「愛妻の日」だとわかっているはずなのに、どこかですり替わってしまったらしく、気が付いた時には「いい夫婦の日」を連呼しておりました…。
久し振りに買い物とお茶でも行かない?という文惠ちゃんからの電話に誘われて出かけた冬の昼下がり。
「しっかし本当にうらやましいわよねー。」
あまりにも久しぶりだったからついつい子供のようにはしゃぎながらもお目当ての品を買い求め、その余韻を引きつれたまま入った喫茶店で一服していると、文惠ちゃんが感嘆の息とともにそんな台詞を零した。
「何が?」
「あんたたち夫婦。これだけ長く付き合ってるともういい加減倦怠期が来てもおかしくないっていうのに。本っ当に仲いいわよね。」
歯に衣を着せない物言いは文惠ちゃんらしいけれど、ここまではっきり言われるとどこか面映ゆい。そわそわと落ち着きを失った気持ちを誤魔化すように、一応言い返してみる。
「…文惠ちゃんたちだってとっても仲良しじゃない。」
「うちは全然ダメ!かわいい奥さんを労わろう、っていう気持ちはこれっぽっちもないもの。」
口ではそんなことを言っているけれど、それは単なる照れ隠しだと文惠ちゃんの目が物語っている。
『沢口さんちの若夫婦』を知らない人はいないんじゃないかしら、とうちのおかあさんが呟いていたことがあったくらいだもの。私たちには少々分かり辛い愛情の形をとることがあるけれど、この二人が本当に信頼し合っているのは見ていてよくわかる。…町内会の語り草になっていることを知らないのは多分本人たちだけだと思うし、本人たちの名誉のためにも、町内の有名人と化している事実は伏せておくことにする。
「まあ、原川があそこまでヤサコにぞっこんだったのは意外だったけど、そのおかげでこっちもその恩恵に預かれたわけだし。一応ありがと、って伝えておいて。」
不思議がる私に、家に帰ればわかるわよ、と文惠ちゃんは意味ありげに笑って見せる。
出かけてきます、と伝えた時の研一さんはどこか挙動不審なところがあった。気にはなったけれど夫婦といえども互いのプライバシーは尊重したいから、敢えて聞かないようにしたのだけど。目の前の文惠ちゃんの意味深な笑みに、ざわざわと心が落ち着かなくなる。研一さんは私に内緒で何をやっているのかしら?
「おみやげくらいは買って帰らないとね。」
そんな文惠ちゃんに付き合いおみやげ兼夕食後のデザートを購入し、私たちはそれぞれ帰途に就く。別れた途端、吹き出した研一さんに会いたい気持ちが抑えられず、私は家路を急ぐ。
「ただいま。」
急いで帰ったのがばれないよう、呼吸を整えて玄関の戸を開ける。玄関に靴はあるから研一さんがいるはずなのに、静まり返った家の中からは何の返答もない。
その代わりうっすらと台所の方から香辛料の香りが漂ってくる。カレーなんてここしばらく作っていないから、遅くなるのを見越した研一さんが夕食を作ってくれたのだと思う。
本当に良い旦那様をもらったものだと感謝しつつその姿を探せば、リビングのソファにもたれかかってうたた寝をしている真っ最中だった。随分日も陰ってしまったし、このままでは風邪をひいてしまいそうだから毛布をかけてあげないと。
毛布を取りに寝室に向かう途中、先ほど購入したデザートを冷蔵庫へ入れようとダイニングに立ち寄り、その様子に私は面食らってしまう。
ダイニングテーブルは後は料理を並べるだけの状態にセッティングされていて、その中央には最近使う機会がなくてクローゼットにしまっておいたはずの一輪挿しが置かれていた。出かけるときには見なかった、真っ赤なお花と一緒に。
口下手な研一さんはなかなか愛情を言葉で表してはくれない。その分、時折嬉しいサプライズを用意してくれる。記念日なんかはチェックしているみたいだから、今日も研一さんなりに思うところがあって、こうして準備をしてくれたのだろう。
冷蔵庫を開けるとサラダや私の好きなワインが冷やしてあった。準備を終えた後にうたた寝してしまうほど、研一さんががんばってくれたのがよくわかる。
本当は気づかないでいたかったけれど、仕方ないわよね。
うっかりうたた寝してしまうという詰めの甘さに苦笑して私は台所を後にし、毛布を取ってリビングへと戻る。
最初は毛布を掛けてあげるだけのつもりだったけれど、あのダイニングを見た後では、ただ毛布を掛けるだけでは研一さんの愛情に応えきれないという気になる。だから。
「ありがとう。」
起こさないように小さく呟いて、口づけを落とし、そっと横に腰を下ろして一緒に毛布にくるまる。
ほんの少し体を傾けて研一さんの肩口に頭を置くと、触れ合った部分からじんわりと熱が伝わってくる。その温かさが心地よくて、私はそっと目を閉じた。
