
馬における繋部での断脚術は、基節骨(Proximal phalanx)、中節骨(Middle phalanx)、末節骨(Distal phalanx)、および蹄部の重篤な運動器疾患(Severe musculoskeletal disorder)を呈した症例に応用が可能な救援療法(Salvage procedure)です。この治療では、断脚端(Amputated stump)の部位に蹄叉(Hoof frog)の組織を自家的移植(Autologous transplantation)することで、体重支持を容易にする術式が併用されることもあります。
繋部での断脚術においては、原発疾患(Primary disorder)の発症箇所に応じて、球節(Fetlock joint)(=中手&中足指骨間関節:Meta-carpo/tarso-phalangeal joint)の部位での断脚、繋関節(Pastern joint)(=近位指骨間関節:Proximal inter-pharangeal joint)の部位での断脚(下記写真の左)、もしくは蹄関節(Coffin joint)(=遠位指骨間関節:Distal inter-pharangeal joint)の部位での断脚(下記写真の右)のいずれかが選択されます。このように関節部位で断脚することで、断脚箇所の骨端に滑らかな関節軟骨(Articular cartilage)が位置することになるため、それを覆う皮膚や軟部組織の損傷を予防できる利点があります。断脚に際しては、関節面から約2cm遠位側における半楕円形切開創(Semi-elliptical incision)によって遠位肢組織を切除し、血管および神経組織(Vascular and nerve tissues)を慎重に結紮します。

断脚端を縫合閉鎖する際には、浅&深屈腱(Superficial/Deep digital flexor tendon)を、背側部の伸筋腱(Extensor tendons)に縫合結合する手法が用いられます。しかし、断脚端を支持するのに十分な軟部組織が確保できない症例も多いため、その場合には、断脚端に蹄叉組織が自家的移植されることもあり(下記写真)、その術式としては、以下の(1)〜(3)の三種類があります。(1)蹄部への感染(Foot infection)が無く良好な血流(Proper blood supply)が保たれている症例では、掌側&底部切開創を蹄球(Heel bulbs)の位置まで遠位へと伸展させて、蹄球、蹄枕(Digital cushion)、蹄叉真皮(Frog corium)などの根部組織(Pedicle)を蹄壁内で切除して、これらをフラップとして断脚端の皮膚に縫合結合させます。(2)類似の術式では、断脚端の皮膚を5mmの隙間を残すように縫合糸で寄せてから、5x50mmのサイズの蹄枕および蹄叉真皮を蹄壁内で切除して、これらを断脚端の皮膚縫合線に取り込むように縫い付けます。(3)蹄部への感染が重篤な場合には、二回に分けての手術が必要になり、まず最初に、断脚端の皮膚を隙間ができるように縫合し、抗生物質含有PMMAビーズ(Antibiotic-impregnated polymethylmethacrylate beads)を感染部位に埋没させることで、二週間にわたって健常な肉芽組織(Healthy granulation tissue)の新生を促します。そして、十分な肉芽組織が形成された時点で、二回目の手術を行い、対側肢(Contralateral limb)の蹄叉に設けた正軸切開創(Axial incision)を介して、対側肢から蹄枕および蹄叉真皮を採取して、これを患肢の断脚端の肉芽組織内へと移植します。

繋部での断脚術では、術創の縫合後に管骨に二本のピンを通し(下記写真)、それをギプス素材に埋め込むことで、遠位肢の経固定具ピンギプス(Distal-limb transfixation pin cast)を装着させてから、その断端に金属製の仮義足(Temporary prosthesis)を連結させます。この際には、二本のピンを30度の角度でずらした方向に設置することで、ピン穴が位置する骨単位(Osteon)の走行軸が異なることになるため、ピン穴のあいだに亀裂を生じにくく、経固定具ピンギプスの破損や管骨の二次性骨折(Secondary fracture)を起こす危険を減少できると考えられています。また、麻酔覚醒(Anesthesia recovery)に際しては、吊起帯(Sling)もしくはプールを用いての、起立補助を行うことが強く推奨されています。

