に白髪が混じっている、ごま塩頭だ。私は心の中で「ごま塩さん」と呼んでいる。
 塀の周りの花が盛りになるころ、ごま塩さんは少しだけ長い会話をするようになる。
 主に「パンジーが綺麗ですね」とか「蝋梅(ろうばい)の香りがいいですね」など花にまつわることが多いが、時には庭の中にそびえる30メートルのアマチュア無線のタワーについて尋ねることもある。
アマチュア無線は私の趣味である。




 そんな風に毎朝の水やりと、人とのふれあいは楽しい一日のスタートである。
朝が水やりで始まるのなら、夕方は犬との散歩で締めくくられる。

ある日、いつもの散歩コースを変えて、少し遠い先の方まで行ってみることにした。
そのあたりは牧場に近く、雑草がおいしげり、ひときわひなびた風景がひろがっている。
気がつくと見たことのある風貌の人が前を歩いていくではないか。あの人だった。そう。いつも挨拶していく「ごま塩さん」だ。

 今日はスーツ姿でなくラフなシャツに渋い茶色のズボンをはいている。彼は突き当たりにある一軒の家に入っていった。
 通りから庭の中がみえた。
たくさんの鉢が並んでいてそこには丹精した草花が植わっていた。おもに山野草が多く、みたことがないような野草が植わっている。
その中の一鉢に目が吸い寄せられた。それは白サギが舞うような姿をしていた。「サギ草」だ!

 いつも会釈して我が家の前を通っていく人の、渋い好みがそこにはあった。地味ではあるけれど美しい山野草をめでる「ごま塩さん」はどんなことを想って過ごしているのだろうか?
「サギ草」にまつわる悲恋でもあるのだろうかなどと、妄想まで浮かんでしまった。
 その瞬間から私は「ごま塩さん」を「サギ草の君(きみ)」と呼び名を変えた。

 いつまでもこの家の近辺をうろついていては怪しまれそうだと思い、早々に家路につくことにした。
 それから数か月後の日曜日。

久しぶりにアマチュア無線を楽しもうと無線機のスイッチを入れた。
アメリカ方面にアンテナを向けるとカリフォルニアから日本人男性が日本に向けて交信をしているのが聞こえた。
 UCLA,カリフォルニア大学ロサンゼルス校からのオンエアだ。
この大学は、カリフォルニア州の大学で学生数が最も多い総合州立大学である。

 マイクを握って交信している男性は日本の某国立大学の総長だった。
セラミックの権威で学会に参加するためにこの大学に出張していると話している。
 私も早速この人と交信すべく呼んでみた。すると大勢の日本人が呼びかけている中、私をピックアップしてくれた。
 個人に与えられた無線上の呼び出し符号である私のコールサインを言って、自己紹介しようとすると、
 「○○さんでしょ?」と突然私の本名を言ったので驚いた。
 「え?初めてお話しするのですが、どこかでお目にかかったことがあるのでしょうか?」
 と尋ねた。
 すると彼はこういった。
 「いつもお宅の前を通りかかってお花を楽しませて貰っている○○と申します」
 と言った。
 「あの~。もしかしたらサギ草を育てている方ですか?」
 と、つい、うっかり言ってしまった。
 「あははは。そうです。よく、私がサギ草を育てているのがわかりましたね、さては私の家を見つけましたね」
 という。

 (そうか、サギ草の君はアマチュア無線局だったのだ!)
 アメリカと日本。距離は離れているのに、二人は電波を介していつまでも話に花が咲いた。
 交信の最後に彼は、
 「日本に帰国した時は、わがやの山野草を是非お目にかけたいので家に遊びに来てください」
 と言って交信は終了したのだった。

 塀の周りに花を植えていなければ、そして水やりをすることがなければ、言葉を交わすこともなく過ぎていった二人であった。
 草花は何も、ものを言わないけれど、素敵な出会いを作ってくれた。
 時はもう秋。
 塀ぎわに植えた花はもうすっかり散り、木々は紅葉を始めている。
 通りすがりのあの人、いえ、もうすっかり仲良しになった「サギ草の君」はもう帰国しただろうか?
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6 コメント

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おはようございます。 (みいやん)
2016-10-20 11:25:46
今日は晴天です。
気持ちの良い一日が始まりそうです。
そして~始まりました。
ろこさんのおかげです。

本当に偶然とは言ってもびっくりすることですね。
ゴマ塩さんからサギ草君~(笑)

アメリカとの交信でまさかのまさか!