久し振りに買い物とお茶でも行かない?という文惠ちゃんからの電話に誘われて出かけた冬の昼下がり。
「しっかし本当にうらやましいわよねー。」
あまりにも久しぶりだったからついつい子供のようにはしゃぎながらもお目当ての品を買い求め、その余韻を引きつれたまま入った喫茶店で一服していると、文惠ちゃんが感嘆の息とともにそんな台詞を零した。
「何が?」
「あんたたち夫婦。これだけ長く付き合ってるともういい加減倦怠期が来てもおかしくないっていうのに。本っ当に仲いいわよね。」
歯に衣を着せない物言いは文惠ちゃんらしいけれど、ここまではっきり言われるとどこか面映ゆい。そわそわと落ち着きを失った気持ちを誤魔化すように、一応言い返してみる。
「…文惠ちゃんたちだってとっても仲良しじゃない。」
「うちは全然ダメ!かわいい奥さんを労わろう、っていう気持ちはこれっぽっちもないもの。」
口ではそんなことを言っているけれど、それは単なる照れ隠しだと文惠ちゃんの目が物語っている。
『沢口さんちの若夫婦』を知らない人はいないんじゃないかしら、とうちのおかあさんが呟いていたことがあったくらいだもの。私たちには少々分かり辛い愛情の形をとることがあるけれど、この二人が本当に信頼し合っているのは見ていてよくわかる。…町内会の語り草になっていることを知らないのは多分本人たちだけだと思うし、本人たちの名誉のためにも、町内の有名人と化している事実は伏せておくことにする。
「まあ、原川があそこまでヤサコにぞっこんだったのは意外だったけど、そのおかげでこっちもその恩恵に預かれたわけだし。一応ありがと、って伝えておいて。」
不思議がる私に、家に帰ればわかるわよ、と文惠ちゃんは意味ありげに笑って見せる。
出かけてきます、と伝えた時の研一さんはどこか挙動不審なところがあった。気にはなったけれど夫婦といえども互いのプライバシーは尊重したいから、敢えて聞かないようにしたのだけど。目の前の文惠ちゃんの意味深な笑みに、ざわざわと心が落ち着かなくなる。研一さんは私に内緒で何をやっているのかしら?
「おみやげくらいは買って帰らないとね。」
そんな文惠ちゃんに付き合いおみやげ兼夕食後のデザートを購入し、私たちはそれぞれ帰途に就く。別れた途端、吹き出した研一さんに会いたい気持ちが抑えられず、私は家路を急ぐ。
「ただいま。」
急いで帰ったのがばれないよう、呼吸を整えて玄関の戸を開ける。玄関に靴はあるから研一さんがいるはずなのに、静まり返った家の中からは何の返答もない。
その代わりうっすらと台所の方から香辛料の香りが漂ってくる。カレーなんてここしばらく作っていないから、遅くなるのを見越した研一さんが夕食を作ってくれたのだと思う。
本当に良い旦那様をもらったものだと感謝しつつその姿を探せば、リビングのソファにもたれかかってうたた寝をしている真っ最中だった。随分日も陰ってしまったし、このままでは風邪をひいてしまいそうだから毛布をかけてあげないと。
毛布を取りに寝室に向かう途中、先ほど購入したデザートを冷蔵庫へ入れようとダイニングに立ち寄り、その様子に私は面食らってしまう。
ダイニングテーブルは後は料理を並べるだけの状態にセッティングされていて、その中央には最近使う機会がなくてクローゼットにしまっておいたはずの一輪挿しが置かれていた。出かけるときには見なかった、真っ赤なお花と一緒に。
口下手な研一さんはなかなか愛情を言葉で表してはくれない。その分、時折嬉しいサプライズを用意してくれる。記念日なんかはチェックしているみたいだから、今日も研一さんなりに思うところがあって、こうして準備をしてくれたのだろう。
冷蔵庫を開けるとサラダや私の好きなワインが冷やしてあった。準備を終えた後にうたた寝してしまうほど、研一さんががんばってくれたのがよくわかる。
本当は気づかないでいたかったけれど、仕方ないわよね。
うっかりうたた寝してしまうという詰めの甘さに苦笑して私は台所を後にし、毛布を取ってリビングへと戻る。
最初は毛布を掛けてあげるだけのつもりだったけれど、あのダイニングを見た後では、ただ毛布を掛けるだけでは研一さんの愛情に応えきれないという気になる。だから。
「ありがとう。」
起こさないように小さく呟いて、口づけを落とし、そっと横に腰を下ろして一緒に毛布にくるまる。
ほんの少し体を傾けて研一さんの肩口に頭を置くと、触れ合った部分からじんわりと熱が伝わってくる。その温かさが心地よくて、私はそっと目を閉じた。








