それでは、どうぞ。
彼女のことは大好きだし、自他ともに仲が良いことは認める。だけど仲が良いからと言っていつでもどこでもべったりくっついているわけじゃない。
こうして一緒に旅行には来たけれど、お互いが見たいものを自由に見る時間も大切なので、時間と場所を決めて各々単独行動したりもする。
ある程度見たいものを見尽くしたところで時計を見れば、約束の時間より少し早い。けれど、もう満足したので待ち合わせの場所に向かいつつ彼女の姿を探せば、程なくして一枚の解説板の前に佇んでいる彼女を見つけた。
じーっという効果音が聞こえそうなくらい、真剣に解説板を読む姿に臆して声をかけるのが躊躇われる。まだこちらには気づいていないようなので、一体何をそんなに真剣に読んでいるのかとそっと彼女の背後に近寄って、件の解説板を覗き込む。
夫婦杉
この二本の杉は根元で一つになっていることから夫婦杉と呼ばれており、しっかりと結ばれた二本の木は如何なる事があっても切り離すことができないため、縁結びの象徴となっております。恋人、夫婦、家族と手を繋ぎ、夫婦杉の周りを右回りで三回まわると、末永く幸せになれると言い伝えられています。
なるほど。僕は心の中で呟く。
得てして女性というものは『縁結び』という言葉に弱いもので、彼女だって例外ではない。多分、何と言って僕を説き伏せようか真剣に考えているのだろう。
僕たち恋人同士です。末永く幸せになりたいと願ってます。
僕の性格からすれば、誰彼かまわずそう宣言しているようなシチュエーションは、とても恥ずかしくて出来れば遠慮したい。けれど、彼女のことを思えばその希望は叶えてあげたい。
しばしの葛藤の後、愛情が羞恥心を上回った。こんなに真剣な彼女の姿を見れば、無碍に断るなんて出来ない。ずっと一緒にいたいという気持ちは僕だって同じだから。
「優子さん。」
呼びかければ弾かれたように彼女は振り返る。
「ああびっくりした。もういいの?」
「うん。それより。」
手を差し出せば、訳がわからないとばかりに軽く首を傾げた。だけどすぐに意味がわかったらしく、一瞬で顔を赤くしてその場に立ちすくんでしまう。あれほど真剣に悩んでいた分、実際に手をつなぐという状況に戸惑ってしまうのだろう。このままでは埒が明かないし、やるなら周りに人が少ない今のうちに済ませてしまいたい。僕は思いきってすっかり躊躇して萎縮して行動に移せない彼女の手を握った。
「右ってこっちでいいんだよね?」
「う…うん。矢印、こっちになってるし。」
緊張して間違ってしまう人がいるのだろう。親切に『右→と書かれた』看板が立っていた。彼女の手を引き、看板に従ってぐるぐると木の周りを回る。
途中、すっかり黙り込んでしまった彼女が心配になってそっと半歩後ろを振り返れば、僕に手を引かれるまま歩いている彼女の真っ赤な顔が視界に入った。その様子とつないだ手からじんわりと伝わってくる熱に、次第に僕も自分が熱くなっていくのがわかった。
だけど、こういうのも悪くない。
恥ずかしい気持ちはどうやったって拭えないけれど、恥ずかしさで真っ赤になりつつも彼女の口元がほころんでいたのに気づいてしまったから。
彼女のはにかんだ笑顔につられて僕の口元が緩んでいたのに気づくのは、夫婦杉の周りを三周回った直後のこと。