それはそれは驚きだったでしょうね。

ワクワクする今日の記事に朝から私も~ハイテンションです(笑)

仕事に向かっている息子のラインのやり取りはろこさんのことでした(笑)

コールサイン~自分のはもう20数年前ですし興味も余りなかったで忘れかけています。
数字の7から始まっていたような記憶です。

でも息子のは今でもはっきりと覚えています(笑)
小学生から大学までしかやっていませんが...
その当時の免許証の顔写真が大学生になっても小学生のままだったのが今でも笑えます。
何とかならないのかなぁ~と言っていたのは覚えています。

JS1....今でも部屋のドアにコールサインが貼っていますよ。(笑)

ろこさんはとてもフレンドリーなお方なんですね。
そのことがきれいなお花から伝わってきました♪




わりと近くにサギ公園があります。

一回しか行ったことはないのですが真っ白い鷺もサギ草もきれいです。
さいたまには白鷺というお洒落なお菓子もあるんですよ。
よく御遣いものに使います。


サギ草の花言葉も素敵ですね。
(夢でもあなたを想う)

また行ってみたくなりました。
みいやんさんへ(コールサイン) (ろこ)
2016-10-20 14:32:33
みいやんさんへ
 地域によってコールサインの数字は指定されていますJS1とのこと。1エリアは関東です。2エリアは東海地方と数字によって住んでいる地域がわかります。8は北海道です。
 コールサインの頭の文字は国を表します。
 JS1のJはジャパンで日本。Fはフランス。Iはイタリア。VKはオーストラリア。Wはアメリカなど。
 ランダムにアンテナを回してWが聞こえるとアメリカなのでそちらにアンテナを振ると明瞭に聞こえます。アフリカのマリ共和国はアマチュア無線局が一人しかいなかったので、マリ共和国が現れると、世界中のアマチュア無線局が殺到して競争になります。
 今は亡き、ヨルダンのフセイン国王もアマチュア無線局でした。国王が電波にでると、これも世界中のアマチュア無線局が国王とコンタクトしたくて殺到してすごいことになったものです。
 アマチュア無線をやっていて、偶然のいたずらともいえる運命的な出会いも数多くありました。
 ハムの世界は面白すぎて寝食を忘れます。英語が抜群にうまくなったのは無線のおかげです。DXでは英語が世界共通語なので、英語で毎日交信していたので自然と聞く力と話す力はつきました。十数年、毎日英語三昧で、日本語忘れたほどです。
 楽しすぎた日々は毒でもあり宝物でもありました。
Unknown (博多の華)
2016-10-20 15:47:48
高校の時アマチュア無線〔電気系〕が大好きな同級生がいました。
彼の部屋に遊びに行くと足の踏み場もないくらい部品が散らばっていたのを〔座れない〕思い出してしまいました・・・
電気系は苦手なので尊敬です。
出会いの距離感が凄いです。近くて遠い・・・
博多の華さんへ(花が取り持つ縁) (ろこ)
2016-10-20 16:05:15
博多の華さんへ
 お友達の部屋。何を隠そう、私と同じです。半田ごてがあり、同軸ケーブルが転がり、計器類が散らかっていて、足の踏み場もありません。
 あ!でも出会いは「お花」が取り持つ縁です。
 パンジーを植え続けて、市のフラワーコンクールで賞を連続してとったこともありました。
 パンジーが取り持つ縁で随分いろいろな人と出会いがあり、つながっていきました。
 お花つながりの人はみんないい人ばかり!種の交換をしたり、育て方の情報を教えあったりしています。
 博多の華さんのブログはひそかな人気です。
 電気系統のつながりも、固いつながりがあります。
 早い話、好きな世界はみんな仲良しになるということでしょうね。
Unknown (ゆめ)
2016-10-20 19:47:57
ろこさん

素敵なお話を聞かせてくださってありがとう!
心がほっこりしました。
偶然は運命?でしょうか...。
人と人との出会いを大切にしたいと、つくづく思いました。
ゆめさんへ(偶然) (ろこ)
2016-10-20 20:53:21
ゆめさんへ
 こんにちは。
 ね。ご縁ってあるんですね。アマチュア無線のご縁はまだまだあって、イギリスに留学した時、牧師さん一家に下宿させてもらっていました。その牧師さんもアマチュア無線が趣味だと知って、それからずっと親代わりになってくれて、今もフェイスブックでつながっています。そして、さらにお孫さんの名前を私の名前にしてくれて、びっくり!
 さらにさらに。カテゴリーの中で「私と仲間たち」というコーナーがありますが、その中のラーメン屋さんのサー君も、偶然アマチュア無線局です。
 彼は私が困っていたら、「どんなことがあっても俺が助けに行くよ」と力強くいってくれます。
 人と人のつながりって、大切ですね。
 ブログで「ゆめ」さんと知り合ったのも、何かのご縁。きっとどこかでつながっているのかもしれんません。仲良くしてくださいね。

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