術後には、経固定具ピンギプスを一ヶ月ごとに交換し、合計で三ヶ月間装着する指針が推奨されており、その後には、断脚端の蹄叉組織が完全に再構築(Remodeling)されるまでは(一般的に三〜六ヶ月を要する)、通常の遠位肢ギプス(Standard full-limb cast)の装着を継続させます。断脚端の良好な治癒が完了した後には、管部から遠位側を覆う義足の装着が行われます。義足を作成する際には、ギプス素材を用いて遠位肢の型取りをし、その鋳型(Template)に基づいて、プラスチック製の義足を作成し(頭側および尾側カップに分離される)、管部にバンドで締めるようにして装着します(下記写真の左)。ギプスの内面は柔らかい発砲素材で覆い、ギプスの底面には金属製またはプラスティック製の蹄鉄がネジで取り付けられます(下記写真の右)。
繋部での断脚術では、その予後は中程度で、症例報告では四割〜六割の長期生存率(Long-term survival rate)と、二年〜三年の延命が期待できることが示唆されていますが、義足手術から12年間にわたって生存した症例もあります(Vlahos and Redden. EVE. 2005;17:212 & Vlahos et al. Proc AAEP. 2010.56.187)。また、前肢よりも後肢のほうが、繋部での義足手術による予後は良い傾向にありますが、一方で、気難しい馬の多いサラブレッド種に対する義足手術では、他の品種に比べて予後が悪いという報告や、高齢馬よりも若齢馬のほうが術創の治りが早く体重も軽いので、義足手術には向いているという知見もあります。繋部での断脚術における術後合併症(Post-operative complication)としては、経固定具ピンギプスの装着に起因する致死性管骨骨折(Catastrophic cannon bone fracture)およびピン穴部での腐骨形成(Pin-hole sequestrum)、対側肢の負重性蹄葉炎(Support laminitis)、褥瘡(Decubitus ulcers)などが報告されています。

Photo courtesy of Grant BD. Limb Amputation and Prosthesis. In: Current Techniques in Equine Surgery and Lameness. 2nd ed. W.B.Saunders. 1998: pp463-468; Krpan MK, et al. Amputation of the equine limb: a report of three cases. Proc AAEP. 1985; 30: 429-444; Kelmer G, et al. Case report: Amputation and prosthesis in a horse: short- and long-term complications. Equine Vet Educ. 2004; 16(5): 235-241; Vlahos TP, et al. Tutorial article: Amputation of the equine distal limb: indications, techniques and long-term care. Equine Vet Educ. 2005; 17(4): 212-217; Vlahos TP, et al. How to perform amputation of the equine limb using a caudal flap technique. Proc AAEP. 2010; 56: 187-191.
関連記事:
馬の診療:義足手術 その1
馬の診療:義足手術 その2
馬の文献:義足手術(Koger. 1963)
馬の文献:義足手術(Koger et al. 1970)
馬の文献:義足手術(Evans. 1978)
馬の文献:義足手術(Krpan et al. 1985)
馬の文献:義足手術(Crawley et al. 1989)
馬の文献:義足手術(Kelmer et al. 2004)
馬の文献:義足手術(Vlahos and Redden. 2005)
馬の文献:義足手術(Vlahos et al. 2010)
義足の馬、モリーの物語
義足の馬、モリーの来訪
繋部での断脚術においては、原発疾患(Primary disorder)の発症箇所に応じて、球節(Fetlock joint)(=中手&中足指骨間関節:Meta-carpo/tarso-phalangeal joint)の部位での断脚、繋関節(Pastern joint)(=近位指骨間関節:Proximal inter-pharangeal joint)の部位での断脚(下記写真の左)、もしくは蹄関節(Coffin joint)(=遠位指骨間関節:Distal inter-pharangeal joint)の部位での断脚(下記写真の右)のいずれかが選択されます。このように関節部位で断脚することで、断脚箇所の骨端に滑らかな関節軟骨(Articular cartilage)が位置することになるため、それを覆う皮膚や軟部組織の損傷を予防できる利点があります。断脚に際しては、関節面から約2cm遠位側における半楕円形切開創(Semi-elliptical incision)によって遠位肢組織を切除し、血管および神経組織(Vascular and nerve tissues)を慎重に結紮します。

断脚端を縫合閉鎖する際には、浅&深屈腱(Superficial/Deep digital flexor tendon)を、背側部の伸筋腱(Extensor tendons)に縫合結合する手法が用いられます。しかし、断脚端を支持するのに十分な軟部組織が確保できない症例も多いため、その場合には、断脚端に蹄叉組織が自家的移植されることもあり(下記写真)、その術式としては、以下の(1)〜(3)の三種類があります。(1)蹄部への感染(Foot infection)が無く良好な血流(Proper blood supply)が保たれている症例では、掌側&底部切開創を蹄球(Heel bulbs)の位置まで遠位へと伸展させて、蹄球、蹄枕(Digital cushion)、蹄叉真皮(Frog corium)などの根部組織(Pedicle)を蹄壁内で切除して、これらをフラップとして断脚端の皮膚に縫合結合させます。(2)類似の術式では、断脚端の皮膚を5mmの隙間を残すように縫合糸で寄せてから、5x50mmのサイズの蹄枕および蹄叉真皮を蹄壁内で切除して、これらを断脚端の皮膚縫合線に取り込むように縫い付けます。(3)蹄部への感染が重篤な場合には、二回に分けての手術が必要になり、まず最初に、断脚端の皮膚を隙間ができるように縫合し、抗生物質含有PMMAビーズ(Antibiotic-impregnated polymethylmethacrylate beads)を感染部位に埋没させることで、二週間にわたって健常な肉芽組織(Healthy granulation tissue)の新生を促します。そして、十分な肉芽組織が形成された時点で、二回目の手術を行い、対側肢(Contralateral limb)の蹄叉に設けた正軸切開創(Axial incision)を介して、対側肢から蹄枕および蹄叉真皮を採取して、これを患肢の断脚端の肉芽組織内へと移植します。

繋部での断脚術では、術創の縫合後に管骨に二本のピンを通し(下記写真)、それをギプス素材に埋め込むことで、遠位肢の経固定具ピンギプス(Distal-limb transfixation pin cast)を装着させてから、その断端に金属製の仮義足(Temporary prosthesis)を連結させます。この際には、二本のピンを30度の角度でずらした方向に設置することで、ピン穴が位置する骨単位(Osteon)の走行軸が異なることになるため、ピン穴のあいだに亀裂を生じにくく、経固定具ピンギプスの破損や管骨の二次性骨折(Secondary fracture)を起こす危険を減少できると考えられています。また、麻酔覚醒(Anesthesia recovery)に際しては、吊起帯(Sling)もしくはプールを用いての、起立補助を行うことが強く推奨されています。

術後には、経固定具ピンギプスを一ヶ月ごとに交換し、合計で三ヶ月間装着する指針が推奨されており、その後には、断脚端の蹄叉組織が完全に再構築(Remodeling)されるまでは(一般的に三〜六ヶ月を要する)、通常の遠位肢ギプス(Standard full-limb cast)の装着を継続させます。断脚端の良好な治癒が完了した後には、管部から遠位側を覆う義足の装着が行われます。義足を作成する際には、ギプス素材を用いて遠位肢の型取りをし、その鋳型(Template)に基づいて、プラスチック製の義足を作成し(頭側および尾側カップに分離される)、管部にバンドで締めるようにして装着します(下記写真の左)。ギプスの内面は柔らかい発砲素材で覆い、ギプスの底面には金属製またはプラスティック製の蹄鉄がネジで取り付けられます(下記写真の右)。
繋部での断脚術では、その予後は中程度で、症例報告では四割〜六割の長期生存率(Long-term survival rate)と、二年〜三年の延命が期待できることが示唆されていますが、義足手術から12年間にわたって生存した症例もあります(Vlahos and Redden. EVE. 2005;17:212 & Vlahos et al. Proc AAEP. 2010.56.187)。また、前肢よりも後肢のほうが、繋部での義足手術による予後は良い傾向にありますが、一方で、気難しい馬の多いサラブレッド種に対する義足手術では、他の品種に比べて予後が悪いという報告や、高齢馬よりも若齢馬のほうが術創の治りが早く体重も軽いので、義足手術には向いているという知見もあります。繋部での断脚術における術後合併症(Post-operative complication)としては、経固定具ピンギプスの装着に起因する致死性管骨骨折(Catastrophic cannon bone fracture)およびピン穴部での腐骨形成(Pin-hole sequestrum)、対側肢の負重性蹄葉炎(Support laminitis)、褥瘡(Decubitus ulcers)などが報告されています。

Photo courtesy of Grant BD. Limb Amputation and Prosthesis. In: Current Techniques in Equine Surgery and Lameness. 2nd ed. W.B.Saunders. 1998: pp463-468; Krpan MK, et al. Amputation of the equine limb: a report of three cases. Proc AAEP. 1985; 30: 429-444; Kelmer G, et al. Case report: Amputation and prosthesis in a horse: short- and long-term complications. Equine Vet Educ. 2004; 16(5): 235-241; Vlahos TP, et al. Tutorial article: Amputation of the equine distal limb: indications, techniques and long-term care. Equine Vet Educ. 2005; 17(4): 212-217; Vlahos TP, et al. How to perform amputation of the equine limb using a caudal flap technique. Proc AAEP. 2010; 56: 187-191.
関連記事:
馬の診療:義足手術 その1
馬の診療:義足手術 その2
馬の文献:義足手術(Koger. 1963)
馬の文献:義足手術(Koger et al. 1970)
馬の文献:義足手術(Evans. 1978)
馬の文献:義足手術(Krpan et al. 1985)
馬の文献:義足手術(Crawley et al. 1989)
馬の文献:義足手術(Kelmer et al. 2004)
馬の文献:義足手術(Vlahos and Redden. 2005)
馬の文献:義足手術(Vlahos et al. 2010)
義足の馬、モリーの物語
義足の馬、モリーの来訪































